第10話 灰魔

眠りについた伯亜はくあは不可思議な夢を見た。先ず視界に入ったのは灰色の床だった。目線を上げるとそこには十メートル程の長机がある。卓上には灰炎の煌く蝋燭が等間隔に置かれ、左右にそれぞれ五つ、椅子が置いてある。更に伯亜の正面には一人の男が左右の椅子よりも大きく、尚且豪華な椅子に座っている。その男の虹彩は赤く、瞳孔は蛇の様な形をしていた。更に伯亜の灰炎の様な灰色をした和服に身を包んでいた。



「此処は何処だ?ってかアンタは誰だ!」

伯亜は慌てて身構える。しかし、神具ユナイトを掴もうとしたその手は空を切る。

その様子を見て男は伯亜を鼻で笑って言う。

神具ユナイトを所望か?残念だったな」

神具ユナイトは何故か男の座る椅子に立てかけてある。

「なんで?」

「そんなの簡単だ。此れは我のモノだからだ」

「ならお前はあの時の?」

「ああ、そうだ。だがこれ以上お前の質問に答える義理はない」

そして、長い袖から青白い腕を出して言う。

「問うのは此方側だ。お前は何故、悲哀に満ちている?」

「何故って…そりゃ両親が死んで悲しくない奴なんかいるか?」

「違うな。お前はそんな奴では無い」

「そ、そんな事はない!俺だって俺なりに悲しかったんだ!」

両親の惨殺死体を見た時に泣けなかった自分を否定するかの様な強い口調で答える伯亜。

「そうか…。お前はどうやら勘違いをしている様だ。では試してみようか。お前が人死を見て哀哭出来るのか」

そう言うと男は掌で灰炎を瞬かせる。

濃い灰の匂いが伯亜の嗅覚を刺激する。


突然、頭の中に不思議な映像が流れる。

先ずは惨殺された両親。次に腹部を刺され、倒れこむ男。次に内臓や胎児を腹部から引き出されて倒れている女。

男は伯亜の頭に次々と殺害された人の映像を流した。そして最後に映ったのは頸だけ残った女だった。


「もう止めてくれ!」

耐えきれなくなった伯亜は思わず叫んだ。

そこで映像が途切れ、意識が元の空間に戻る。戻った直後、強烈な吐き気が伯亜に襲いかかる。

「うッ!ごえッ!」

酸味を帯びた胃の内容物が口外へと溢れ出す。

「穢い穢い。此処は神聖な場だぞ?穢すでないわ。」

そう言うと伯亜の足元に溢れる内容物が灰炎に包まれ、塵となる。

「お前がその程度の奴とはな。心底、落胆したぞ。しかし哀哭は出来なかったな。哀れな者よ。まあお前は見ていて退屈はしない」

「あ?」

伯亜は口元に滴る胃酸を拭うと態度を一変させ、男を睨む。

睨まれた男は奇しくも笑い出した。

「まるで水を得た魚だな。矢張りお前は人の死を見てこそ、その真髄を発揮する様だ。先程よりもよっぽど良い目つきだぞ」

「何が言いたいんだよ!手前ェ!」

「お前の両親がもっとまともにお前を育てていれば、お前に巻き込まれて、死なずに済んだというのに。本当に哀れな輩だ」

「あの人達を馬鹿にするな!」

長机に飛び乗り、男に向かって駆け出す伯亜。

拳を強く握り締め、男に殴り掛かる。

男は椅子から立ち上がる。戦闘に邪魔な椅子は灰炎に呑まれて消えた。

伯亜の打拳パンチを軽く弾き、手首を掴む。

「因子が込められていない。実に軽い打拳だ。打拳とはな、こうやって撃つのだ!」

手首を掴んだままの伯亜の鳩尾に拳を減り込ませる。

「あがッ!」

伯亜は男の背にする壁に打ち付けられ、床に落ちる。

呻き声を上げながら床に這い蹲る伯亜。それを見て呆れる男。

「阿呆が。そこで大人しくしておれ」

呻き声を止ませた伯亜は笑っていた。

「ふッ。手前こそ阿呆だ。たかが子どもの演技に騙されるなんてな」

男は瞠目して勢いよく振り向き、伯亜に手を伸ばす。しかし、そこにはもう伯亜の姿は無かった。

男の手が空を切った直後、神具ユナイトが男の前腕を斬り落とした。

「くっ!」

「ホントに馬鹿だな。あんな打拳パンチ偽業ブラフに決まってんだろ?手前は所詮高みの見物野郎って訳だ。それだけで強くなった気になりやがって。少しでも下人の見物を楽しめたかよ?」

