第3話「吠える玲央」

「よくぞ生き残ったッッッ!!!」


渡り廊下の両脇から、白と灰が混ざった迷彩柄の肩マントを羽織った指揮生と紺色の警察の制服みたいな色合いの肩マントを羽織った数十人の指揮生オーナーが現れる。


 校舎の上からも、同じようなマントを羽織った二種の生徒。今度は人形生ドール達が飛び降りて、自分の主である指揮生の側へと着地した。


 困惑する僕達一年生を置いて、最後に二人の生徒が降り立った。


 どずんっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 とでも表現しようか? それぐらい重々しい音を立てて着地したのはもの凄い身長の高い……多分185cmオーバー! そして、とてもキリッとした凛々しくも中性的な顔立ちをした人。


 肌は白く、テクノカットで切り揃えた髪は金色。恐らくは外国人?


 その人が羽織っている肩マントは白と灰の迷彩柄でベレー帽を被っている。まるで軍人の様な出で立ちで、雰囲気からして沢山現れたマントを羽織った生徒達を取り仕切る人らしい。


 制服の色は臙脂色と白だから指揮生。腕に刻まれた黒線は2本だから2年生で僕達の先輩。


 側に控えるのは、この人と同じくらい身長が高くて、軽薄そうな雰囲気の男の人。


 赤みがかったピンクに染めた髪。両サイドを刈ってツーブロック。前髪はパーマをかけて左に流していて、伸ばした襟足を三つ編みにしている。 


 制服は紺と白のツートンで人形生。黒線は同じく2本。恐らく、軍人みたいな先輩の人形生という事だろう。


 軍人みたいな先輩が僕達の顔をざっと眺めると、屋上で叫んでいた様に拡声器を持って口を開く。


「私は、生徒会風紀部委員長のダグラス・セブンス・マッカーサーである!」


 校舎の窓が少し震えた。


 そんなレベルの声だから、目の前の僕達に至っては耳が壊れる勢いだ。


「良くぞ今日を生き残った! 肝っ玉の太い奴も何人かいるみたいだな! お前達は風紀部か警備部向きだ! 喜べ!」


 ダグラスと名乗った先輩は鋭い眼光で僕と玲央の事を見ると、左手を挙げて他の指揮生を呼んだ。


「これより、契約した者同士で寮の部屋を割り当てる! 一年生は並べ!」

 

「おい、待てよ!」


 拡声器で叫ぶダグラス先輩に、玲央が噛みつく様に声を発した。


「お前達、二年だよな!」


「そうだ」


「だったら戦えるんだよなぁ!」


「れ、玲央……」

 

 玲央がなんと言わんとしているのか、僕は察した。


 だから止める。流石にヤバい。


「止めんな、世界!」


 僕の腕を振りほどき、玲央はダグラス先輩の前まで詰め寄る。


「どうして俺達一年が死んでいくのを放っておいたんだよ! なぁ!」


「それがこの学校の取り決めだからだ」


「ふざけんな!」


「ふざけていない」


「てめぇ!」

 

 取り付く島もない態度のダグラス先輩に向かって、玲央は武器を生み出して殴りかかる。


 だが、それを先輩は後ろに飛び退いて回避した。


ラブ


「はいよ、ダグちゃん」


 側に控えていた、らぶと呼ばれた先輩が玲央との間に入る様に立ち塞がった。


「良くないよ、生徒会系列に逆らうの」


「関係ねぇ! おめぇら上級生も教師共もぶっ飛ばす!」

 

 玲央は完全にブチギレてて、もう止めれない。


「ま、そう思うのも仕方ないね。いいよ、最初の一発は譲ってあげる」


 言うと、恋先輩は手に光を纏わせて、武器を生み出した。

 

