第9話「戦いたくない少女」改3.00

鳴き声がする。

小鳥のような可愛い声だった。



「チチチ」



空気は乾燥していて刺激的。

閉じていたまぶたの隙間から光が入り込んでくる。


意識が戻っている。

サクラは目を開けた。


仰向けに寝ているサクラの目の先には天井が見えた。

木目がはっきりわかる木の板。

大分すすけてくすぶっている。


布団に寝かされていた。

少し固めの敷き布団。

ふかふかの掛け布団がサクラの体にかけられていた。

誰かに運ばれたのかな。

そう思ったサクラは横を向いた。


畳の部屋の先、廊下を挟んで外に突き出した木製の床がある。

よく見ると縁側だった。


広い庭だった。

真ん中は地面が黒めの土。

木が奥に植えられている。

松の木なのか、幹がくねっと曲がっている。

根元の方を見ると、椅子になりそうな岩が置かれていた。

小鳥が飛んできて、鳴いている。

木の枝に留まって辺りを警戒しているようだった。


平和な場所だなと感じた。

そこに自分がいる。

無事であることが不思議だった。


誰かに助けられたらしい。

それは分かった。

サクラの呼吸が落ち着く。



「目が覚めたかな?」



声をかけられた。

つぶれた声だったが、落ち着いた優しさのある声だった。


振り返る。

上半身をひねる。


そこには、作務衣を着た老人が立っていた。



「一晩中眠っておったから、大丈夫なようじゃの」



自分の体をよく見ると昨日の戦いで血だらけになったはずの体もきれいになっている。

服も浴衣のような薄い生地のものを着ていた。


老人は頭を下げて一礼した。

礼儀正しくして部屋の中に入る。


男の人にしては身長が高かった。

白髪で肩にかかるぐらいの髪だった。

顔は少し焼けている。

見た目は穏やかで寡黙な感じだ。


手にお盆を持っていた。

ふすまを閉めるときに片手になっても揺れない。


サクラの正面に来て座った。

前を向いた時の表情は青年のような雰囲気を感じさせた。


※※※


老人は神社の神主さんだった。

名前はウメジ。

誰が見てもその風格を感じる人だった。

ウメジさんと呼ぶことにする。


サクラはこれまであったことを知って欲しくて、畳に正座して聞くウメジに話した。

ウメジは真剣な目でサクラを見ている。



「そうか、ついに来たのじゃな」



事情を知っているのか、サクラの話を信じてくれているようだった。

顔を下に向けて納得しているように見える。

ウメジはサクラに言い聞かせるように話した。

顔が前を向く。



「このさわぎは帝王の仕業なのじゃ。奴の封印が解かれてな」



ウメジは呼吸をおいてからゆっくりと話す。

話している事実を受け止めなければ、ハルを救えない、そう思った。

サクラの目はウメジの目を直視していた。


ウメジのまゆが動く。

額にシワが寄って、表情が険しくなっている。



「帝王を倒さない限り、友達は戻ってこぬ」



ウメジの声が低かった。

忠告でも警告でもないけど、立ち向かわなければならないと言われている気がする。

正直に事実を突きつけることがサクラのためになると思っているかのようだった。


サクラの視線が下がる。

気持ちが重いようだった。


勝てる気がしない相手に立ち向かえってこと?

高校生の私に?

帝王なんて今まで見たこともない。

物語の世界だと思ってたし。


現実じゃない。

ファンタジーだ。

でも実際にいるのだとしたら。


どうすればいいの?


人間なのかも分からない。

もしかして人間なの?

でも帝王って名乗っているぐらいだし。

でも、人間の姿はしてないか。


あー、もういい。

とにかく私がやらなきゃダメみたいなの?


サクラは分からなくなった。



「刀剣のエネルギーは帝王の弱点じゃ。使いこなせば、倒せるかもしれん」



ウメジの声は力がこもっているようだった。

サクラは色々な考えが浮かぶ。


ウメジさんは何で帝王の事を知っているんだろ?

妙に詳しいみたいだし、それにどんな関係なのか気になる。


もしかして昔、若い頃にひどい目にあっていてなんとかしたいと思っていたとか。


そんな事を考えていたサクラに、ウメジは言った。



「その気があるなら、この刀剣で戦ってほしいのじゃ」



必死さが伝わった。

なんとかしたい。

私もそう思う。


でも。


この人の都合で私の人生が振り回される。

いきなり帝王と戦えって言われたって、現実的じゃない。


サクラの表情は曇った。

ウメジさんは私なら倒せると思ってる。



「どうして、私なんですか?」



「刀剣に認められたからじゃ」



「でも」



「悪が蔓延っては遅いのじゃ。たのむ、このとおりじゃ」



ウメジはサクラを拝むように手を合わせる。



「チチチ、チチ、チ」



小鳥が鳴いていた。


次の瞬間、鳴くのを止める。

バタバタバタッと飛び立った。


それを合図にサクラの迷いは振り切れた。

サクラは沈黙を破る。



「私には無理です」



なぜか涙が出そうだった。



「私は戦いません」



悔しさを感じる。


そして、サクラは表情を固くした。

どうしようもない気持ちがする。


ハル、ごめん。

私には出来ない。


そんな言葉を心の中で言った。



【続く】



※作者より※


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

この話を書けて本当に感謝です。


帝王と戦えって言われたって無理です。

サクラは真剣に考えていて、そこが彼女を好きになる所だと思っています。


今後の少女サクラの刀剣日記にご期待下さい。


よろしければ☆一つでも頂けると嬉しいです。

感想もお待ちしております。

では。

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