第7話「カードは配られた」
僕の手には、黒地に外縁から中心へ向けて冠の様に白のラインが伸びた学生帽があった。
これは、去り際に会長に手渡されたもの。
曰く。
「これは組織の長を証明する冠。君は美化活動部の長としてこの帽子を被る事になるんだよ」
どうやら生徒会組織だけじゃなく、部活動でも部長は帽子を渡されるらしい。
帽子のデザインはその組織が決めるか、生徒会が決めるみたい。
「へへへへ……」
僕はにやけながらその帽子を被る。
「変な笑い方だな」
玲央が僕のほっぺを突っつく。
「し、仕方ないじゃん!」
「ま、頑張ってくれよ。美化活動部委員長サマ!」
「なんかカッコつかない肩書だなぁ~」
そんな風に僕達ははしゃいでいると、前を歩くシン副会長が立ち止まって、振り返った。
「お前達」
その鋭い眼光で彼は僕達を見下ろして、口を開いた。
「お前達を客人としてもてなすのは、今日が最後だ」
「えっ、は、はい……?」
「お前達は生徒会の組織に入った。そして私は
「だな」
「つまり、階級としては私が上でお前達が下という事になる」
「はぁッ!? 同じ人形生なのに差別すんのかよ!」
「違う。差別ではなく区別だ」
「どういう意味ですか?」
「お前達は将来的に美化活動部としてお前達にしか出来ない仕事を任される」
「た、多分そう……ですね?」
「だが、今のお前達に仕事は任せられない。なぜならお前達は新入生で学園生活を送る事も精一杯になる」
それはそうだ。
当たり前だけれど、新しい環境に慣れるというのは簡単な事じゃない。
ましてや、ドール能力があって、変な化け物がいて、そんな学園に慣れる事なんていつまでかかるやら。
「であるならば仕事が任せられる程になるまで俺や他の組織の者に教えを乞う立場にある。そして、俺達はお前達に教える側だ」
「だから、僕達が下……ですか?」
「そうだ。これは必要な区別だ」
「が、頑張ります……」
「フンッ、精々励め」
「一人前になったら、またお茶淹れてくれますか?」
おずおずと手を挙げて、僕は消え入りそうな声で言った。
僕の発言にピクッ、まゆが跳ねる。
怒られる?
「…………俺の淹れた茶が気に入ったか?」
「は、はい……」
「……美化活動部としての仕事を果たした時に、労い程度に出してやる」
嬉しかったらしい。
教室に戻ると、全員の視線が僕達に集まる。
昨日のあの一件があるもんね。
生徒会に来て欲しいっていうのも聞かれてるだろうし。
「はよござぁ~っす」
玲央は気にしてないのかそれとも周りへの当てつけか、気の抜けた挨拶をしながら僕を追い越そうとする。
僕を追い越す直前で、彼は僕の肩を叩きながら小声でささやく。
「俺が着いてっから。世界は気にすんな」
一方的にそう言うと、そのままシアンくんの方へ声をかけながら自分の席へ向かった。
「ありがとね」
「ん? なんか言ったか? 世界」
「なんでもないよ~」
僕は笑いながら席について、机の横についてあるフックに鞄と帽子を引っかけた。
暫くすると予鈴が鳴り、担任の先生が現れる。
くたびれて、あまり顔色の良くない人だ。
しかし、その目つきは火乃宮先輩よりも冷たく鋭い。
「おはよう、生徒諸君。改めて自己紹介しよう。藤島美柳だ。よく生き残った。生き残れなかった者には哀悼の意を表する」
藤島先生がそう言うと、玲央は舌打ちをして露骨に嫌そうな顔をした。
「今日は各授業のオリエンテーションがある。特に学校外実習の時間は心して掛かるように。以上、HR終了」
淡々と言うと、1分にも満たない速度でHRを終了させようとする先生だった。
けど、僕の帽子を見るや目を細めて鼻で笑う。
「紡世界。入学二日目にして新しい組織の長とはおめでとう」
「え? あ、ありがとうございます……」
「長になったからには無駄死にだけはするな。私からそれだけだ」
それだけ話すと、藤島先生はサッサと教室を去っていった。
途端に、ざわざわと教室内が騒ぎ出した。
そりゃそうだ、帽子の意味がみんなに広まった訳なんだから。
くそぅ、あの先生め。いらない騒ぎを起こして……。
授業のオリエンテーションはつづがなく終わっていき、藤島先生が言っていた学校外実習の時間になった。
「全員、揃っているな」
そう言いながら、藤島先生は教卓の上に沢山のカードみたいなものをドンと音を立てて置いた。
「これから、お前達の能力を見る。人形生はこのカードを出席番号順に並んで持っていけ」
一枚手に取って、ひらひらと煽いで僕達に見せる。
大きさとしては、ちょっと大きめのスマホぐらい。
一応、僕は玲央のオーナーだけれど人形生でもあるから一枚手に取って席に戻る。
よく見てみると、片方の面は真っ黒に染まった無地でもう片方の面は中心に大きな六芒星が描かれていて、その周りにいくつものアスタリスクが散りばめられていた。
「黒色に染まっている方が表だ。各自、それを表を上に向けた状態で掌を載せろ」
言われた通りに、僕は手を載せる。
暫くすると、黒色に染まっていた面にぼや~~っと絵が浮かびあがってきた。
どういう原理?
