第8話「新たな二人」

 校門には、両手を腰に当てて整列している紺色の肩マントを羽織っている人達……確か、警備部フォース……だったかな? 整列していた。


 その中で浮いているのが二人。


 整列している頸部の人達の周りをうろちょろ元気そうに歩き回っている人が居る。


 人懐っこい笑顔を浮かべて、太陽の様な明るいオレンジの肩まで伸びた髪が特徴的。それをお下げみたいにして結んでまとめている。


 一瞬女子かと思ったけど、男子みたいだ。


 もう片方は、不遜な物腰で校門側の花壇へ腰を下ろしている黒髪の男子。


 そして……彼が警備部の委員長だ。


 マントと同じく、警察みたいな紺色に星が掲げられた帽子。


 遠目で見るからに人相が悪い。


 太陽の様な髪色の人とは大違いだ。


「すいません、僕達一年生なんですけど……校門に集まるように言われてて……」


 僕が警備部の人達に話すと、太陽の髪の人が僕の目の前に駆け寄ってきた。


「こんにちは! オレは向日葵ひまわり佐江さえ! みんなよく来たね!」


「ど、どうも」


 向日葵先輩は明るい笑顔で僕達一年生に向けて手を振った。


 その後、花壇に腰かけている警備部委員長の側まで戻り、肩を掴んで無理矢理連れて来た。


「そして、この人が鶴志つるし以蔵いぞう! こんな風に見えて警備部の委員長なんだよ!」


 鶴志と紹介された先輩は引っ張られても気だるそうに僕達の方を見もしない。


 確か、会長が言うには警備部委員長もデュアルランダー……。


「チッ……」


 彼は舌打ちしながらようやく僕達の方をちらりと目を向ける。


「なんだよ、新入生に帽子付きがいるじゃねぇか」


「帽子付き……?」


「俺とてめぇみてぇにどっかの組織の長を任されて帽子を持ってる奴の通称だ」


「なるほど……」


「可哀想になァ。長なんてぇのは気苦労と責任ばっかだってぇのによォ」


「そ、それでも任されたからには頑張ります……!」


「ケッ……まぁいい。時間がねぇからサッサと行くぞ」


「へ?」


 それだけ言うと、鶴志先輩は猫背にポッケへ手を突っ込んだまま校門を抜けて……目の前にある森へと入っていった。



 待って、学園の目の前に森?????



 困惑していると、最後尾をチョロチョロと動き回る向日葵先輩が手招きをする。


「速く来ないと置いて行っちゃうよ~!」


 なんというか、髪色だけじゃなく性格までも太陽みたいな人だ。


 警備部の人達へ着いて行くまま、僕達は森の舗装されていない道を歩く。


 やがて、少し開けた場所に出ると、鶴志先輩はまた一人だけ適当な切り株に腰を下ろした。


「じゃあ暫く待機だ」


 彼がそう言っていると、上空からバサバサと大きな羽ばたく音がする。


 いや、まさかこの音は!


「先輩!」


 僕が叫んでも、鶴志先輩は動かない。


 羽ばたく音はやがて、風を切る音へと変わり、この場所へ迫ってくる。


 どこからだ?


 僕は慌てて拳銃を生成して、辺りを見渡す。


 けれど、そうしている合間に昨日の化け物は急降下で鶴志先輩の首を刈ろうと飛び込んできた。


「ぐぎゃっ!」


 その悲鳴を上げたのは、鶴志先輩じゃなかった。


 あの化け物は真横に吹き飛び、やがて立ち並ぶ木々に身体を打ちつけて絶命した。


 鶴志先輩の側には向日葵先輩が立っていて……。


 動きは見えなかったけども鶴志先輩を守ったのか。


「大丈夫だよ! こいつらは雑魚だから!」


「一年ども、今からてめぇらだけでこの雑魚……カーヴドレイヴンとやり合え」


「えぇ!?」


「この程度で驚いてらんねぇぞ。これからそれ以上の奴らと戦うハメになるんだからよォ」


 既に警備部の人達も木の上へと避難していて、僕達はこの開けた場所で取り残されていた。

 

 ざわざわと一年生達が騒いでいる間にもカーヴドレイヴンと呼ばれた化け物達はどんどん降りてきて、まるで昨日起きた地獄の再来だ。


 奴らは自分達の湾曲した鋭い刃状の羽根をぎらつかせる。


 あの湾曲を指して、カーヴと呼ぶんだろう。



 そんな事考えてる場合じゃない。



「やってやらぁ!」


 玲央が真っ先に飛び出していく。


 その手には身の丈よりもデカ……でっかっ!!!!!!


