第5話疑惑

僕は公園でタバコに火をつけようとしていた。

「黒井川さんっ!」

走ってきたのは、部下の堀だった。

「黒井川さん、ここでしたか。探しましたよ。あっ、公園での喫煙はダメですよ!」

「なんで?」

「チビッ子が遊ぶ公園で、喫煙はいかがなものかと」

「僕はポケット灰皿持ってるよ」

「一応、辞めときましょう」

僕はハイライトを胸ポケットに仕舞い、尋ねた。

「堀君、なんの用?」

「今夜、時間外診察で訪れた男性患者の身元を確認したんですが、色んな事が判りまして。え~と」

堀はメモした紙を探していた。僕はため息をついた。

「え~と、男性患者の名前は夏木陽介38歳。職業はフリーのライターです」

「そいつに、何かあるの?」

「コイツは10年前に、傷害で逮捕歴があります」

「誰、痛めつけたの?」

「亡くなった、平坂さんです」


僕はハイライトに火をつけて、

「堀君、その事件の調書洗ってみてくれる?」

堀は、直立して、

「はっ!」

「僕はその男に会ってくる」

「黒井川さんっ」

「何?」

「タバコ、タバコ」

僕は根元まで吸ってからポケット灰皿に入れた。


病院に戻ると現場はだいぶ落ち着いていた。

「やあ、ワトソン君」

「あっ、黒井川さん」

「やっと帰れるね?」

「……もう、今夜は病院に泊まります。宿直室って結構、快適なんですよ」

「それはそれは、あっ、ワトソン君。今夜、夜間外来に来た30代の男の患者まだ、病院?」

「はい。意外とたちが悪くて、肺炎を起こしかけていたので、入院してもらいました。家に帰りたいって、スタッフに怒鳴り散らしていましたが、警察の方がうろちょろしているのを見て、大人しく今は寝ていらっしゃいます」

「ワトソン君ありがとう」

僕は、この夜は署に戻り、堀が調べている供述調書を調べに向かった。

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