「ああ、実に滑稽だったさ。お前も水虎如きの卑俗な妖魔に勝った位で図に乗っていたのだろう」

男は腕の傷口を灰炎で塞ぐ。

「仕方が無い。お前の惰弱さ思い知れ!」

そう言うと男は伯亜に向かって飛翔する。

伯亜は向かってくる男を目掛けて一閃振るう。だが男は身を屈めて回避する。男は屈んだまま片足を軸に体を回転させ、残った片足で伯亜を蹴る。

先の打拳パンチの様に鳩尾に蹴りが減り込むかと思われたが、伯亜は神具ユナイトの柄でそれを防ぐ。

「チッ」と舌打ちをした後に悪態をつく。

「面倒だな。お前は実に煩い」

その言葉を聞いた伯亜は男にある問いを投げかける。

「じゃああの時、なんで俺に力を貸した?さっさと見捨てて殺させれば良かったろ」

男は顎に手を当てて、考え込む。

「うむ、確かにその手もあったな。だが、お前にはどうでも良い話だ」

気が付いた時には男は伯亜の眼前に掌を向けていた。そして、掌から灰炎を瞬かせ、伯亜に浴びせる。

灰炎を浴びせられた伯亜は白目を向いて膝から崩れ落ちた。

薄れゆく意識の中で伯亜は男の声を聞いた。

「お前は只々、この世界に抗い続ければいいんだよ」


伯亜は再度、目を覚ます。

伯亜は男によって椅子に拘束されていた。


「少しは頭を冷やしたか?」

男が伯亜に問う。

「冷やすどころか熱されてボヤけてる」

伯亜は答える。

「それより此処はどこなんだよ」

「此処はお前の中の【幻想心疆マーヤ】と呼ばれる空間だ。幻想心疆マーヤは肉体と精神の狭間に存在している仮想空間そのものだ。して、我はそこに住み着くモノということだ」

「じゃあそこに住み着くモノ。何て呼べばいいんだ?」

「うむ。そうだな...."グレイ"とでも呼べ」

「何か洒落臭え名前だな」

男の伯亜は洒落臭い名前に不服な表情を浮かべる。

「ってか!なんで縛られてんだよ!」

伯亜は思い起こす様にグレイを怒鳴りつける。

「仕方があるまい。又、暴れられては困るからな」

「誰のせいで暴れてたんだっけッ!」

「さあな。記憶にない」

「なあグレイ。お前は何がしたかったんだよ?」

「ただ、試したかっただけだ。気分を害しただろう。済まなかった」

「なッ!」

唐突に素直になったグレイの様子に少々驚愕する伯亜。

「決して、敵対したい訳では無いのだ。理解してくれ」

グレイの態度の変化具合に伯亜は少々恐怖を感じた。

(なんだコイツ。気持ち悪ぃ)


「あのさ、グレイ。一つ聞きたいことがあるんだ。神具ユナイトについて詳しく教えてくれないか?」

伯亜は訝しげな面持ちでグレイに問う。

「良かろう。神具ユナイトは正式には八岐之神具やまたのしんぐと書いてユナイトと読む。それが出来たのは今より千年以上前の話だ。その時代は死胎ネクロの最盛期であった。死胎ネクロの暗躍に妖魔共は大戦を仕掛けたのだ。その名も『百鬼夜行』。またその筆頭が【八岐之大蛇ヤマタノオロチ】。八つの頭と尾を持つ最強格の妖魔だ。八岐之大蛇は大戦に備え、八体の神を喰らい、力をつけた。しかし妖魔軍は敗北した。敗北といっても惜敗であった。死胎ネクロの主は半分の力を失い、八岐之大蛇はその場で命を落とした。八岐之神具ユナイトはその亡骸から発掘された神具なのだ」

