第13話「学園最強の男」
「さて、3年生にはなんと説明するかねぇ、これ」
幸い、火事には至ってないのが救いかな。
「まぁいいだろう。お前ら、今度こそ帰るぞ」
そういって、振り返った瞬間。
びりびりという衝撃波を伴って轟音が降り注ぎ、その直後、どすんという重々しい音と共に、何かが僕達の前に土埃を巻き上げて降り立った。
「また化け物か!?」
鶴志先輩がすぐに降り立った何者かから僕らを阻むように前へ立ち、土埃が払われるの刀を生み出して、構える。
「……貴様に用は無い。失せろ」
風が吹き、土埃が飛んでいくと共に、"彼"はそう口にした。
さらさらとたなびく艶やかな長い金髪。
180cmはあろうかという体躯。
そして、芸術品を思わせる端正な顔立ち。
僕は即座に彼が鶴志先輩や向日葵先輩とは次元がかけ離れた存在であると理解した。
あと……パンツ一枚に指揮生のジャケットを羽織っているだけなのはなんで?
「オイオイオイ、さっきまで救援が欲しいと思っていたが、よりにもよってお前かよ……」
鶴志先輩はゆっくりと構えを解き、武器を光の粒子に返す。
「学園最強……
学園……最強……?
このパンイチジャケットマンが?????
いやでも、なんかさ。そういうオーラーというかな。そういうものは感じるから強いのはわかるんだけど、風体がもう……ダメじゃん?
そんな事を考えると、トラウマになりそうなあの羽ばたく音が空を横切った。
あのデカい鳥だ。
一匹倒すのにも結構苦戦したというのに、また来たの??
ああ、もうこの1時間だけで目が回りそうだ。
「害鳥が」
陽光……先輩でいいのかな?
彼はため息を吐くと、槍を生み出した。
「消えろ」
短く呟くと、陽光先輩はその槍を投げた。
そう、ただ槍投げの要領で投げただけだ。
だというのに、まるで雷が落ちた様な音と衝撃波に僕は思わず転んでしまった。
そして、巨鳥は何かをする間もなく槍に胸を貫かれて地に墜ちていく。
たった一発だ。
アルカナ・パペットという必殺技を使ってようやく倒した敵を彼は一撃で仕留めてしまった。
……前言を撤回しなくちゃいけない。
彼が……正真正銘、学園最強だ。
「邪魔者は消えた」
もはや殺した巨鳥には意にも介さず、陽光先輩は僕らに向き直った。
そういえば、なんでこの人はこんなところへ――。
「世界!」
「へ?」
いつの間にか僕は陽光先輩に担がれていて、二人一緒に木の上へ登っていた。
「あれ!? なんで?」
「騒ぐな」
ジロリと鋭い目つきで僕は睨まれた。
うわっっ!!!!! 顔が良い!!! 睫毛なっっっっっが!!!!!!!
もう怒涛の展開すぎてそんな事にしか頭が回らない。
「世界を放しやがれ!」
玲央は大剣を生み出し、叫びながら飛ぶ。
その勢いのままで、玲央は陽光先輩に斬りかかった。
けど、陽光先輩は避ける事も防ぐ事もせず、その身で受けた。
何せ必要がないからだ。
玲央の攻撃は一切彼に効かず、武器は粉々に砕け散っていく。
そして、左手で押し退ける様に手を伸ばして……それだけで玲央は10m以上吹き飛んだ。
「ぐおぉぉおぉ!!??」
「玲央!?」
「行くぞ」
「ま、待ってください!」
「お前の話は聞かない。お前は今日から俺の物。俺の花だ」
花? 花ァ!?
何を言ってるんだこの人。
あぁ! もしかしてこの人が
「僕は花じゃなくて人ですぅっ!!!」
「関係無い」
宇宙人かこの人は。
話は通じないし、口数も少なくて、やっと何か言葉が出て来たら意味不明だし!
陽光先輩は深く腰を落として、飛ぶ構えに入った!
向日葵先輩や玲央であんだけ速いんだから……学園最強が本気のジャンプなんかしたら……。
待って! 本当に待って! 僕はジェットコーストが苦手なんです!!!
その時、光が瞬いて陽光先輩が足をかけていた枝が砕ける。
「っ!」
ジャンプが不発に終わり少し体勢を崩すも、わずかな時間で立て直して見事に着地する。
「やぁ、ルイ。Aクラス級のエネミーが出たから救援に駆けつけてみれば、君が居るとはね」
「……雫」
陽光先輩の視線の先には、拳銃を片手で構えている月喰会長の姿があった。
あぁ!! 会長が現れてこんなに嬉しいと思うなんて!
入学式の日は怖いなんて思ってごめんなさい!
「それで? どうしてお前は俺の邪魔をする」
「うん。君が世界くんを連れて行こうとするからね」
「コイツは俺の物だ」
「君のじゃないよ。彼は僕達生徒会組織の一員さ。
「なら今日で解任だ」
「本当にわがままだね、君は」
ええ、ごもっともです。
はやくこんな奴やっつけてくださいよ! 生徒会長!
「お前に俺を止めるのは無理だ。分かっているだろう?」
え? そんなわけないですよね?
僕は月喰会長へ疑いの目線を向ける。
彼は……ウインクした!
よし! そんな訳が無かっ――
「うん! 僕一人じゃ無理だ!」
言った後、彼は僕に向けて両手を合わせてゴメンネのポーズを取った。
会長~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!!!!!
