第2話「共同生活の始まり」
陽はすっかり落ちて、窓の向こうには紫雲が広がる頃。
場所は豪奢な調度品が並ぶカミツレ女子の理事長室。
そこに、来客用のソファで有坂ネコと佐藤佳奈は並んで座っている。
向かいには、テーブルを挟んだソファに妙齢の女性が座っている。
女性としてはかなりの高身長で、あまり体格の良い人種ではないHAL人に合わせた椅子では、脚を余らせている。
顔立ちも整っていて、神在月義継と似た雰囲気を持つ。
それもそのはず、彼女は名を神在月義久。
義継の伯母であり、このカミツレの理事長を勤めている。
義久の隣には、義継が立って腕を組みながら控えていた。
「まず、授業でも習った通り、ミーティアは条約により、満20歳以上の装備を禁ずると定められている」
義久は、まずミーティアという兵器が置かれている状況を口頭で話す。
ネコの股間へ頭突きをした後、義継に連れられて理事長に事情の説明を受けている状況だ。
「結果として、HALは研究を続行する為、このカミツレで生徒達に協力を受けてミーティアの実験を行っている。ここまではいいね?」
「はい、高校説明会で話してたのはなんとなく覚えてます……」
正直なところ、いま言われて思い出したほど記憶になかった事は、佳奈も口をつぐんだ。
「しかし、パイロットをわずか3年間……実際には就職や受験があるから2年で手放すのは免れない。もっと言えば習熟に最初の1年を使うから、テストパイロットとして実験に参加できるのは2年生だけという状況だ。せめて、最初の1年の習熟度を早める事ができれば……そこで、有坂くんだ」
「どうして、この人が?」
そういって、佳奈は隣に座るネコの顔を見る。
佳奈の頭突きを喰らってまだ痛むのか内股で、顔もムスっと不貞腐れている。
「佐藤くん。有坂と聞いて、思いつかないか?」
「全然です」
思わず義久はガクっとうなだれたが、すぐに咳払いをしながら頭をあげる。
「有坂といえば、HALの二大重工業会社の有坂重工があるだろう?」
「あ、あぁ~~! 車とかのCM出してるあの!」
有坂重工。それはキサラギ重工業に並ぶ大企業である。
車、造船、航空機、電化製品など、多岐に渡る分野でトップシェアを誇り、ミーティアの開発にも携わっている。
そして――
「ってことは、有坂さんってお嬢様!? ……じゃなくて、お坊ちゃま!?!?」
そう、有坂ネコは現社長。有坂隆文の息子であり、有坂重工の御曹司である。
「やっと気づいたの?」
その艶やかな髪を揺らしながら、ネコは佳奈の方を横眼に見る。
「ははぁっ! と、とんだご無礼を働き申し訳ございません!!!!」
ずさっと後ずさりながら、佳奈は必死に頭を下げる。
「すごい痛かった」
ネコはそれに対して、ムス~~~っと、頬を膨らませながら視線を窓の方に移す。
視界の端には、事件の起きた寮が見える。
夕飯を一緒に食べるという約束をしたのに、こんな事になってしまい申し訳が立たない気持ちでいっぱいだ。
そんなネコと佳奈をよそに義久は説明を続ける。
「さて、そんな有坂くんだが、流石は御曹司という訳かミーティアの操縦技術は卓越したもので、知識も豊富だ。そこで、我がカミツレにてそれをご教授頂こうと思ったわけだ」
「はぁ……でも、有坂さんって男の子ですよね?」
「ああ。しかし、彼の顔を見たまえ」
「……どう見ても美少女ですね」
「だから、彼には女子生徒としてこの学校に編入して貰ったという事だ。納得して頂けたかな」
「ラノベかアニメみたいな話ですね」