「何でそんなモンを残したんだ?」

「自分達で成し遂げられなかったのだ。後世に、人間達に力を託したのだよ。それと神具ユナイトとは別でもう一つ。わかるか?」

異能イビルのことか?」

「そうだ。神具ユナイト異能イビルとの併用でその真価を発揮するのだ。処で小僧。お前自身の異能イビルについて」

「そういえば詳しくは知らないな。名前とかあるのか?」

「名は、〘忌灰月炎きかいげつえん〙。この世の全てを毀壊きかい〉する異能《いのうである」



リビングのソファで踏ん反り返り、高笑いをするクレイン。その手前で胡座をかき、自分の出した握り拳を握り締めて、悔しがる蓮我。クレインはソファから立ち上がり、冷蔵庫まで駆け寄る。そして、冷蔵庫から取り出したのは"プリン"だった。


「アッハハッ!自分の出した"グー"を後悔しなさい!蓮我!」

「うっせぇ、黙ってろ。今、それの最中だ」


その一部始終を傍らで見守る他三人。


そこへ隊長が顔を覗かせ、声を掛けた。

「皆さんちょっといいですか?」



固定電話の置かれた事務席に肩を並べる五人。その向かい側に座る隊長。そして、隊長が口を開く。

「光国人の二人、特に伯亜君を隊に入れる事、どう思いますか?皆さんの見解を聞かせて下さい。」

「私は隊長の判断を賛成で〜す」

クレインが暢気に返答する。それに頷く経とカブト。

「多数決ならもう決定ですが、二人はどうですか?」

「我は特に何方とも言わない。」

ボアは静かに答える。

そして光国人を忌み嫌う蓮我に順番が回る。

「俺も何も言う気はないです。唯、彼等が使えるなら、それで良し。使えないなら捨てる。何せ俺は光国人が嫌いなので。だが、経とクレインの話を聞くに彼等が光国の屑共とは多少は違うのは分かりましたし。それも含めた折衷案です」

隊長にも圧を掛ける様に高圧的な態度で答える。

「それは異国蔑視に取れますが?」

隊長も負けじと返す。

「そうですね。しかし光国の屑共もそれなりの事を俺達にしてきましたからね。そもそも、俺達の先祖は光国の屑共に迫害されて、影国に永住する事になったのですから」


蓮我の言う通り、数百年前に異能者イビラーは異能蔑視を受け、影国に追いやられている。そのせいで、影国人の中には今でも光国人を忌み嫌っている。


「学校の様な学び舎は光国も影国もありますが、影国では心の成長を光国では技能の成長に重きを置いていますし、そんな事ばかりしているから屑が大量生産されるんですよ」

眉間にシワを寄せながら不快そうに毒づく蓮我。


クレインは頬杖を付きながら頭の中で

(また始まった。下に【※個人の見解です】って出しとか無いとコンプラに引っ掛かりそうね)と呆れていた。


「だから、伯亜と蒼は7ヶ月後の『千紫万紅せんしばんこう』までに幾つか任務に出て貰って、使えると判断すれば、そのまま隊の一員として迎える。それでいいですよね?隊長。」

蓮我の言葉を聞いて隊長は真意の読めない笑みを浮かべ、「ええ、それで構いません。活躍させれば善いのですね?その為には蓮我にも彼等の教育に付き添って貰いますよ」と言った。

