第3話 嫌陽する者達

日の光が熱く、眩しい。この二つの悪条件がただでさえ、腹立たしい今の現状に油となって降り注ぐ。

俯いても制服のボタンに反射し、伯亜はくあの目に無理矢理入り込んでくる。

「近頃、自然災害の件数が半分にまで減少していますが、 それについて、岩本さん。どうお考えですか?」

街に並ぶ建造物に映され、流れる二ュースの音が普段より耳障りでならない。

受験の失敗、両親の嘘、学校での偽り、これらに因って伯亜の心は限界を迎えている。いや、とっくに限界を超えていたのかもしれない。これまで溜め込んでいた幾つもの不満や怒り、懸念が溢れ出した。

(なんで受験なんてものがあるんだろうか?社会で生きていける力を身につける為?社会の為に役立つことが出来ない人間は要らないのか?役立つことが出来ない人間は生きてはいけないのか?死ねとでも言うのか?)

その時卒業式で校長が言っていた三つの約束を思い出した。

一つ目?『一日一笑』?こんな社会じゃ一日に一回も笑えやしない。

二つ目?『不幸の押し付け合いはしない』?不幸を押し付けられる相手なんかいない、両親?あんなの両親じゃない、赤の他人だ。

三つ目?『今ここにいる生徒や教師などの仲間との絆を忘れない事』?…ふざけんな!何が絆だ…アイツらとの絆なんか何もない…。

何が『これらの三つの事を守って生きていればきっと大丈夫だから、この世界で生きて行ける。この世界は君達の思う程暗くありません。もっと明るいです』だ!三つの事を守ればって守りたくても守らせてくれないじゃないか。なんでこの社会は俺にこんなにも優しくないのか


せめて、日の光はあたたかく、優しく俺を包み込んでくれると思っていた。しかし、その考えも甘かった。日の光はじりじりと肌を焼き、蝕んでいく。そして、こうやって考えている間にも太陽の熱は無慈悲にも猛威を振るう。暑さでどうにかなる前にこの暑さをどうにかしなければ。その時少し幅の広い路地裏が目に止まった。そこで日が落ちるまで身を休めようと歩き出した。

日陰に入った。暗く、冷やか、でも優しい冷たさ。建物の間を生温い風が吹き抜け、頬をなぞる。陰の冷たさと相まって心地よい。肌を焼かれる感覚が消え失せた。

(これまでこれほどにまで日光を不快に感じたことはないのに…)

一安心していると、目が暗闇に慣れ、暗闇の中が良く見えるようになっていた。

暗闇へ目を凝らすと既にそこには先客がいた。


得体の知れない体長約二.五メートル程の怪物が雄々と仁王立ちで伯亜を見下ろしている。口元には下顎から二本の鋭い牙と今にも零れそうな涎。目は赤く、そして不気味に。まるで鬼火の様である。伯亜はその瞬間、死を覚悟した。

この世の存在とは思えぬその不気味で異様な姿に伯亜の体が恐怖に飲み込まれた。

怪物は右腕を振り上げる。とてつもない殺気。

その瞬間、伯亜は理解した。

(ああ、俺、死ぬんだ…。これが神様が用意した俺の運命シナリオなんだ…。)

怪物の剛腕が迫る。

(まあ別にいいか…。こんな社会に俺が生きていても誰も得しない…。必要ないみたいだし…。それに役立たない人間は要らないみたいだし…。こんな社会には俺も用はない。さっさと死んでお別れしたい…。)

伯亜は死を受け入れ、目を瞑った。


(本当にそれでいいのか?)

誰かの声が伯亜の頭の中で鳴る。

「誰?お前…」

しかし返った来たのは(まず、答えろ、本当にそれでいいのか?)という質問だけだった。

「何がだ?」

(本当にその選択で合っているのかと聞いている)

「嗚呼、もうこれで良いよ」

(ではお前がこの残酷な運命に抗えるだけの力があるとしたらどうだ?)

「はぁ?」

(この目の前の怪物を打ち払い生きながらえる力を持っていたら?)

「そんな力は無い。」

(嗚呼、そうだ。だから我の力を分けてやる。それに今、お前が抱いている不条理に対する怒りはお前の原動力になり、お前を突き動かす。それらを使って無様にも生きながらえろ。お前の命は自分で掴み取れ!)

その言葉を聞いた時、伯亜の心の奥底で何かを感じた。

生きることへの渇望、執着。

「生きたい…こんなふうに誰にも見取られずに死にたくない…誰が俺のそばにいてくれるか分からない…けど…だけど生きたい…生きていたい!」

(そうだよ…俺は本当は生きたいんだ…だから自分の人生は自分で掴み取る!)

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