第7話「刀剣と出会う少女」改3.00
恐る恐る様子を伺った。
床に転がったモップで立ち上がり、廊下へ出た。
立ち止まる。
廊下の奥を見る。
怪物がハルに飛びかかった。
サクラは食べられている友達を想像するのは嫌だったが、ハルがどうなったのか知りたかった。
知ってしまった瞬間、自分がどうなるのか心配になるが、妙な好奇心が出ている。
変な感情だ。
でも、本当だった。
怪物はハルを食らいつきはしていなかった。
ハルの体を持ち上げて背負い込む。
「待って」
痛みを堪えて、声を張り上げた。
サクラは震える声だった。
怪物はハルを背負い、外へ出て行った。
巨体にも関わらず、素早い動きで廊下を走り去って行く。
ハルは気絶していたのか、目を閉じていた。
あまりのショックが心をクラッシュさせたのだろうか。
サクラは固まった。
全てを失ったかのように全身から力が抜けていた。
それでもその場に立ち尽くしている自分が不思議だった。
足が全身を支えている。
どうしよう・・・いや、追いかけなきゃ。
ハルを追おうか迷ってる。
怪物相手に追いかけるのは危険。
止めた方がいいか。
でもハルを失うのは嫌だ。
助けたい。
その気持ちで、体は動いていた。
※※※
「タッ、タッ、タッ」
もう、夜になっている。
学校から出て、正門を出ていた。
くつの音があたりに響く。
暗い中を走っている。
怪物に連れ去られたハルを追いかける。
静かな住宅街だからか、音は余計に目立っていた。
怖くはなかった。
街灯や建物の灯りがあるおかげで、安心している。
目の前の事を一生懸命に考えていたら、恐怖はなかった。
ハルを助けたい気持ちで体は動いていた。
サクラの目線がやや下になっている。
手がかりを探る刑事のようだ。
怪物は足跡をくっきりと道路に残していた。
白くベタッとした跡だった。
これを追っていけばなんとかなるかも。
サクラはそう思った。
学校から離れた場所で、足跡は無くなっていた。
周りを見てもなにも無い。
手がかりがなくなったことに不安を覚えた。
でも、もしかしたら。
そう思って横を向いてみる。
道路脇には街灯があった。
明るく道を照らしている。
この場所は人気のない静かな所だ。
視界のはじっこにあるものが見えた。
(森が・・・。)
暗い森がある。
正面には赤い鳥居が建っていた。
街灯に照らされている。
サクラの身長をはるかに超えた高い柱だった。
太い木の柱が二本建つ鳥居だった。
くぐって森の中へ入る。
怪物が中にいるかもしれない。
ハルはどうなったのだろう?
森に入るのは迷ったが、ハルの事を思って勇気をだした。
森の中に参道があって、下は白い玉砂利だった。
歩くとギュッ、ギュと鳴る。
奥は暗くて見えなかった。
※※※
空は真っ黒だった。
灯りは参道を照らしていた。
灯籠のようなものが、参道の脇に置かれていてかがり火のようだった。
しばらく歩くと木々に覆われていた空が拓けて、広くなった。
前を向けば遠くまで見通せる広場のようだ。
サクラが奥に目をやると怪物を発見した。
正面に立つとサクラの姿が怪物に気づかれる。
見つからないように、森の茂みに隠れた。
森の茂みに足を踏み入れた時、心臓がドキドキしていた。
気持ちが高ぶり、緊張が高まった。
「パキッ」
サクラがしゃがんで後ろに下がった時に、木の枝を踏みつけたみたいだった。
その時。
「バサァァ」
カラスが一斉に飛び立った。
驚かせてしまった。
その騒ぎに反応し、怪物はサクラに気づいた。
ゆっくりと顔を後ろに向けて振り返った。
「グワァァァァーーー!」
うなり声が辺りに響く。
怪物はサクラと目が合った時、
前足で地面を掻いて砂埃を立てる。
こっちに突進してくる。
サクラは戸惑う。
どこかに隠れられないかと周りを見た。
一瞬の判断が命取りになる。
急がないと。
そう思っている間に、怪物が目の前に迫っていた。
地面の白い玉砂利がバシャリバシャリと飛び散り、
砲弾のように落ちてくる。
もう一度見回すと、広場のはじっこに灯りがある社殿があった。
「グワァァァァァーーー!」
怪物と目が合い、大きな口が飛びかかってきた。
一瞬の判断が命取りになる。
そう思ったサクラは、地面に伏せた。
「ドスン」
怪物はサクラの背後にあった木に飛びかかった。
体当たりしたためか、動きが止まっている。
かなりの衝撃をうけたようだった。
サクラは社殿に走り出す。
全力で走った。
走り出してすぐ、背後を確認した。
怪物は牙を剥き出しで走り出してくる。
すぐに迫ってきた。
恐怖は緊張を通り越して、限界を越えた。
もうダメ。
社殿に逃げ込む。
入り口の戸を開けてバシッと閉める。
破られる心配があるから立ち止まらなかった。
玄関を上がって、木の床の廊下へと向かい走る。
でも怪物はなぜか、追ってこなかった。
入り口でピタッと止まっている。
待っているかのようだった。
ガラス戸には黒い影が写っていた。
その場にとどまっている。
サクラはかまわずに中へと進んだ。
今戻ったところで怪物に襲われるし、この廊下を歩いていれば安心だ。
だけど、この廊下を歩いていると幽霊が出てくる気配があった。
緊張と不安が同時に心を支配している。
とにかく、先に進むしかない。
※※※
廊下を抜けると畳の部屋(座敷)だった。
灯りは電球の明るさがあった。
中に入る。
広さは宴会場としても使えるくらいだった。
奥に祭殿らしきものがある。
台の上に青銅と思われる丸い鏡があった。
(奉納かな?)
しばらく鏡に気をとられていたが目を下にやると、鞘に収められた刀剣があった。
サクラはまじまじと見ていた。
鞘の先端から鍔より下の末端まで目線を移した。
刀剣の鞘には色艶の光沢があって、なんだか引き込まれる魅力を感じた。
「えっ!?」
突然、刀剣が発光した。
そしてすぐに強い光を放った。
あまりの強さに目を手のひらに隠す。
サクラは光りに慣れると、直視するようになった。
聖なるものを感じた。
(信じられない・・・。魂があるみたい。)
サクラは『剣とドラゴン』の世界を感じていた。
そして、この体験をしている事に奇跡を感じた。
周りを見回す。
今、現実世界にいる。
その事を確認した。
部屋に自分はいる。
刀剣は手の届く所にある。
サクラはゴクリと唾を飲み込んだ。
目は、輝きを放ち続ける刀剣を捕らえていた。
サクラはいつの間にか、刀剣に手をのばしていく。
ゆっくりと少しずつ、距離を縮めていく。
【続く】
※作者より※
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この話を書けて本当に感謝です。
ハルが怪物に連れ去られてしまいました。
彼女を失うことの恐怖をサクラは感じています。
サクラの行動は中々出来ないです。
現実にあったら逃げています。
誰か助けて下さい。
そして、少女サクラの刀剣日記のこれからにご期待下さい。
よろしければ☆一つでも頂けると嬉しいです。
感想もお待ちしております。
では。
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