第2話 堕れる日常
翌日…
今日は卒業式だ。受験の結果が気になってしまい、余り式には集中できなかった。覚えているのは卒業証書授与とか校長の長い長い話の後半位であった。
校長が後半で言っていた事は「君達にお願いしたい事が三つあります。一つ目は一日一笑。二つ目は不幸の押し付け合いはしない事。三つ目は今ここにいる生徒や教師などの仲間との絆を忘れない事。これら三つの事を守って生きていればきっと大丈夫ですから。この世界で生きて行ける。この世界は君達の思う程暗くありません。もっと明るいのです」的な事を言っていた。
合格発表当日…
今日は遂に合格発表当日である。部屋から出て一階へ向かおうとしたその瞬間、
「どうして言わないんだ!」と父の怒号が家中に鳴り響いた。
(何があったのだろうか?)
「まだ言わなくていいでしょ?」
「今のうちに言っておかないともしアイツが何かの拍子に気付いたらどうするんだ!」と激しく口論していた。
何で口論しているのか、伯亜は自分が何に気付くのかが気になり、更に耳をすませた。次に聞こえたのは母の台詞であった。
「拍子って何よ!何の拍子であの子が私達の子供じゃないって気付くのよ!」
「えっ…」
母の意外な言葉に思わず声を漏らした。母達の激しい口論のせいで伯亜の声は届かなかったようだ。
「もういい!」と、母が半ば強制的に会話を中断し、扉へ向かって歩いてきた。伯亜は慌てて隠れようとしたが間に合わず母と鉢合わせになってしまった。
「あっ…もしかして聞いてた?」と気まずそうに聞いてきた。
「うん…聞こえてた…」と普段よりきっと暗い声になっていただろう。
「朝ご飯用意してあるから…食べて」
「いや…いらない…」とだけ言い残し、伯亜は家から逃げるようにして家を出た。
(最悪だ…)
両親からの意図的ではないカミングアウトに加え、伯亜の受験番号である一零八番はどこにも記されていなかった。
(何が原因だろう。成績表だってそこまで悪く無かったはず、何か悪さなどをして怒られた記憶だって無い。典型的な優等生を演じていたはず…演じて?)
自分の思考に自然と浮かび上がったその言葉を布石として、ある女生徒のある言葉が脳内に浮上した。
(左上がりの笑顔ってビジネススマイルっていって作り笑顔なんだよ)
学校での伯亜は自分の笑顔のように自らが作り上げた虚像なのかもしれない。
突然、伯亜の体に鈍痛が走る。
誰かにぶつかられた感覚がしたので思考を中断し、現実世界へ意識を戻した。どうやら近くで合格した連中が屯し、騒いでいたようだ。
(こんな奴らに負けるとは)
半ば自分に呆れながら、ここに居てもどうしようもないとその場を立ち去った。
校門から出たとき、ふとある事を思い出した。
中学校の敷地内にある剣道場に竹刀や木刀などを置いてきてしまった事を。
それらを取りに行くためには学校へ行かなくてはならない。きっと学校では合格者が屯しているだろう。
正直、行きにくい。学校には不合格の連絡は既に入れていた為行かないことも出来たが、今日を逃すと、一、二年生達は春休みに入る。
春休みは部活が無いため、職員室に行って鍵を借りなくてはならない。不合格者である伯亜を見て教師達は一体どんな顔をするのだろうか。
想像しただけで気が滅入る。仕方ない。
伯亜は学校へ向かうことにした。
はあ〜と溜め息を吐き出し、学校へ向かった。
学校に着いて剣道場へ向かう途中で「伯亜?」と誰かに声を掛けられた。
(最悪ッ)と自分の運の無さを心底恨む。
無視する訳にもいかず、仕方なく振り返った。
伯亜に声を掛けてきたのは意外にも元人だった。
「何の用だ?」と少し脅すように低く言う。
「えっ…いや別に何か用がある訳じゃないんだけど、君…番号無かったよね?なんでここに?」
きっと嫌味を言おうとした訳では無かったのだろう。でも、その言葉は伯亜の気に触った。
「はあ?何だっていいだろ?お前に関係ない」と少し苛立ちを言葉に乗せて放った。
そして、くるりと踵を返してして剣道場へ歩みを進めた。
用を済ませ、さっさと帰ろうとしたとき、男子生徒達の笑い声が耳に届いた。
(何を話し、笑っているのだろうか?)
伯亜は気になって聞き耳を立てた。
「で、あいつなんて言ったと思う?『お前には関係ない』ってさ!ハハッ、落ちたなら家で大人しくしてれば良いのにわざわざこんなとこ来るから馬鹿にされんだよ!なんでそんなこともわかんねえんだよ」
「ホント馬鹿だよ」
「そんな無能だから落ちるんだよ」
伯亜の中に何かとてつもない負の感情が溢れ出した。
さっき思った『きっと嫌味を言おうとした訳では無かったのだろう』という言葉。前言撤回。いや、この場合は前"思"撤回と言うべきなのか。嫌味を言うつもり"しか"なかった。
こいつらとの絆は、学校での伯亜や伯亜の笑顔、そして両親との関係と同じ、"偽り"だったのだ…。伯亜はその場から立ち去ろうとして歩きだした。
そのときガラスに伯亜の顔が映った。その顔は皮肉にも、左上がりの不気味なそして偽りの笑みを浮かべていた。
日の光はあたたかくて、優しいという例えでよく使われている。
しかし、実際そうなのか?と俺は近頃よく考える。
日の光の暑さにやられて、体を蝕まれていると感じる者も少なからずいるのではなかろうか。そう。俺のように。
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