 玲央の身体の二倍はある武器を生み出して、玲央はそれを振りかぶりながら突っ走っていく。


 あんなのを持って駆け回れるぐらい玲央って凄いんだなぁ……


「どりゃあぁぁあぁ!!!」


 ずん! と大地が揺れる音がする。


 玲央にただの棒で殴られるだけでめっちゃくちゃになるんだ、あんなもので殴られれば一溜まりも……。


 いや、そんな事なかった。


 というか、当たってなかった。


 そりゃああんな大振りなもの、誰だって避けるよ。



「いだだだだだだだだだだっ!!!」



 レイヴン達に攻撃されて、玲央が悲鳴を上げている。


 全力で耐える方にシフトしているから、大事には至ってない様だけど流石にかわいそうだ。


 僕は昨日と同じく拳銃を作る。


 えっと……会長が言うには げきしん、げきてつ、マガジンは分かるけど、薬室ってなんだ??


 あぁもう、とにかくすごい弾が入っているイメージ!


 ずどん!


 びりびりと空気が震える銃声。


 撃ちだした光の弾は音を音と認識した時には既にレイヴンへ命中していて、胴体に大きな穴を開けていく。


 とにかくすごい弾が入ってる銃が出来た!


「た、助かった! サンキューな、世界!」


 僕の攻撃に驚いたレイヴンの隙を見て、玲央は僕の方までばびゅんと一足飛びで戻ってきた。


「自分の身の丈にあったもので戦おうね~!」

 

 木の上から、向日葵先輩が声をかけてくれる。


「身の丈……くっそ~」

 

 そう言いながら、玲央は改めて武器を作り直す。

 

 今度は自身のつま先から胸の辺りまでの長さがある幅が広めの大剣。


 どうあってもそういうパワー系の武器を選びたいみたいだ。


「うっし、今度こそ行くぜ!」


 そういうと玲央は腰を深く落として風を切りながらもう一度レイヴン達の群れに飛び込んでいく。


 その勢いのまま、玲央は横に薙ぎ払い、一気に二体のレイヴンを倒してしまった。


「まだまだ!」


 右脚を前に出して着地すると、それを軸にぐりんと回転して遠心力と玲央自身のドール能力で強化されたSランク級の腕力で更にもう一体!


 凄い! これがSランク! どれくらいの腕力なのか知らないけど!


 コツを掴んだのか、それとも愚者の特性を理解したからなのか、玲央は昨日とは比べ物にならないぐらい大勢のレイヴンを相手にしても物ともせずに立ち回っている。


 玲央が武器を振り回すごとにレイヴンの死体は増えて……。

 

 あれ? 僕いらなくない?


 しょぼくれそうになりながら周りを見ると、そこかしこで悲鳴が上がっている。


 昨日の今日で戦えと言われて、本当に戦えるのは玲央くらいで、ほとんどの人形生は一体を倒すごとに肩で息をしている。


 一年生の数は合わせて81人……でも、実際に戦える人形生だけだから半分の40人。


 シアンくんは大丈夫かな?


 指揮生達の前に立つ人形生のみんなから探すと、ちゃんといた。


 接近戦で戦っている人形生の後ろで、僕と同じ様に銃を出して戦っている。


「う~ん、これはまずいな」

 

 カーヴドレイヴン達の厄介さが、よくわかってきた。


 初日はインパクトが凄すぎて、こいつ一体でもヤバいと思っていたけれど、実際にこいつらは一体だけなら大したことない。


 現に、僕達以外の人形生達は役割分担をする事で対応出来ているし、玲央に至っては数体でも相手取れるぐらいだ。


 けど、こいつらの厄介なところは一度に何十匹と押し寄せてくるところなんだ。


 玲央が5体同時に相手しても、10体やってきたら増える一方。


「玲央!」 


「どうしたぁ!?」


「作戦変更! 戻ってきて!」


「おっけい!」


 一気に敵をなぎ倒してから、またさっきみたいに玲央はばびゅんと戻る。


「それで? 作戦は?」


「僕達二人で銃を撃ちまくる! 降りて来た奴だけを殴ってたらダメなんだ!」


「世界が言うならそうなんだろうけどよ……俺、銃なんてもの作れねぇぞ?」


「それは……よし、僕が玲央の分も作る!」


「できんのか?」


「頑張る! 美化活動部の委員長として!」


「へっ! 張り切ってるじゃんか」

 

 玲央はニカッと笑うと、僕の目の前に拳を突き出して言った。


「よろしく頼むぜ、相棒」

 

 その拳に僕もコツンと小突き合わせて笑う。


「なにそれ、相棒って」


「オーナーとドールって雰囲気が全然無いだろ、俺達」


「うん」


「だから、相棒!」


「わかった。よろしくね、相棒!」

  

 僕達は何も打ち合わせもなく、示し合わせた様に開いた掌でパシンと音を立てて手を叩く。




 さぁ、イメージしろ。


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