第3話「ファンタジー好きの少女」改3.00

サクラは妄想の世界に入る。

ファンタジーの世界と同期して主人公が戦う姿を見ていた。

かっこよくて憧れる。

「剣とドラゴン」はそんな世界だった。


サクラは現実世界では紙のページをめくっていた。

端から見れば、ずっと字面を追って周りが見えない子なのかなと思われるかもしれない。


物語の中で、主人公は傭兵だった。

クライマックスで王女を救う。

最後までどうなるのか見届けたくなる。


サクラは傭兵から離れた場所に立ち、彼の様子を伺っていた。

ヴァーチャルリアリティーの空間に入ったみたいで、行動を共にしているようだった。


王国への帰還目前。

お花畑で王女が力尽き、傭兵は王女を抱きかかえる。傭兵は涙を流す。


サクラは共感してしまった。

助け出したはずの王女が亡くなって悲しみに暮れるのは確かだ。


サクラはお花畑のはじっこの林の木陰から様子を伺う。


お城では、王様が傭兵と王女の帰りをずっと待っていた。


サクラは王様を哀れに思った。

王女の無事を祈って待っているのに、知らなくて可哀そうだからだ。


お花畑にいるサクラは、自分の目の前に別の画面を映し出していた。

ウィンドウ画面に映る王宮の様子を見る。

王様の表情が映った。


本を読み終えた時、サクラは自分自身を妄想世界から引き戻した。

掌に涙が落ちた。

本を閉じる。


結末を知って、目の前に劇場の黒い幕が下ろされるようだった。

サクラは「剣とドラゴン」の物語を読み終えたのだ。そして、目の前はもう現実世界なのだった。


保健室のベッドで、サクラは寝そべっていた。

ここはサクラの生きる現実だった。


白い壁。

横を見れば、窓にかかるカーテンが風ではためいている。


サクラが手元を見下ろすと、ハードカバーの本があった。

表紙を両手で触れる。


寝ている姿勢から起き上がると、背骨にストレスが残っているようで、少し痛みを感じた。



「ねえ、大丈夫なの?」



午前の授業はそろそろ終わりの頃だった。

その時に保健室の入り口の方で、声が聞こえた。


サクラは今、現実にいるから、周りの音や声が自分の耳に聞こえていた。


顔を上げた。

目線は壁に向いている。


保健室には二人の女子生徒が入ってきた。

肩を隣の子にあずけて歩いている。

サクラはその子に視線が移った。


危害を加えるような子ではない。

そう感じるまでサクラは警戒を解けなかった。


自分がここにいないと思われている。

他の生徒は気づいていない。

サクラはそう思うからこそ緊張が和らいでいた。

だから、物音を立てないように注意した。


サクラのいるベッドの向かいへ女の子は歩いていた。

ドスンと音がする。

横になって何か言っていた。


サクラが他人に気づかれたら話しかけられる心配があった。だからサクラは二人の会話を聞きながら、次に何をすべきかを考えていた。



「じゃあ、体大事にね」



ベッドに横になった子は

もう一人の子に言われて仰向けに寝ている。


数分間の静寂。

何も起きなかった。


授業をサボってきた子ではないなと思ったサクラは警戒していた意識を注意信号に変えた。

少なくとも自分に危害を加える子ではないと思った。

※※※


授業は始まった頃だろう。

時計はその時間になっていた。

女の子は体調が悪そうなのか起き上がらなかった。


かとおもうと、寝ていた子は起き上がる。

サクラと同じ学校指定のカバンに手を伸ばし、ファスナーを開けていた。

中に手を入れ、ハードカバーの本が出てきた。


サクラがさっき読んでいた小説「剣とドラゴン」だった。


同じ本を読んでいる子なら声をかけてみようかな?サクラはそういう気持ちになったが、なんて声をかけたら良いか迷った。

下手に話すと避けられるかもしれないからだった。

そう思うと不安が増してくる。


どうしよう。

その気持ちで心は揺れていた。



【続く】




※作者より※


最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

この話を書けて本当に感謝です。


サクラは女の子に声をかけられるでしょうか?

彼女の心の中で、不安と心配が交錯しています。

これからの話にご期待下さい。


よろしければ☆一つでも頂けると嬉しいです。

感想もお待ちしております。

では。

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