第2話 好きの理由_Ⅱ
「ワックスつけておシャレしようとか思わないの?」
「ないね。ワックスって校則違反だよな」
最近の中学生男子はシャレた人が多い。韓国スタイルが流行っていて、一部の男子は髪型をアレンジして学校に来ている。けど、男子たちが先生にワックスを使っていることがばれて反省文を書くようにと注意されているところを見かけたことがあった。
「かっこよくなりたいんだよ。好きな人に見てもらいたいって言う人もいるし」
「はぁ」わからない。
「佑樹には好きな人いないの?」
いない、と言うつもりで口を開けたのに何故か言えなかった。俺の中で迷いがあったからだ。好きな人と聞いて真っ先に思い浮かべたのは目の前にいる実梨だけど……。
「わからない」視線を落として、そう言うしかなかった。
「ふーん」興味があるのかないのかよくわからない応答をされる。
沈黙が続いたから、俺は目を瞑って大人しく終わるのを待った。
数十分経つと、終わったのか俺の肩に両手を乗せて息をつく。
「佑樹~。終わったよ」
「ん。ありがと、う……?」目を開いて鏡に映る自分を見る。
誰だと思ったら、俺だった。短い後ろ髪はさっぱりしていて、眉毛の少し下まで切られた前髪は右側に少し流れている。
「んー、これならおシャレしなくても高校でモテちゃうね……」どこか不満そうな顔だ。
「俺にはモテてほしくないって意味に聞こえる」
「そうだよ?」少し声のトーンが沈んでいた。
身体をひねって後ろを向くと目が合った。今までは前髪ではっきりは見えていなかった実梨の目が、インターホンの画面越しでもなく目の前ではっきり見える。もう少し近づけばキスできそうなくらいの距離で、微妙に緊張する。
「なんてね。冗談!」おでこにデコピンをされて、少し痛かった。
あそこで目が合った時が、実梨のことを好きだと思うきっかけになったと思う。
高校に入ってからは教室も離れ、電車内で見かけても、廊下ですれ違っても、目を合わせてくれなくなったから声をかけられなかった。今年、同じクラスになっても変わらない。
どうして実梨は俺と話さなくなったんだろう。
俺の好きな人は何を考えているのかわからない。
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