第6話 体育祭の記憶
「河田!!」
1学期の体育祭は、学年別女子選抜リレーで怪我人をだした。何人かの女子と先生に囲まれている中、俺はその中に割って入る。すると体育座りで出血した足に手を添えている河田さんがいた。
本部に移動させてから手当をしようと判断し、彼女の腕を俺の肩に回す。
「本部まで行こう」
「う、ん」声を出したら泣きそうだった。
本部には、すでに消毒液がしみ込んだガーゼと絆創膏が用意してあった。
河田さんの様子を見ながら丁寧に血を拭きとって大きな絆創膏を貼ると、もう泣きそうな顔はしていなかった。初めて人に処置したうえに最後まで処置できたから嬉しかった。
「あ、ありがとう。澤田君」気のせいか頬がほんのり赤い。
「いや、無事でよかった」
「……ね、澤田君。体育祭が終わった後……」
パァン! ピストルの音がして校庭に視線を向けると、3年女子の選抜リレーが始まった。よく見ると、陸上部の実梨がスタートの合図をしたのか、膝を曲げてピストルを小さな黒い鞄に片し始めている。
「実梨! 部活対抗の借り人競争に出るんだって?」
「陸上部なので。先輩も出るんですか?」
「サッカー部なので」
俺の知らない先輩が実梨のそばによった。先輩の髪は実梨と同じ茶色に染められていて、根本がしっかり立ち上がったセンター分けは毛先までしなやかに伸びている。
「好きな人って題が出たら誘うから」
「またそんな冗談言って~」
「ははっ。冗談じゃないけど? 他の男に誘われても行くなよ!」
仲がよさそうに話していた。
あんな風に、もう俺には向けてくれない笑顔をその人に向けているんだと思うと悔しくて思いきり拳を握った記憶がある。
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