「無論。隊長のめいとあれば」



光国人の新人二人、特に伯亜に対しての話し合いは蓮我の言葉を以って終結した。


「ねぇ、隊長。なんで蓮我の条件呑んだの?」

クレインは部屋への帰り道で隊長に問う。

「彼等は水虎、そしてそれぞれユナイトに選ばれた人間であり、私達が教育するのですから活躍は必然でしょう」

隊長は暢気な言葉で返答する。

「それに伯亜君のイビル。あれは光国に野放しにしておくには危険過ぎる。もし暴走でもされたら大変な事になりますからね」

声色と表情を一変させる隊長。隊長は更に続ける。

「私の予想だと、彼の炎はイビル因子に反応して発火する〘白炎〙とイビル因子を含まない物は何でも燃やす〘黒炎〙をミックスしたモノだと考えいます」

「もしそれが暴走したとしたら…?」

クレインは唾を飲み込んで問う。

「この世の全てが焼き尽くされるでしょう。かつての起きた大災害、『灰魔誕生グレイバース』の様に」

隊長は顔色を曇らせて言う。


『灰魔誕生』

それは現在から十七年前に影国北部に位置する黒都の更に北東に在る灰都で起きた大火災。灰都の中心から灰炎の爆発を初め、一瞬にして辺りを焼け野原へと化した三大事件の一つである。火災の前日に爆破予告があった為、住民の避難を迅速に進め、被害者を出す事はなかった。火災の際に宙に舞う灰色の悪魔の様なモノの目撃情報が相次いだ為、その事件は『灰魔誕生』と名付けられた。その姿は証言者によって異なり、腕が二対であったり、鳥の様な翼を持っていたり。又、蛇の頭の様な尾を持っていたりと様々。

そして、灰魔グレイの炎は未だに消える事無く燃え続けている。



「炎系の異能イビルですら珍しいのみ…。更に珍しい灰色の炎なんて…。もしかして伯亜が灰魔誕生の犯人なんじゃ…。」

「流石にそれは有り得ないと思います。何せ彼はつい最近高校受験を受けたばかりです。義務教育なので留年も有り得ない。まず十七年前には産まれてすらいない」

「ですよね〜。私だってその年に産まれましたし。」


「あッ!」

突然何か思い付いた様に声を上げるクレイン。

「もしかして伯亜の前世…とか?」

「それも無いと思いますよ…。」

呆れた声で答える隊長。




 翌日

伯亜は目を覚ました。その身の側に謎の温もりを感じて。

「ん…?さっきのは夢か?」

ゆっくりと開かれたその目には何故か上段で寝ている筈のそうの姿が映った。

「な、な、何で?」

動揺した伯亜の台詞。それを聞いて蒼は目を擦りながらその身を起こした。

「お早うございます。伯亜さん」

「お、お早う。それより何で?」

「え?だって言ったじゃないですか。『俺には君が必要だ』って。伯亜さんにはボクが必要なんですよね?ボクもすっかり伯亜さんの虜なんですよ。だからボクのモノになって下さい♡」

伯亜は逃げようとするも、蒼が手前に寝ていたため出ようにも出れない。

蒼の端正な顔が徐々に近付く。目を瞑る伯亜。しかし、蒼の顔がそれ以上近付く事は無かった。

地縛操蟲糸じばくそうちゅうし。伯亜がそういう趣味じゃなくて、蒼がそういう趣味だったんだね〜」

納得した様なクレインの声。

「ありがとうございます。クレイン先輩。」

「いや〜、先輩だなんて照れるな〜」と後頭部を掻くクレイン。

「別にそんな奴ア"ホ"クネって呼んどきゃいいのによ」

クレインの後ろから蓮我れんがの声がする。

「誰がアホクネよ!」

「だってお前阿呆過ぎてアラクネからアホクネに改名するって聞いたぜ?」

「誰がだよ!誰から聞いたのよ!」

昨日と同じテンションで言い合う二人。


「あ、蓮我さん。お早うございます。」

「お早う、と言いたいとこだが、生憎"おそよう"だ。もう十時過ぎだぞ。まあ無理ねえけどさ。何せずっと夜みたいなもんだからな」

窓の外の暗闇に目を向けながら蓮我は言った。

伯亜も窓の外へ目を向ける。外ではエリスとボアが戦闘訓練をしていた。

「彼等はもう訓練してる。お前等の担当は俺とそこの阿呆だ。宜しくな」

「は、はい!宜しくお願いします!」

「まずは外に出るぞ。身支度しろよ」


伯亜は歯磨きと洗顔をしてから外へ向かう。

「身支度も立派な活動の一つだ。身だしなみも整って無い奴に自分の命を預けようなんて考える馬鹿は居ねえからな」

確かにと伯亜は蓮我の言い分に納得する。


廊下の窓からは昨日蒼、そして水虎と戦った廃ビル街がよく見える。その反対側の窓には、廃ビル街の正反対に街灯に照らされたオフィスビルが甍を競う様に建ち並んでいる。黒鋼の亀甲のアジトはオフィス街を背に廃ビル街に向かう様に立地している。

