第9話 出会いと別れ
ナンキョクオオトウゾクカモメ。
昨日、出会ったばかりなのに。
また現れるなんて……。
早くここから出ないと。そう思い、ドアを開けようとしたが開かなかった。
「誰か助けて!!」
そう叫んでも返事がない。そもそも逃げるんなら僕にも声をかけてくれたらよかったのに。
どうして1人にするの。まだ何もわからない僕を。窓は運よく閉まっていたが、いつか壊してくるかもしれない。どうしたらいいんだろう。
もう僕は死ぬのかもしれない。
そう思ったとき初めに頭の中に浮かんだのが、マリーだった。
僕は椅子に座って最期の時を待った。
「大丈夫?」
高い声が教室中に響き渡った。
誰か助けに来てくれたのかな。
ドアの外に1匹のペンギンの姿があった。
でもドアは閉まっている。
どうやって開けるかも分からない。
「今からこの窓開けるよ」
パリン
その瞬間、轟音が響き渡った。
彼女は窓ガラスを割ってこの教室に入ってきた。大丈夫なのか?ケガはしてないのか?
「大丈夫?」
「うん。何ともない。私、強いから。
それより早く逃げないと。私に付いてきて」
「うん」
右の翼から血が出ているように見えたが、
彼女は気にせずに教室を出て、
非常用出口へと向かった。
「ここから外に出るよ」
非常用出口はペンギンしか
入れないような大きさだった。
後ろを振り返るとナンキョクオオウゾクカモメがすぐ近くまで来ていた。
「後ろを見るな。早く入って!!
私も後から入るから」
僕は非常用出口に入った。
滑り台のように長く、彼女の言う通り、
外に繋がっていた。
僕が出た後、彼女も出てきた。
「大丈夫だった?」
マリーがペンギン防衛隊の服を着て学校に来ていた。まだ傷が治ってないのに……。
「うん。この子が助けてくれて……」
僕は隣にいたペンギンを紹介しようとした時、
「助けてーー」
どこかで聞いたことがある声が
教室から聞こえてきた。
マリーの顔は深刻だった。
「あの声って……まさか……」
「メリー……。今、助けるよ」
マリーは学校の中に入って行った。
僕も助けたい。メリーにまだ恩を返してない。
僕も学校の中に入ろうとしたが、
彼女に止められてしまった。
「ダメよ。あなた、本当に死んでしまうよ……。私はペンギン防衛隊見習いなの。
だから誰よりも分かるの。
この状況が危ないって。あなたは家に帰りなさい」
そこまで言われると帰るしかない。
「最後にあなたの……名前は?」
「サリー」
「ありがとう。サリー」
僕は自分の家に走って戻った。
家に帰って1時間後、マリーが泣きながら戻ってきた。
僕は何も聞くことが出来なかった。
2匹だけの無言の夕食を終えて、
2匹だけの夜。
1匹いないだけでこんなにも寂しくなるものなのか。マリーと僕の口数は極端に減った。
マリーはずっと1匹で篭っていた。
3日後、ペンギン防衛隊のマリーの友人から
電話がかかった。
マリーは電話に出なかったので、
僕が代わりに出ることになった。
「もしもし」
「もしもし、マリーの子供か?」
「はい」
「メリーの骨が見つかった。取りに来るか?」
「自分だけで行きます」
マリーが見たらきっと悲しむだろう。
そう思い、ペンギン防衛隊事務所に向かった。
ペンギン防衛隊事務所は思ったより小さかった。
その中に入ると、
1匹のコウテイペンギンが待っていた。
「君がマリーのもう1匹の子供か」
「はい」
「こっちに来い」
連れてこられた先は冷蔵庫室だった。
その中はペンギンでも凍えるぐらい寒かった。
「これがメリーの骨だ」
それを見た瞬間、僕は初めて実感した。
メリーが死んだと。
今まで心のどこかでまだ生きてる。
そう思っていたけど……。
涙が止まらない。
凍える世界の中、涙は氷となり、地面に落ちた。これが僕が初めて体験した死だ。
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