嫌いじゃないよ
久瀬ゆこ
第1話 好きの理由_Ⅰ
実梨が好きだと気づいたきっかけは、中学を卒業した次の日だった。
ピーンポーン__インターホンを覗くと、実梨が立っていたからすぐに返事をした。
「今行く」
長い前髪が目に入って痛い。目をこすりながらドアを開けると、クッキーの匂いがした。
「卒業祝いにお母さんとクッキー作ったんだ~。作りすぎたからわけに来たよ」
「ありがとう」
「佑樹、花粉症だったっけ?」
「いや、前髪が目に入って……」
中学時代の俺は前髪が目にかかるくらいで、後ろ髪も肩にかかるかかからないかくらいの長さで手入れをしていなかった。わざわざ散髪屋に行くために歩きたくない。
そんな清潔とはいえない俺の隣を歩いて声をかけてようとする人は実梨しかいなかった。
「仕方ないなぁ、私が切ってあげる」
勝手に家に入り込んで2階にある俺の部屋に入ったと思ったら、そこらへんにおいてある新聞紙を全身鏡の前に敷いてその上に椅子を設置する。でもすぐに1階に行って、俺の母さんから髪を切る時に身体にまとうカットクロスとすきばさみを借りて、一人で手に持ってここに来た。
「前髪ぱっつんのきのこ頭にしてあげる」
バナナマンの日村さんを想像した。俺にその髪型は合わない気がする。
「……ふっ」実梨は想像したのか鼻で笑った。
「真面目にやってよ」
「はいはーい」
俺は椅子に座ってカットクロスを身にまとう。準備ができると実梨は俺の髪をばっさり切りだした。
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