第5話 ペンギンの世界
僕は今、氷河の上にいる。
近くにペンギンはいない。
魚の取り方も知らない。話し方も知らない。
歩き方もまだよく分かっていない。
そんな世界で僕は5年も過ごさないといけないのか……。一気に不安が押し寄せてきた。
「誰かいませんか?」
声になっているかも分からず、
なんとなく声を出してみた。
でも、やっぱり誰もいない。
この先、どうやって過ごせば良いのか。
孤独な氷河の上で立ち尽くしていた。
「君、どこのペンギン?」
振り返ると1匹のマゼランペンギンが立っていた。その姿はまさにヴィーナスの誕生のように
美しかった。ここで人間から変身したと言えば
またあの夢のように非難されるに違いない。
僕は……。
「僕は……迷子なんです」
「そうなんだ。名前は?」
名前!?どうすれば良いだろうか。
そんな簡単に名前なんてつけれないし……。
「名前も覚えてないの?かわいそうに。
私はマリー。よろしくね」
マリーは僕のことを全てわかってくれる。
そんな気がした。
それぐらい優しさに包まれている
美しいペンギンだった。
「じゃあ名前は……モーリーとかどう?」
モーリー……。なんか違う気がするけど……。
「何でですか?」
「何となく」
マリーは笑いながら僕の元に近づいてきた。
「迷子なら私の家で育ててあげるよ」
初めはどうなることかと思ったけど、
マリーはこんな僕を受け入れてくれた。
それが本当に嬉しかった。
「よろしくお願いします」
「じゃあ付いてきて」
マリーに先を行かれないように慣れない足で
ゆっくり地面を踏んでいった。
でもやっぱり人間とは比べ物にならないくらい遅い。たった50メートルに1分はかかっている。
人間だったら7秒くらい。
ウサインボルトだったら5秒くらいなのに……。
そんなどうでも良いことを考えながら
マリーに付いて行った。
日が暮れ始め、ようやく海にたどり着いた。
「今から泳ぐよ」
泳ぐってどうやって泳げば良いの?
人間だった時は1度も泳げたことは無かった。
いつも溺れてばかりで
みんなに迷惑をかけていたのに。
「どうやって泳ぐの?」
「泳ぎ方も知らないの?まあそうだよね……。
私の友達にそっくりだね。」
「友達ってどんなペンギンだったんですか?」
「何もかも不器用で……。
あっという間に私の元から離れて行った……。
まあそんな事はどうでも良いわ……。
泳ぎ方は海に入って教えるわ」
そう言って海に飛び込んでいった。
あの時のペンギンって何だろう?
不思議に思ったけど、
今はとにかく追いつかないといけない。
僕も行かないといけない。
でも、飛び込むなんて……。怖い。
「大丈夫よ。怖くないわ!!」
よし。覚悟を決めて海に飛び込んだ。
海の世界は青く綺麗に輝いていた。
小魚の群れ、輝く珊瑚礁、何もかもが美しく感じた。でも、僕は泳げない。
「左右の翼をヒレのように動かすのよ!!」
左右の翼……。これかな?
人間で手を動かすような感覚で素早く翼を動かした。その瞬間、海の中をレザービームのように素早く泳ぐことができた。
すごい。これが……ペンギンなのか。
『ペンギンは時速10キロのスピードで泳ぐ』
図鑑で読んだ通りの速さだ。
「さあ、行くよ。付いてきて!!」
「うん」
マリーに負けないように海の中を泳ぎ続けた。
どこまでも景色は青く澄んでいた。
そして、僕はついに辿り着いた。
ペンギンが住む街へ。
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