「けど……まぁ、本当はAクラス級相手に連れて来たんだけど――」
そう言って、姿勢を伸ばしながらパンパンと彼は手を叩き……。
「
彼の号令と共に、中央議会のメンバー――――。
茶髪でオールバック、上半身裸の上にジャケットを羽織っている指揮生。
前髪を切り揃え、後ろ髪は三つ編みにして肩から流してる眼鏡の指揮生。
おそらくは会計と書記の人達。
そんな彼らに付き従う人形生。
ツーブロックカットのワイルドな髪型の割に胃痛を抱えていそうな人。
眼鏡の指揮生と瓜二つの顔立ちをして、パステルカラーに染めた髪色の人。
そして、副会長である
「ひゅ~っ、中央議会勢揃いとは、中々お目に掛かれないねぇ」
鶴志先輩が両手を後頭部に当てて口笛を吹いてる。
くそぅ、他人ごとだからって楽観視しやがって。
当の陽光先輩はというと有象無象でも見るかの様に中央議会のメンバーを一瞥し、一笑に付す。
「頭数を揃えたところで何も変わらない。皇帝の前ではな」
彼がそう言うと、オーラとでも表現すべき光が身体が発する。
僕が出来たんだ。そりゃこの人だってアルカナ・パペットという必殺技を使えるのは当たり前だ!
「待って待って、ルイ。もう少し話を聞いて」
「くだらない話だったら、俺はこのまま庭へ帰る」
「いいや、君にとっても大切な話だ。確かに君なら中央議会全員でかかったとしてもよくて引き分けるだろうね。けど、君が抱える彼はどうだろう?」
へ? 僕??
「ルイはともかく、彼を抱え無傷のまま自分の庭に連れて行ける?」
「むっ……」
おっと、陽光先輩。どうやらこの状況を切り抜ける際に僕を抱えている事を勘定に入れてなかったらしい。
二人がここまで言うのだから、本当に中央議会と引き分けに持ち込めるぐらい強いんだろうけど、それは彼ひとりで戦っている時だけの話。
僕というお荷物を抱え、それも無傷で持ち帰ろうとなれば流石に厳しくなる。
というか厳しくなってもらわないと困る。
それでも構わずっていうならホントに僕は大変な事になるんですが……。
「なるほど、くだらない話では無かった。確かに、俺も庭に植える花が傷つくのは困る」
良かった! まだ話の分かる人だ――。
「返す」
え?
ほっと息を吐くのも束の間、陽光先輩はオーバースローの構えを取った。
「ま、待ってください先輩! 待って! きっ、傷つくのは困るんじゃ――」
「喋るな」
そして、そのまま僕は月喰会長へ向けて投げられた。
救いは……。
「ないのかあぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああぁぁっっ!!!!!」
僕は絶叫しながら風を切り、ばびゅんと宙を飛び、景色が目まぐるしく変わる。
玲央が飛び跳ねている時ってこんな風に世界が見えてるんだぁ。
「シン」
「はっ!」
「おぐぇぇぇぇえぇっぇぇぇぇえええっ!!」
僕の身体が砲弾として生徒会長へブチ当てられる前に火乃宮先輩が僕の制服の襟を掴み、ぐるんと一回転させて、投げられた勢いを逃がしてから僕の身体を受け止めてくれた。
「はひっ、はひゅっ! あ、ありがとう……ございまふ……」
「呂律が回ってない。深呼吸で息を整えて落ち着け」
「は、はいっ……」
すー、はー、すー、はー。
僕をぶん投げたあの自称皇帝のわがまま野郎はというと、もうこの場所から居なくなっていた。
「追いますか? 会長」
眼鏡の人が会長の元まで駆けつけて、判断を仰ぐ。
「追っても意味無いよ。それに、彼が来なければ二体目のAクラス級を被害無く処理出来なかった。それでこの騒ぎは不問としよう」
「わかりました。それでは、私と書記で一年生と警備部の援護に当たります」
「ありがとう、メギストス。カフスと仲良くね」
どうやら、あの眼鏡の人が会計で、メギストス先輩。
オールバックの不良漫画に出てきそうな人がカフス先輩。
そう呼ぶらしい。
海外の人っぽい名前だから、多分ファミリーネームが別にあるだろうし、後で訊いておかないと。
「全く。今日はまだ服を着ていたからいいものの……陽光のお坊ちゃまめ」
僕が頭の中で顔と名前を一致させる作業をしていると、火乃宮先輩がボソっと愚痴をこぼした。
「まだ服を着ていたって、パンツ一枚とジャケット羽織ってるだけですよね? あれ服を着ていたと言っていいんですか?」
「あの方の基準であればな。自分で服は着れないし暑いと言ってすぐ脱ぐし……」
「じゃあえっと……カフス先輩? あのオールバックに上半身裸の人は?」
「フォルトゥナ様はただのお洒落だ。ドレスコードが求められる時にはキチンと服をお召しになる」
「……上級生の間で裸にジャケットを羽織るのがトレンドなのかと」
「無いな。流石に無い」
何気に会計の先輩のファミリーネームも聞き出せた。
カフス・フォルトゥナ。
覚えておこう。
「……会計のお方はメギストス・イシダ様。ドールであるシリウス・イシダ様と二卵性双生児だ。後でお前の部屋に生徒名簿を送ってやる」
「あ、ありがとうございます」
「構わん。生徒会組織の長を任せられて主な生徒の名前を知らんとなれば示しが付かないからな」
「ですよね。じゃあ、僕達はこれで」
頭を下げて、一年生と警備部の人達の列に戻ろうとすると、月喰先輩が僕の肩に手を伸ばした。
「世界くんは一緒に僕達と生徒会室まで来てくれるかな? 玲央くんと……新しい美化活動部のメンバーも連れて」
「え? はい、わかりました」
そうして、慌ただしい一日は今日も幕引きの時間が近づいてきた。
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