第5話

普通は一か月と聞いていたのに。

つらいつわりは6か月も続いた。シャワーの水のにおいでさえ地獄。24時間船酔いだった。

6か月間に食べられたのは梅干しとおかゆとトマトだけ。

不思議なことに生まれてきた子は、梅干しとトマトとおかゆが大きくなっても好きだった。

年子の下の子の時は忙しいせいかつわりもなく、台所で立ちながらご飯を食べた。

生まれてきた子も何でも食べる子だ。


病院から赤ちゃんを連れて帰って、ベビーベッドが例の狭い布団部屋に二つ並び

二人暮らしから、三人暮らし、四人暮らしになった。うれしかった。


あいかわらず大布団の上に。段ボールテーブルで、大人の膝に年子の赤ん坊が一人づつのってご飯を食べる。


これまでの人生を忘れるくらい強烈な新しい人生が始まった。

子どもたちを死なせてはいけない。自分が守らないといけない。


独身時代に壊れた体はそのままだったので、壮絶な子育てのまいにちだった。

人と同じことをするのにも何倍もエネルギーをかき集めないといけない。


遠い一年先をみるとくじけてしまう。

だからその日一日だけを何とか生き抜こうと毎日思ってくらした。


生まれてはじめて、大げさではなく命がけで育てた。

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