理事長室で義久の語る素っ頓狂な内容に思わずポカンとした顔になる佳奈。
「ボクは納得してません! そもそも最初は編入の話を聞くだけだったのに!」
「お父上の許可は取ったからなぁ」
どうやら、汚い手で外堀を埋めて編入させたようだ。
「それでだ。本来は2組になる筈だった有坂くんが1組になり、佐藤くんの部屋にされた理由なのだが……はぁ……」
義久はため息をつくと傍に控えた義継は意地の悪い笑みを浮かべて、彼女の肩を叩いた。
「説明してあげたらどうです、伯母さん」
「ああ……率直に言えば副理事長による妨害だ」
この学校の副理事長はコネと根回しだけで出世してきた人間で、出世欲に飽きは無いのか、前年度から度々理事長を失脚させようと色々やってきたらしい。
そのせいで派閥も割れて、心底うんざりしているのが義久の顔からよくわかる。
今回も、もっともらしい理由をつけて義久の息が掛かったネコが自由に動けないように別の組にしたり、他の生徒と相部屋になるように仕組んだりと工作を働いたようだ。
「それで佐藤くんが巻き込まれてしまった訳だ」
「はぁ……」
佳奈はチラチラとネコを見る。
当のネコはむしろ自分は被害者だと言わんばかりの顔をしていた。実際に、彼もまた不慮の事故の被害者であった。
「そこで佐藤くんに頼みがあるのだが」
「え、なんですか?」
「彼と相部屋になってくれ」
「えぇぇぇ!?!?」
予想外の要望に、佳奈は思わず部屋に反響するほどの声を挙げる。
「私が!? こ、こんな、びっ、美少年と!?」
「嫌なら構わないんだが……」
「いえ! むしろご褒美です! でもぉ……」
対するネコは、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「や、やだ、あんな汚い部屋!」
「うぐぅっ!」
心に突き刺さる言葉に身悶えしている佳奈をよそに、ネコは淡々と続ける。
「けど、拒否権無いんでしょ?」
義久は笑うだけで何も言わない。
ため息をつきながら渋々了承してとぼとぼ二人は部屋に戻った。
「はぁ……まったく……」
部屋に着くなり、ネコは悪態を吐く。
「どうしてこんなに散らかってるんだ!」
佳奈が足を滑らせたの無理はない。床にはゴミがひしめき合っていて、掃除はほとんどしていないようだ。
「今度こそ着替えさせてもらうからね」
「あぁ、待って! ホントに待って!」
そういうネコを遮るように前へ出て佳奈がベッドルームの扉を塞ぐ。
「どうして?」
「その……見られては困る物が放置してあると言いますか……」
「なんでまた……っていうかどんな……」
「え、エロい奴……」
「な、なんでそんなもの放置してあるの!」
「ひぃ、ごめんなさい!」
大慌てでがさごそと物音を立てながら件の物を片付け、入れ替わるようにしてネコが入っていき制服を着替えて皺にならないようハンガーにかけてから出てくる。
「さて、まずは掃除だね」
ベッドルームから出てくるなりそういうと、佳奈は露骨に嫌そうな顔を浮かべる
「えぇ、今からぁ?」
「これからはボクのスペースでもあるんだから、当然だよ。えーっと、雑巾は……これかな?」
ネコはぼろぼろの薄い布切れを手に取った。だが、それは雑巾などではなくて――。
「いや、それ私のパンツ……」
「わぁぁっ!? ご、ごめんなさいぃ!! っていうか……もう! これからはなんでも床に放置しないでぇ!」
そんなこんなでリビングルームの急ピッチな掃除が始まった。
「なに、この本……うわぁ! これもエロいやつじゃん!」
