第4話 前夜祭
リビングに入るとそこには昨日の2倍の人数が集まっていた。みんな、酒を飲み酔い始めていた。兄も珍しく酒を飲んでいた。
10歳から成人扱いのため、お酒もタバコも
10歳から認められている。
「これから石川くんの前夜祭を始めます」
村長の言葉と共にクラッカーが爆発し、
前夜祭が開幕した。
「じゃあまずは石川くん、
今の気持ちをお願いします」
村長に急に振られて何を話せば
良いか分からなかった。
どうしよう。何も話すこと決めてないど……。
「ぼ、僕はペンギンがずっと好きでした。
でもあのシャチに食われるニュースを見て以来心のどこかでなりたいと言う夢を避けていました。でも、せっかくペンギンになれるのなら、
ペンギンと共に過ごして生きることの大切さを学びたいです。絶対に5年で帰ってきます」
会場は大きな拍手で包まれた。
「早く戻ってきてくれると信じています。
次に誓いの言葉を行います」
誓いの言葉?何それ?
選手宣誓みたいなものかな?
「あなたはどんな困難があっても
どんなに死にたいと思っても自分の命を大切にして、最後まで生き抜く事を誓いますか?」
「はい!!」
「では、最後に乾杯!!」
乾杯が終わると飲みながら、会話を楽しんでいた。僕との思い出を話している人もいれば……。僕が何年で帰れるか賭ける人もいた。
「俺は兄と同じように5年で帰ると思うよ」
「そんなに早くないって。20年はかかるだろう」
僕を信じてくれている人は5年で帰れるといってくれる。人ごみの中、村長が僕に近づいてきた。
「あの約束、覚えているよな?」
『約束しよう。
私は君が帰ってくるまで生き続けると』
図書館で僕と村長は約束したんだ。
絶対に生きて帰ると……。
「村長、今までありがとうございました。
また会いましょう。それまで村長も生きてください」
「当たり前だろ。私は200歳まで生き続けてやるよ」
最後に村長に抱きしめられた。
もうこの温かさを感じることが出来ないのか。
悲しみを堪えながら、村の住民1人1人に
感謝を伝えに行った。
いつのまにか時は23時40分になっていた。
動物変化の儀式まで残り20分と迫ってきた。
僕は最後にお母さんと話すことにした。
「お母さん、今までありがとう」
「ねえ、あなたの名前の由来って知ってる?」
石川剛。
名前の由来なんて考えた事が無かった。
でも、ある程度予想はつく。
「強く生きてほしいから?」
「ううん。違うよ。強く、丈夫にこの世界を生き抜いて欲しいから名前を付けたの」
「ありがとう」
「たとえ、5年で終わらなくても自分を
責めてはダメだよ。
私も……10年かかったから」
「お母さんって……ペンギンだったんだよね?」
「うん。その時の名前はムール。
今でもずっと後悔してるわ」
「後悔?」
「私はあいつを裏切ったのだから」
「え!?」
あの夢と現実が重なり合った。
裏切り者ってお母さんだったの!?
もっと話を聞きたい。なんでそうなったの?
その瞬間、体が光り始めた。
「何これ?体が光っているけど……」
「時間を見て」
時計は23時59分となっていた。
「もっと話を聞きたかったよ。なんで裏切ったの?」
「その真相は自分で見つけなさい。
必ず生きて戻って来るのよ!!」
「うん……」
眩しい光が体を包み込んだ。
そして、目の前からお母さんは消えてしまった。ついに始まるのか。
動物変化の儀式が……。
目が覚めるとそこは南極だった。
僕はどんなペンギンになったんだろう?
体を見て初めてわかった。
これがマゼランペンギンだと。
『マゼランペンギン
黒い胸のラインが2本あり、
白い腹には黒い斑点がある。
世界1周をしたマゼランに由来している。
黒いラインは魚の群れをかき乱し、
魚を捕まえやすくなる』
どんな生活が待っているのか。
期待と緊張感を持って小さな1歩を踏み出した。
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