第5話「友達!?ができた少女」改3.00

ハルと出会ってから1週間が経った。

いつものように、お昼休みの学校の保健室にはハルが来ていた。



「私ね、両親の記憶がないの」



ハルが話しているのをサクラは聞いていた。

過去のことを話したがっているみたいだ。


サクラは今までハルのような子に出会ったことがないと思った。

戸惑って頭の中を整理したい気持ちだった。


ハルが来てから毎日。

出会った日。見た印象。服装。髪型にしゃべり方まで、日記につけるかのように、頭に残った。


保健室での時間は彼女との時間だった。

サクラは聞き役で、ハルは話し役。



「今はね、市の職員さんが家に来て、お世話してくれるの」



こうして聞いているときもハルの口元、目、首元に視線が移る。


サクラはハルの話が止まるたびに「それで?」と相づちを打つ。

話の筋道をつけてあげるように導いているようだった。

ハルは答えるように「あ、そうそう」と思い出す。


中々思い出せずに困っているハルを見て、サクラは心配した。

ハルの目を見て、言いよどんでいないか気にかける。


小説の話しになる。

もちろん、剣とドラゴンの話しだった。


自分とは違う感想を持つハルにはうらやましさを感じた。

それは嫉妬とは違うけれど。


サクラとハルは自分たちの世界だけに入り込んで妄想してる。

ヴァーチャルリアリティーの空間にいる。

昔だったら、プラネタリウムの星空を二人で観察するみたいに。

心を通わす仲間と世界を共有している瞬間。

楽しいし、それが幸せだった。



「キーン、コーン、カーン、コーン・・・」



チャイムが鳴り、昼休みは終わった。


ハルが帰っていくと、サクラの胸はドキドキしていた。

自分にも分からない感情。

体が反応している。

胸に手を当てると心臓が早くなっているのが分かった。

こんなこと初めてだった。


ハルと過ごす時間は楽しい。

でも何だか戸惑って苦しくもある。

手に持った本を開いたり、閉じたり。

ベッドから立ち上がったり、座ったり。

座っても歩いても、落ち着かなかった。


この感情はなんなんだろう・・・。



※※※



朝からサクラは、窓から見えるグラウンドを眺めていた。

朝の光りを浴びるグラウンドに引きつけられる。


体操着を来た生徒達が各自、用具を揃えて準備を始めている。


巻き尺で測る生徒の横で白い線が地面に引かれる。競技場のようだった。


その時の作業時間で、しゃべっている生徒同士の声がサクラをさびしくさせた。



「私ね、体育の時間、走るの嫌いじゃないんだ」



サクラ以外には誰もいないはずの保健室で、突然背後から声が聞こえた。

サクラは振り返った。

目が大きく開く。


昨日まで伸びていた髪は短くなった。

頭部を触ればサラサラしていそうだ。

黒髪で肩より短い髪はハルのイメージを変えさせた。


「へへ、切っちゃった」



ハルの笑顔がまた見れた。

この瞬間が心臓をドキドキさせる。

容姿が変わったことや、可愛い口調がサクラの心臓を跳ねさせる。

ドクンと鳴って、脈が速くなる。

頰はじんわりと温かくなるのを感じた。

そして頭のてっぺんが引っ張られるような感覚もあった。


ハルの事は嫌いじゃない。

いや、むしろ好感触だ。

でも、うれしそうな顔を見るたびに、自分が恥ずかしい気持ちになった。


(私のことはどうおもっているんだろ?)


ハルは明るくて優しい。可愛い。

それに比べて、私はおとなしくて、影がうすくて、つまんない人間。

ハルはそんな私を気にしてないのかな?

どうなんだろ?

サクラは色々な感情が交わって、なんだか苦しくなった。



「ねえ、サクラ。今日は帰ろう」



「え!?」



「今日はもう学校はいいよ。帰ろう」



「でも・・・」



「ね!」



「ごめん・・・私、まだいるよ」



「そう・・・」



「ごめんね」



「・・・ううん、いいの。私こそワガママ言って、ごめんね」



友達の誘いを断るのは勇気がいた。

断った後の関係がおかしくなったりしないか怖い。


それでも、サクラは自分が少しでも教室に戻れる時が来るなら、学校を離れるわけにはいかなかった。

だから断った。


ハルはドアを開けた。

手を振っている。

サクラも返した。


ハルに「ごめん」と心の中で言った。

直接は言えないけれど、分かって欲しいと思った。

感謝の言葉を添えて。



「明日は楽しみにしててね」



サクラに届く少し大きめのハルの声。



「え!?」



サクラはドキッとした。


ハルは、照れてるのか頬を赤らめているようだった。

手を前回の時のように振る。


ハルの着ているセーラー服が今日は違って見える。

制服に包まれたハルの笑顔は、太陽のような明るい輝きだった。



ハルは廊下を駆け出していった。

クツの音を鳴らしている。

「タン、タン、タン」と響く音がサクラの耳元に残る。


※※※


静寂の時間。

いつもの時間。

楽しさの余韻が残っていた。



でも、なぜかさびしい。

自分の心の一部が欠けたみたいだ。


胸が熱くなっている。

心臓の脈は速くなりドクドクいっている。

サクラの高鳴りは止まらなかった。



「あ、まだ一時間目なんだ」



そう言葉が出た。

時間を忘れるくらい、ハルの事を考えていた。



【続く】



※作者より※


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

この話を書けて本当に感謝です。


サクラはハルに恋をしているのか。それとも・・・。

ハルとどう関わってくのか、これからの話にご期待下さい。


よろしければ☆一つでも頂けると嬉しいです。

感想もお待ちしております。

では。

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