第4話「月喰雫」
僕は彼に見覚えがあった。
入学式の時、シアンくんの宣誓劇の後で壇上に立って演説を行った……。
「会長!?」
そうだ、
生徒会長の姿を捉えると、ダグラス先輩は慌ててアサルトライフルを消して、即座に敬礼する。
「相変わらずだね、ダグラス」
「はっ! 駄犬の制裁に手間取り申し訳ございません!」
「良いんだ。今回、彼らの相手は僕がする」
「いえ! 会長の手を煩わせる程では――」
「彼らはデュアルランダーだ」
「――っ!?」
「気にしないで。改めて、玲央くん?」
茫然とする玲央に向き直り、生徒会長は玲央に笑いかける。
二人のやり取りを見て、玲央も彼が全てのトップ……生徒会組織を束ねる存在であると理解した。
「現れやがったな! てめぇをぶっ飛ばして、次は教師共をぶっ飛ばす!」
玲央はダグラス先輩にあんなにボコボコにされたっていうのに、まだやる気だ。
「どうして? 君は人形生だ。しかも特待生ではなく、やむなくこの学校へ連れて来られたんだよ? そんなに怒る意味を教えてくれないか?」
「当たり前の事だ! どんなに嫌な奴でも、どんなに最低な奴でも、死んで良いワケねぇ!」
玲央はフラフラと立ち上がりながら、握り拳をわなわなと震わせて開いた。
そして、武器を再び生み出して、握り込む。
「てめぇらは連中を見捨てやがった! それだけでぶっ飛ばす理由になるんだよ!」
燃え上がる様に怒る玲央に対して、生徒会長は静かにそれを受け止める。
「なるほど、清い心の持ち主だ」
そして、玲央が動き出すよりも早く、彼は手を振り払った。
「うぉ!? な、なんだ!?」
その一瞬の間に光のロープが玲央を縛り上げて、会長がそのロープを引けば玲央はそのまま倒れてしまった。
「是非とも欲しい。ちょっとの間、待っていてね」
「クソっ! こんなのすぐに引きちぎってやる……!」
ジタバタともがいているけど、光のロープはビクともしない。
生き物が肉片になるパワーの玲央が壊せないロープって、いったい何で出来ているんだ!?
「さぁ、次は君だよ。紡世界くん」
「えっ!?」
会長は僕を見据えて、マントをたなびかせ微笑みながらゆっくり歩み寄ってきた。
その姿はなんていうか……。
怖い!
いや、マジで怖い!
玲央を一瞬で縛り上げてしまった人がゆっくりと微笑みながら近づいてくるのはもう素直に怖い!
「ひっ、こ、来ないで!」
僕は反射的に拳銃を生み出して、会長に向けてしまう。
それでも会長は少しも機嫌を損ねる事はなく、むしろ大喜びだ。
「凄いね、銃という複雑な物を生み出す正確さと生成速度。ますます生徒会に欲しい人材だ」
なんか言ってる! 欲しいって何!?
彼がぐっ、と深く前かがみになったと僕が認識した瞬間、彼は僕の目の前に居た。
「わぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!?!?」
「怖がらないで」
「むりですぅうぅぅぅぅっっ!!!!!」
「大丈夫だよ。ねぇ、君は素晴らしい力を持ってる。けど、足りない物がある」
そう言いながら会長が僕の作った拳銃を掴むと自分の心臓の当たりまで持っていって、銃口を自分自身の胸に押し当てる。
「な、何をするつもりですかぁ!?!?」
「何って、少し威力を見てみるんだよ?」
そのまま、僕の引き金にかかった人差し指に親指を重ねて押し込む。
ばぁん! という銃声と共に会長の身体がほんの少し後ろへ跳ねる。
けど、弾は服を焦がすだけで、ダメージというダメージは無い。
「ひぃ……ひぃ……」
「うん。良い威力だ。でも、足りないね」
「何がですかぁ~~っ!?」
「ドール能力は知識がそのまま力になる。銃という物は色んなパーツで組み上げられているんだよ」
会長は一歩下がると、僕の目の前に手を掲げた。
その白く綺麗な手に光が集まって、パーツから精巧な拳銃が生み出されていく。
「撃針、撃鉄、マガジンに薬室。そして銃弾。今の君は力を圧し固めた物をただ解き放っているだけに過ぎない。ちゃんとした形に練り上げるんだ。そうすれば実在しない物だって実在する様になる」
そう言って、会長が生み出した物は弾が出る場所が4つもあるゴテゴテとした拳銃……と呼ぶにはあまりにも大きい物だった。
「これが君の扱える能力の一端だ」
そして会長は空へ向け一発。正確には4発同時に射出されるそれを撃ち放った。
僕といえば、あまりにもレベルが違い過ぎる存在への畏怖に、脚から力が抜けてぼてっと尻もちをついていた。
「おい、クソ会長!」
「貴様ッ!」
「ダグラス。いいの、彼に喋らせて」
「そうやって力を見せつけて、何がしてぇんだよ!」
「本当に元気がいいね。じゃあ早速本題に入ろう!」
会長は玲央を縛るロープを解いて、彼を自由にした。
玲央も流石に敵わないと思い知って、ムスッと不貞腐れながら僕の横に座った。
それを見届けてから、会長はニッコリと笑顔で両手を広げて言った。
「君達を生徒会組織に迎え入れたいんだ!」
「はぁ!?」「えぇ!?」
後光でも差しているかの様にキラキラとした笑顔で、彼はそう言った。
え? 聞き間違いじゃないよね?
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