「わぁぁっ!? 私のBL本勝手に見ないでぇ!!」
などと紆余曲折ありながらも、何とか22時を回る前に終わる。
「はぁ~~……やっと終わった……」
「お、お疲れ様」
身体を投げうつようにしてソファへ横になるネコ。
そんなネコの右手をまじまじと佳奈は見つめていた。
「その右手、どうしたの?」
「え?」
やはり、この動かない右手のことは気になるのか、今日も何度かクラスメイトにも聞かれたものだ。
「あぁ……えっと、つい数週間前までリヴァルツァ合衆国に住んでいたんだけど、そこで怪我をして……それから右手が動かなくなったんだ」
「それは……その、大変だね」
「もう慣れたからいいよ。でも不便なのは確かだから、その辺りも含めて学校生活を助けてくれると嬉しいかな」
そういうと佳奈は俯いてしまう。
「私にできるかなぁ? 私ってばノロマだし、頭悪いからすぐ人を怒らせちゃうし、助けるどころか迷惑をかけちゃいそうで……有坂さん、やっぱり理事長に言って変えてもらった方が……」
「ネコでいいよ。まぁ……ボクもああは言ったけっど、ボク達の方こそ巻き込んでしまっているから、そういう事は言いっこなしだよ、ね?」
「わ、わかった。ネコ……くん……?」
「”くん゛をつけちゃうと男ってバレちゃうよ」
「あ、そっか。じゃあ、ネコちゃん?」
「うん。それじゃあ、よろしく」
そう言って、ネコは左手を差し出す。
佳奈は戸惑いながら、差し出されたネコの手を握る。
「よろしくお願いします……はぁ、やわらかいしスベスベだし、私より女の子の手をしてるぅ……」
「そりゃあもうケアを怠ってないからね……って、触りすぎ触りすぎ」
「ご、ごめん」
「じゃあ、ボクは先にお風呂入るね」
そうして、ネコは丹念に風呂を済ませ、スキンケアを施す。
それらが終わって時間は23時前。夜更かしは美容の大敵とネコはすぐさまベッドへ横になる。
散々な一日でネコも疲れていたのか、数分と経たない内にネコは眠りについた。
明日もまた、大変な一日になるだろう。
そうして翌朝。
「起きろぉ! 佳奈ぁ!! 起きろぉ!!」
「うぇぇ……あと5分……」
「その「あと5分」は三度目だよ!!」
佳奈は遅くまでゲームに明け暮れていたようで、ベッドにしがみついているの剥がそうと騒々しい朝になっていた。
そこへ部屋のインターホンが鳴り響く。
「ちゃんと起きてね!?」
と言い残すと、ネコは来客を迎えた。
「ネコさん! 朝食を食べにいきましょう」
やってきたのは円香と縷々の二人。
彼女達はもう既に準備を終えていて、校則に触れない程度に化粧も済ませているようだ。
「ごめんね、佳奈がまだ準備出来ていなくて……」
「佳奈? 誰それ。神在月先輩じゃないの?」
後ろに控えていた縷々が急に前へ出る。
すると、ベッドルームからようやく佳奈がねむけまなこを擦りながら現れる。
「ネコくん、だれがきたのぉ? あ」
「あなたは!」 「げ、あんた」
佳奈の顔を見た瞬間、縷々と円香が同時に声をあげながら指を指す。
「あれ? みんな知り合い?」
「いえ、その……入学して暫くの時に、色々ありまして、その時に助けて頂いたんです」
「縷々もそうなの?」
「えっと、うん……」
「見ず知らずの人を助けるなんて、偉いじゃない」
「ど、どうも……」
「でも、早く準備は済ませてよね」
「は、はい! お母さん」
「誰がお母さんだ!」
「それで、一体どうして佳奈さんとネコさんが同じ部屋に?」
「まぁ立ち話もなんだから入って入って」
