第7話 初めてが叶う

 あの時、俺が実梨と先輩が話しているところを見て嫉妬した。あの後の部活対抗仮人競争で本当に実梨のことを誘い、わざわざ手を繋いでまでゴールしていた。


「違ったらごめんね。でも、もし実梨ちゃんが好きなら応援するよ」無理した笑顔は辛そうだ。


 実梨を好きだと知られたくないから、その言葉は無視した。


「気持ち、伝えてくれてありがとう」

「私こそ聞いてくれてありがとう。伝えられてよかった」


 河田さんはバスケ部の練習があるからと、そのまま体育館のほうへ向かった。

 俺はもう帰ろうと、2年生の教室に荷物を取りに戻った。いつの間にか外は雨が降っていて、教室内にまでその音は響いていた。でも折り畳み傘を持っていたから特に不安はない。

実梨の机を見ると、まだ鞄が置いてある。今日は陸上部がない日だから、職員室に用があっているのかもしれない。


ガラッ 不意に教室のドアが開く。


 視線を向けると実梨がいた。目を見開いて俺の顔を見る。学校内で目が合ったのは初めてだ。実梨はすぐに帰ろうとしているのか、ドアを開けっぱなしにして自分の机まで足を運んだ。俺がこんなに近くにいるのにもう目を合わせないし、声をかけようとする様子もなかった。

 このまま何もせずにいていいのか。今まで声をかけようとしてできなかった俺のリベンジがここでできるかもしれない。一緒に帰ろうって誘ったら、いいよって言ってくれるかもしれない。今しかないかも。

 そう思ったら身体が勝手に動いていて、帰り始めようとした実梨の腕をつかんだ。驚いたように俺を見て、少しだけ口を開けている。


「……一緒に、帰らない?」


 実梨と出会ってから10年以上の月日が経ち、今日初めて声をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る