窓から覗いたそのオフィス街は昨日と違って賑やかであった。

「昨日より賑やかですね。」

廊下を歩きながら蓮我に話し掛ける。

「昨日は"特例措置の避難勧告"を出してたからな。」

「"特例"?」

「ああ、お前等の討伐したネクロは違うが、俺と隊長の討伐したネクロは『思考種』 だったからな」

「思考種?」

「ネクロの中には何体か生前の思考をそのまま受け継いだ、所謂、突然変異種ミュータントだ。通常のネクロなんかよりもよっぽど強い。自分の頭で考え、会話が成立する程高い知能を持つネクロだ。更に一部は組織化しているという説もある。それ程生前の人間に近いってことだ。この前見ただろ?虹都こうとでよ」


「ねえ、蒼ちゃんがそんなに不満なら私が伯亜の代わりに付き合ってあげてもいいのよ♡」

「断ります。ボクは伯亜さんに"しか"興味はありませんので。それか貴女"なんか"に伯亜さんの代わりが務まるとでも?」

蒼とクレインは道中そんな会話を展開していた。


「じゃあ俺は伯亜を教えるからお前は蒼な。」と言う蓮我に縋り付くクレイン。

「ねえ、変わってよ…。あんな会話しちゃったから蒼ちゃんとやり辛いよ〜。怖いよ〜」

「知るかッ!勝手にやったんだろが!」と足蹴する蓮我。

足蹴にされ渋々蒼と離れて行くクレインの背中には覇気は無かった。



「伯亜。よく見とけ」

そう言うと蓮我は廃ビルの側の曲がった鉄筋を含んだ瓦礫を一つ伯亜の目の前に置く。そして腰のベルトから下げた細い棍棒を取り出して瓦礫に打ち付ける。

「これが"軌跡爆アフターグロウ"だ!」と指を弾く。その後、瓦礫の表面が爆発し、粉砕された。


今度は外壁の剥がれかけたボロボロのビルに前に蓮我は立った。

瞳を閉じて、独りでに喋り始める。

「陰鬱なる曇天を晴らす閃光の火種。火種は爆火に成るまで燃えたぎる。"連々起爆 軌跡爆アフターグロウ"」

そしてビルの鉄骨を叩く。ビルは先の爆破よりも激しい爆発に包まれて崩壊する。

「え!?いいんですか!?ビルぶっ壊しちゃって」

「これはウチの隊に撤去の依頼が来てるビルだから問題は無い。で、今のは」

「厨二病ですよね?」

蓮我の言葉を遮った伯亜の台詞。

「ちげーよ!これは『異能前行』つってイビルを発動する前にする行為でさっきの『詠唱』や『技名』を叫ぶのもそれと同じだ」


「で、さっきの技がイビルに於ける基本的な技『軌跡撃アフターグロウ』だ。経とクレインの話を聞くにお前も多分簡単に出来るだろ?」

「は、はい。多分。やってみます」

そう言って蓮我の前に立って神具ユナイトの刃を抜き、足元の瓦礫に狙いを定める。

「はっ!」と気合いと共に刃を振るが、当然、相手は石製の瓦礫。切れる筈も無く甲高い音を立てて弾かれる。蓮我の真似をして指を弾く。しかし、灰炎が発火することは無かった。念の為ともう一度指を弾くが、矢張り発火は起きなかった。

「やっぱりか…。キツイな」

蓮我の溜め息混じりの一言。

「え!?キツイんですか?」

「まあ、俺は打撃で発動出来るが、お前は斬らなきゃいけないみたいだからな。殴るより斬る方がどう考えたってムズいだろ?俺は棍が無くてもぶん殴りゃあ大丈夫だが、お前はその刀がねえと駄目だろ?」

「確かに…」

「じゃあ先ずは剣技の訓練からいくか?」


それから四ヶ月間の稽古をし続け、遂に初任務の日となった。


アジトの中庭に伯亜とエリスが集められ、その前にクレインと蓮我、そして黒瑠が立つ。

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