第3話

半年だけ結婚してそのあと10年男の一人暮らしをしていた人だった。


その間に彼が編み出した暮らしの知恵は、仕事帰りに値下げの食材をスーパーで買って、ビールのパックもぶら下げて帰ってきて、「圧力なべ君」に、はさみなどで大きく切って入れた食材を放り込み、5分圧力をかけて、火を止めてお風呂に入るという方法だった。風呂上りにはご飯ができている。ビールとともに晩酌だ。


基本的に水煮で、味付けは塩をすこしふるか、そのままたべる。

継ぎ足し継ぎ足し次の日も食材を入れて圧力をかける。

「独身貴族のなんでも水煮鍋」だ。豚足を買って炊いたこともあるという。


今思えば夫は一人でも結構楽しく暮らしていたのかもしれない。


そこにわたしがおしかけた。

わたしがはじめて夫の部屋に行って台所でいそいそとご飯を作っていると

リビングの反対側で待っていた夫がのんびりとした声でこういった。

「おおーーい、だいじょうぶかぁ。

  なんかプラスティックが燃えてるにおいがするぞ」

アボカドとかつおの刺身をおろしにんにくとマヨ醤油であえたのである。


夫はそのあと圧力君で子かぶの丸ごと水煮を作ってくれた。

素朴であたたかいあじがした。

「初めての二人ご飯セット」だった。




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