 現れたのは、玲央が作る粗雑な棒とは全く違う、精巧な物だった。


 俗に、レイピアと呼ばれるその剣は特有の洗練された篭柄まで再現している。


「そんな剣で耐えれるかよ!」


「玲央! 待って!」


 僕が止めるのも聞かず、玲央は横振りで光の棒で殴りつけて、それを受け止めたレイピアはいともたやすく砕けて、恋先輩は後ろへ5mほど吹き飛ばされていく。


「っし!」


 玲央は勝気な表情で拳を握って小さくガッツポーズをする。


 一見、玲央が優勢……そう見えるけど、違う。


 後ろで見ていた僕にはよくわかった。


 恋先輩の武器は玲央の攻撃に耐えきれずに砕けたんじゃなく、最初から玲央の攻撃を受けたら砕ける様にしてあったんだ。


 確か、何年か前に父さんが話している事があった。


 現代の車のフレームは、実は柔らかい。


 なんでかっていうと、事故を起こした時の衝撃を分散させて運転手を守る為なんだって。


 恋先輩はそれと同じ原理で敢えて壊れやすくしたレイピアを生み出して、玲央の攻撃を受け流したんだ。


 これが本物の武器なら問題だけれど、体力が続く限り際限無く武器を生み出せるこの能力であれば、むしろ利点。


 そして、一撃目を玲央に譲ったのはサービスじゃない。どれだけ力を持っているかを測る為だったんだ!


 そして、きっと彼の本領は――。


「ダグちゃん、アレ使っていい?」


「許可する!」


 ダグラス先輩がそう叫ぶと同時に、恋先輩は新たな武器を生み出していた。


 生み出したのは滑車を利用して強力な矢を解き放つ現代科学が生み出した弓。コンパウンドボウ。


 きっと、玲央を救った矢を放ったのはあの弓だ。


 そして、その威力は玲央の一撃に匹敵するか、それ以上……。


「玲央! 逃げて!」


「逃げれるか!」

 

 ダメだ! 殺される!


 けど、玲央は思ったよりも冷静で、恋先輩ではなくダグラス先輩の方へ向かう。


 きっと、先輩を人質にするか盾にして、恋先輩が矢を撃てなくする為だ。


 直情的な割にやる事が汚い!


 でも、僕ですら戦えるんだから――。


「弱いッッ!!!」


「ごぶぇ!?」


 直線的に向かってくる玲央へ向けて、その長い脚で重い蹴りを放った。


「指揮官を狙うだけの頭は働く様だが、そう易々と頭が取れると思うなッ!」


 そう言いながら、ダグラス先輩はブーツを鳴らして、玲央の前まで歩みより、武器を生成する。


 生み出した物は実銃と見間違えそうな程に正確に生み出された、黒色のアサルトライフル。


 その銃口を、ダグラス先輩は玲央の眉間に向けた。


「クッソ……っ!」


「終わりだ、駄犬」


「終われるか! 許せねぇんだよ、人を家畜をみてぇに――ぐがっ!?」


 尚も吠える玲央の手に向けて、ダグラス先輩は一発射撃する。


 痛みに手を押さえながら悶える玲央を見下ろすダグラス先輩は、本来の背丈よりも大きく見えた。


「それで私を殺して何になる?」


「あァ!?」


「システムを憎むならシステムを憎め。私にその矛先を向けた所で、ただの八つ当たりだ!」

 

 正論……としか言いようがない。

 

 ダグラス先輩は飽くまでもこの学園が決めた事に従って今の今まで静観していただけで、ダグラス先輩もまた今日の様な地獄を味わったんだ。


「そのシステムとやらに従ってたらお前だってシステムの一部だろ!」


 それでも、玲央は怯まずに自論で返す。


「動けなくなるまで痛めつけないと分からん様だなァ!」 

 

 映画とかで見たアサルトライフルっていうのは、僕が見様見真似で作った拳銃とは違って沢山の弾を連続して出せる銃だ。


 さっきは一発だけで留めたけど、今度こそ先輩は玲央が言った通り動けなくなるまで撃ち続けるつもりでいる。


 そんな事をされれば、もしかしたら死んでしまうかもしれない!

 

 止めなくちゃ。


 止めなくちゃ。


 なのに、身体は動いてくれない。


 訳が分からない事が起きて、化け物と命懸けで戦って。


 それなのに、生き残っている人同士でまた争って。


 僕の身体はそれに耐えかねて、もう言う事を聞いてくれない。


 情けない。


 玲央はあんなにも、知らない人の為に怒っているのに。

 


「そこまでだよ、ダグラス」


 その時、空から純白の肩マントを羽織った……月の様な色の髪をした青年が舞い降りた。

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