そう言ってネコは二人を招きいれ、昨晩あった事を説明する。
押し倒されたと聞いた時、縷々の表情は名状しがたい凄まじいものだった。
説明が終わる頃に、佳奈の準備も済んだらしい。
「もう、寝ぐせが治ってないよ」
「えぇ~、寝ぐせぐらい別にいいよぉ」
「ボクが気にするの。ごめん、二人とも、佳奈の寝ぐせを直したら僕たちも行くから先に行ってて」
「わかりました。じゃあお先に待ってますね」
「うっ……うん……」
縷々だけうらめしそうにしながら二人はネコと佳奈の部屋を後にする。
二日目の登校は道すがら通る人に声をかけられてはそれへ声を作って受け答えるものとなり、クラスへ着く頃にはもうネコは肩で息をしていた。
二度深呼吸をした後クラスに入る。昨日と大差ないまでの騒がしさで、クラスのみんながネコの元へ押し寄せる。
「うわぁ、なにこれ」
しかし、巻き込まれた佳奈を見るなりクラスメイト達は一様に鎮まり、微妙な雰囲気となる。
「佳奈、何かしたの?」
「え? いや、あはは……まぁ、最近学校来てなくて」
頭を掻いて、佳奈は誤魔化す。
すると、クラスメイトの一人が作り笑いを浮かべながら、おずおずと訊いてきた。
「ねぇ、どうして二人は一緒に登校してきたの?」
「寮が一緒の部屋になったんです」
「あぁ、そう……」
やがて、最初の微妙な雰囲気が嘘のようにまたネコを中心にクラスが騒がしくなる。
人の波を搔き分けるようにして、二人は席につく。
昨日空いていた前隣の席が佳奈の席だった。
クラスメイト達は佳奈を押しのけて、ネコに詰めかける。ネコは辟易とした顔で対応していると、やがて担任の教師がやってきてようやく解放された。
そうして、HRが始まる。定例通りの挨拶と、今日は「ミーティア実習」があるから怪我に気を付けるようにとのこと。
HRが終わろうという頃、校内放送が流れた。
『1年B組の有坂ネコさん。研究棟までお越しください』
「ん? なんだろ?」
「有坂さん、研究棟の場所わかる?」
「私が案内しようか?」
そういって、クラスメイトは口々に手を挙げる中でネコは佳奈の方をチラリと見た。
佳奈はオロオロした様子で、向こうもネコの方を見てはいるが、どうしたらいいかわからない様子だ。
すると、見かねた教師が助け船を出す。
「あなた達は次の授業の準備をしなさい。こういうのは相部屋の人にお願いします。案内できるわよね? 佐藤加奈さん」
「は、はい!」
クラスメイトもその采配には渋々従い、ネコは佳奈に連れられるまま教室を後にする。
大きな校舎を一度南の端まで進み、西へ続く校舎の渡り廊下から西棟へ行き、そこから更に西へ出たところに研究棟はあった。
ここが、カミツレ研究所である。
「入口まで連れていけば、あとは大丈夫だよね?」
「うん、多分ね」
「それじゃあ、またあとで」
佳奈を見送ってからネコは研究棟へ入っていく。
中は沢山の白衣を着た人間や作業着を着た人間が行き交い、如何にも研究所といった場所であった。
「すみません、さっき校内放送でここに来るように言われた、有坂ネコですけれど」
「はい、承りました。いま人を呼びますので、暫くお待ちください」
受付で待っていると、金髪に染めた髪をパーマで巻いている身長の高い白衣の男が現れた。
その人は、濃いめのメイクをしていて、目元にはアイシャドウまで塗っている。
「あらやだぁ! とってもチャーミング! あなたがネコちゃんね!」
「うわぁ、なんだこの人」
「ナンダコノヒトじゃないわ!