「絵が浮かび上がったら手を退けていい」
退けていいと許可が下りたので、僕は手を退けて、浮かび上がった絵を確認する。
その絵はなんというか……宗教的?
ヴェールをまとった人を囲む様に自分の尻尾を噛む蛇の楕円が描かれている。
そして、その下には、「THE WORLD 21」と書かれている。
これってもしかして、タロットカード……という奴では?
「出席番号順に自分のアルカナを申告しろ。読めなかったらどういうイラストが描かれているかでも良い」
いつの間にか、藤島先生は黒板に0から21の数字を横に書き連ねていた。
そして、順番に生徒が言ったアルカナをその数字の下に書いて行く。
「次、不縛」
「はい。えっと……ふぉ、ふぉぉる? ピエロみたいなのが描かれてます」
「……フール。愚者だ」
「はぁ~~~っ!?」
「ぶふっ……!」
生徒の誰かが笑った。
だが、先生は笑ったであろう生徒がいる方へ振り返る。
「いま笑った者が真の愚者だ。アルカナに於ける愚者とは自由の象徴」
指揮生のみんながぎょっとした顔で先生と周りの顔を見てざわざわと騒ぐ。
「愚者については後だ。次」
それから何人か続いた後に、僕の番だ。
「えっと……ザ・ワールドと書かれてます」
「名は体を表す……か。次」
そして、終盤。シアンくんの番だ。
「ザ・マジシャン。魔術師が描かれています」
「ふむ……今年の生徒は豊作だな」
ずらっと並ぶ、アルカナの名前達。
「では次にアルカナの名前が書かれている場所を右から左へ向けてなぞれ」
次の指示に従うと、それこそスマホのスライドの様に絵が左へ流れていく。
そして、今度は色々と文字が書かれている画面? が表示された。
どう見てもこれは……ステータス画面だ。
VIT、STR、AGI、MND。
RPGでよく見るそれが表示されていた。
そして、僕の場合、どういうステータスかといえばこうだ。
VIT:■■■■■A
STR:■■■■■A
DEX:■■■■■A
AGI:■■■■■A
MND:■■■■■□A+
全体的になだからでMNDがちょっと高いぐらい? 上限がどこなのかが分からないから、これが良い数値なのか悪い数値なのかが判別できない。
そう考えていると玲央の方から悲鳴が上がる。
「全部Eってなんだよぉおぉぉおぉぉぉぉっっ!!!」
ぜ、全部E!? A、B、C、D、EのE!?
いや、もしかしたらAが一番低いのかもしれない。
だって、昨日あれだけ僕より元気ハツラツ・縦横無尽に動き回っていた玲央がそんな訳ない。
半立ちになって玲央のステータスを見て見る。
VIT:■E
STR:■E
DEX:■E
AGI:■E
MND:■E
いや、どう見てもこれはダメだ。
え、つまりどういう事? 本当は僕って玲央よりもドール能力で身体能力が強化されてるってこと?
「騒ぐな。それも愚者の暗示の特色だ」
「最低なステータスがッスか??」
「一面だけ見ればそうだ。だが、愚者の暗示のステータスは不定形。試しにありったけの力を込めてみろ。ただし、力を込めるだけだ。備品は壊すなよ」
「はいッス……」
そう言いながら、ムンッと玲央はマッスルポーズをしてみせた。
そして、もう一度カードを見ると、今度は喜びの声があがる。
「Sランクだぁ~~~!!!」
Sランク!?
Eから飛んでSランク!?
「これが愚者の暗示を与えられた者の特徴であり弱点だ」
「は、はぁ……?」
「お前自身が求めた能力が瞬間的に強化される。逆を言えば身構えていない時の能力は誰にも劣る。長所と短所が同じ場所に立っているという事だ」
そして、フッと笑いながら先生は僕の方を一瞥して、ボソっと一言付け加える。
「オーナーに恵まれたな」
その後も各暗示の特色を話す。
シアンくんに現れた暗示、魔術師の暗示は以下の通りだ。
「魔術師は身体能力が低いかわりにMNDが高く、次点でDEXが高い。本人とオーナー次第だが、少なくともMNDはAランク以上、DEXはBランク以上は見込めるだろう」
なんというか、シアンくんのイメージに近い感じがする。
魔法使いみたいにローブととんがり帽子を被って、長い杖を持ったシアンくんが頭に浮かぶ。
やがて僕の番が来た。
「世界……これは完全と不変の暗示だ」
完全と不変。という事はつまり、玲央の真逆という事なのか。
確かに、番号を見てみると玲央の愚者は最初の0。僕は最後の21。
順番からしても対極に位置している。
「全ての能力値がバランスよく高水準。本人の気質に依って微量の差異が産まれる程度だが、基本的には全てのステータスがB、あるいはAになる」
「すげーじゃん世界!」
「だが、不変であるという事はそれ以上が無いという事だ」
「え」「え」
「ドールの身体能力は本人の成長やオーナーの更新で変動する。だが、世界の暗示を与えられた者は例え本人がどれだけ成長しようとも、オーナーが誰であろうとも変わらない」
それってつまり僕のステータスはこれで頭打ちという訳か……。
「さて、長々と話したが飽くまでもこれはお前達がドール能力を行使した時の身体能力に過ぎない。この能力をどう扱うか。それを忘れるな」
「この能力をどう扱うか……」
「さて、能力を見た後は実地で見るぞ。全員、校門前へ向かえ」
僕は藤島先生に言われた事を頭で反芻しながら、帽子を持って校門へと向かった。
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