夏は、これから

CHOPI

夏は、これから

キラキラと光る夏の太陽。

なんて言えば聞こえはいいが、

実際は容赦ない太陽光は視覚的にも温度的にも暴力的で、

さっさと夏なんて終わってしまえなんて思う。

そのクセ、ふとした瞬間にこのまま時が止まればいいのになんて、

だいぶご都合主義なことを考える時がある。

それは例えば、こんな時だ。


「もうすぐ夏だねー。」

いつもの学校帰り、帰宅途中にある小さな公園のベンチに座って、

いつものようにどうでもいいことをなんとなく話す。

茹だる暑さの中、隣で笑いながら話しかけてくるキミは、

汗をかいているのに何故か涼し気な顔で笑っている。

その手にある僕とお揃いの水色のソーダアイスは、

すごい勢いで溶けていくというのに、キミはマイペースを崩さない。

むしろ見ているこっちがいつ落ちてしまうかとハラハラしているのに。

「いや、もう夏でしょ。」

実際、梅雨明け宣言がされて、

もう初夏……いや気温的には早くも猛暑日なんてものになっている。

夏特有の熱中症注意喚起もここ数日で頻繁に見かけるようになったし、

なんなら熱帯夜予報も出てきた。夏、がやってきたのだと、思わざるを得ない。

先にアイスを食べ終わった僕は、なんとなしに手持ち無沙汰になって、

棒を口に咥えて上下の歯を擦り合わせるようにする。

間に挟まっている棒が上下に揺れるのを、キミは目元を細めて見ていた。

「まーたピロピロ~ってやってるー。」

「いいだろ別に、暇なんだよ。」

誰のアイス待ちなんだよ、なんて、思った。別に言わないけど。

1口、またひと口と食べるそのペースは相変わらずで、

でもそれを見ているとなんとなしに砂時計のようだと思ってしまった。

僕とキミが2人で過ごしている、その残り時間を示しているような気がして。

そんなふうに見えてしまった途端、

今度はできるだけゆっくり減っていくことを期待しているあたり、

僕はだいぶ自分勝手なんだと思う。

「ねぇ?」

最後の一口、を残し、キミは唐突に僕に言った。

「最後の一口、あげようか?」

――関節ちゅー、だけど。

「……は?」

カラン。棒が口から落ちてしまったけれど、そんなことを気にする余裕は無かった。それよりも、今言われた事の意味ががよく分からなくて。

相当な間抜け面をしていたのだろう、こっちを見たキミは、それは見事に苦笑した。

「ばーか、冗談だよ。」

そう言って、キミは最後の一口を口に含んだ。

僕はといえば、ようやくさっきの言葉が理解出来たところで、

同時に砂時計の砂が落ちきってしまう最後の様子を見ている気分になった。

そこで浮かんだのは、自分でもよくわからないモヤモヤした気持ち。

……冗談、て、なんだよ。

モグモグと咀嚼している口元はちょうどよくすぼまっていて、

吸い込まれるようにその口元を掠める。

僕の方が早く食べ終わっていたはずのソーダアイスの味が、

微かにだけど確かにもう一度感じられて、頭の片隅で、あぁ、甘いなぁ、

なんて他人事のように思った。

ほんとに一瞬だけ重なった唇。

顔をすぐに離してキミの顔を見てみると、

今度はキミの方がびっくりするくらいの間抜け面。

でも、それすらも可愛く見えてしまうなんて、夏の暑さにやられたんだろうか。

それからみるみる間に真っ赤になっていくキミの顔を見ていて、

ようやく自分のした事が理解出来た僕は、キミにつられて真っ赤になった。

お互い顔を背けたものの、すごく恥ずかしくてどうしようもないくせに、

それでもキミに「帰る」、なんて言われたくはなくて。

横目で確認しながらキミの手を絡めとる。

握った掌が握り返してきたのがわかって、まだ、もう少し、そう思った。

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