「は、はぁ……」
「ミーティアは人とシンクロして自分の意思をダイレクトに操作へ反映させるのは知っているわよね?」
「ええ、もちろん」
「だから、カミツレで実験に協力してくれている子達のメンタルへの影響はとっても興味津々。けれど同時にすごくセンシティブなの。だから、アタシがスクールカウンセラー兼脳科学の面でどこまで影響が見られるかを診ているって訳」
「それでそういうキャラなんですか?」
「いやぁね! これはアタシの素よ! ありのままの姿といっても過言じゃないわ!」
「ヤバい人じゃん」
「世間話は置いておいて、今日はネコちゃんにプレゼントが届いているわよ! 早速見せてあげるから、ついていらっしゃい」
引きつった笑顔を浮かべながらネコは言われるままについていく。
研究棟から続く連絡通路を渡り、グラウンドの隣に併設されている格納庫へ入っていく。
そこはミーティアの本体やそれに搭載する装備類が四方八方に並び、ネコは欄々と目を輝かせる。
「着いたわよ」
辿り着いた格納庫の奥で、肘まで覆える手甲とロングブーツのような足甲が傍で並び、金属質な外骨格の背面にまるで機首のない戦闘機のようなものを背負う形で取り付けて、そこに鎮座していた。
これが、ミーティアだ。
「M2A3F-14じゃないか! しかもこのスラスターブーツの仕様だと第三改修型のロットⅡ!? すごい! 第二世代型ミーティア完成形のひとつ!」
それを見るなりネコは今までにないはしゃぎぶりで、早口にまくしたてる。
「と、とっても詳しいのね」
「詳しいも何も、有坂重工製ミーティアのカタログならほとんど暗唱できます! すごいなぁ、やっぱりF-14タイプやF-15タイプをはじめとして、既存戦闘機をモチーフに作られた型のミーティアは造形が良いっ!」
「キャラ変わってないかしら?」
尻尾があればパタパタと振っていそうなぐらいにネコはこのミーティアに食いついてまわりをうろうろと周っている。
「ん?」
すると、ネコには見慣れないものが目に留まる。
ミーティアの本体の背面。戦闘機で言えば機体上部に当たる位置に、細長い黒色の箱のようなものが取り付けられていた。
それは、中心の辺りでアームにマウントされていて、頭の方には蓋のようなものが施されている。
有坂重工のカタログを完全に網羅しているわけではないが、それでも大方のものならば見分けがついた。しかし、ネコには全く見覚えがなく、ネコの頭には疑問符が浮かぶ。
「(この形状からすると……ミサイルポッド? でも、ミーティアサイズのミサイルポッドなんて見たことも聞いたことも無いな)」
考え事をしていると、忠人がネコの肩を叩く。
「お話してもいいかしら?」
「あぁ、どうぞどうぞ」
「それでね、この機体はあなたが専属パイロットになることを条件にウチの研究所に寄贈されたものなの」
「僕がこの機体の……専属パイロット!? いやぁ、嬉しいなぁこんな素晴らしい一品をなぁ~! 僕が好きにしていいなんて夢みたいだなぁ」
「それで送り主なんだけど……」
「十中八九父さんだよね、有坂重工製だし」
「いえ、あなたのお母様よ」
「え?」
その言葉を聞いて、ネコの瞳からは途端に輝きが失せて、ウキウキと身体を躍らせていたのが噓のように足が止まる。
「そう……ですか……」
するすると力が抜け、ネコは俯きながら右手を撫でる。
その冷たさが嫌な思い出を呼び起こすことになっても。
「あら、どうしたのかしら?」
「いえ、なんでも……その、僕が他の機体に乗ることってできますか?」
「う~ん、正直ミーティアの台数に余裕がないからこの機体に乗るしかないわね」
「わかりました……大事に使わせて頂きます……」
その表情に暗い影を落とすネコの肩に、忠人は微笑みながら手を置いた。
「……ネコちゃん。自己紹介の時に言ったけれどアタシはスクールカウンセラーも兼任しているわ。もしも何か悩みだったり、誰かに打ち明けたい事があれば何でもアタシに言ってちょうだい」
「はい。わかりました。頭に入れておきます」
「それと、今後の授業を受ける時はすこ~しクールになるよう気をつけておいてね。でないと、可愛い女の子を演じきれないわよっ!」
忠人に言われてはっとする。
そう、ネコは飽くまでも有坂重工の社長令嬢としてやってきているのだ。いま、完全に素のまま……まるでおもちゃを与えられた少年のように目を輝かして話していたことに気づいていなかった。
「た、確かにそうですね、ありがとうございます」
「それじゃあ、今日の実習までにメインフレームとエグゾスケルトンの採寸が合うかのチェック。それが終わったら受付で公欠届貰って次の授業を頑張ってらっしゃい!」
言われた通りに軽く採寸を測り終えて公欠届を受け取ると、ネコは忠人に見送られながら研究棟を後にした。
クラスに戻ろうと中の様子をうかがうと、佳奈は机に突っ伏して寝ているところを担任に頭を小突かれて起こされる場面を目撃する。
くすくすと声を押えながら笑い、にこにこした顔でネコはクラスの中へと足を踏み入れた。
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