恐怖の迷惑メール

石花うめ

恐怖の迷惑メール

 僕の名前は、荻原守一(おぎわらしゅういち)。

 どこにでもいる、自堕落な生活を送っている大学生だ。

 毎日スマホでいろんな映像作品を観ながら、思ったことをツイッターで適当につぶやく。そんなダラダラ生活を満喫している。

 しかし最近、悩み事ができた。それは、迷惑メールがたくさん届くことだ。

 僕が映像作品を観ているうちに、未読のメールがたまっている。鬱陶しくて仕方がない。

 今日もたくさんの迷惑メールが届いた。

 スワイプ、スワイプ——

 メールを削除していると、ふと気になるメールを見つけて指が止まった。

 僕の好きなAV女優・大塚加恋(おおつかかれん)を名乗る人物からのメールが届いていたのだ。

 メールには、

「君に会いに行くよ! 私の位置情報をリアルタイムで見たいときはこちら!」

 と書いてあり、合わせてリンクも貼ってあった。

 ——まあ、これも詐欺でしょ。

 スワイプして、消去した。


 次の日。また大塚加恋からメールが届いていた。

「今日は東京から名古屋へ移動! 名古屋で味噌カツを食べたがや~! 守一くんが住んどる滋賀には明日着くわ~! 楽しみにしとってちょ~!」

 ——名古屋弁使ってくるとか、ちょっと面白いな!

 それにしても、僕の名前と住所はどうしてバレたんだろう。当てずっぽうで書いたのがたまたま当たったのだろうか。

 不気味さを感じながら、今日もメールを削除した。


 次の日も、大塚加恋からメールが届いた。

 さすがに少し怖くなって、震える指先でメールを開く。

「滋賀に着いたよ! もうすぐ荻原くんのお部屋に着くからね! 楽しみに待っててね!」

 ——メリーさんか! でも、もし本当に誰か来たらどうしよう。

 怖くなって、玄関に護身用のバットを置いておいた。

 

 夜になったが、結局誰も来る気配がない。

 ——なんだ、やっぱり考えすぎか。

 安心したので、夜の日課になっている自家発電に励むことにした。

 スマホで大塚加恋の映像作品を再生。

 ズボンを下ろして、椅子に座る。

 その時、玄関のインターホンが鳴った。

 慌ててズボンを履き、スマホをポケットに仕舞って、玄関の扉を開ける。

 玄関には二人の男。ハンディカメラを持って立っている。

 ——しまった! 無防備な状態で玄関開けちゃった!

 慌ててドアを閉めようとすると、聞き覚えのある声が二人の男の後ろから聞こえた。

「荻原守一くんだよね? こんばんは!」

 なんとそこには、大塚加恋が立っていた。

「おめでとう! 君は、私のツイッターでやってる『AVの感想をつぶやいた人の家に上がり込んで、素人モノの撮影をしちゃおう企画!』に当選したんだよ!」

 彼女は後ろで手を組んで、ニット越しでも分かる豊満なバストを強調しながら言った。

「え、ああ、はい……」

 いきなりすぎて、何をしゃべったらいいのか分からない。

 どうやら僕は、そんな夢のような企画に当選してしまったらしい。

 まさか、あの恐怖の迷惑メールが当選通知だったなんて……。

 ややこしいにもほどがある!

 しかし、これまで僕が感じていた恐怖は、全て喜びに変わった。

「じゃあ、これから守一くんを、気持ちよくさせちゃおうかなー!」

 大塚加恋が僕の手を取り、家に上がり込む。

 そしてこの後、僕たちはめちゃくちゃ——



 後日、また大塚加恋を名乗る人物からメールが届いていた。

「昨日わ、楽しかったネ。ココに、オフショットあるよ。クリックしてネ」

という本文の下にリンクが貼られている。

 ——すごい! この企画、オフショットもくれるんだ!

 クリックした。

 スマホの画面は真っ暗になり、赤い文字が映し出された。

「この端末はウイルスに感染しました」

 ——あ。


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