第2話「保健室通いの少女」改3.00
翌日の朝。
通学時の電車の中で、サクラは窓から見えるポートタウンの景色を眺めながら、亡くなった両親のことを考えていた。
10年前の震災から街は復興して、両親は安心しているのだろうかとサクラは思った。
手に持ったスマホで、窓に映る景色を撮っていた。
内海に面した港湾都市のポートタウン。
町の南側にはコンテナ港があり、奥の北側には山が連なる。
ターミナル駅を起点に東西南北に鉄道網がめぐる。
改札を抜けたところにある案内板の地図を見つけたサクラは、気になるところを指でなぞって確かめていた。
自宅から駅まで徒歩。電車で通学だった。
乗り換えの時間が来たので、サクラはホームへと向かった。
改札に入り、階段を降りてホームに立った。
※※※
学校最寄りの駅。
電車がホームに入り、ドアが開いた。
出てすぐに、景色に見とれる。
桜の散るとてもきれいな景色だった。
ホームから見える山。
風で運ばれ、サクラの足下にはなびらが届く。
駅を出て、駅前の商店街を抜けた。
住宅街に入ると静かな所だった。
周りに庭木がある家が多い。
そうして通り過ぎた後、学校に着いた。
サクラは立ち止まった。
正門に立つ。
気持ちは揺らいでいた。
入るべきか、帰るべきか迷っている。
サクラは一呼吸おいてから、緊張と不安を落ち着かせようとした。
心が騒いでいる。
息を吸って数秒間。
ゆっくり吐く。
正門をくぐった。
※※※
校舎内に入って廊下を歩いていると、教室から声が聞こえてきた。
耳を傾ける。
サクラは授業が始まっているなと思って、緊張した。先生の声が聞こえる。
「えー、よってここは、公式にあてはめるとこんな結果になる」
教室では数学の授業。
サクラはドアノブに触れて、ぎゅっと力をいれた。
今日こそは教室に入ろうと思って決心した。
そう思っていると、ノブの金属の冷たさが指先に伝わってくる。
(行ってしまえ!)
ぐっと押そうとする。
「ねえ、あれってサクラじゃない?」
そう聞こえるような視線があった。
クラスメイトの女子に気づかれたのだった。
ドアの小窓から見える。
窓に映る窓側席の子だった。
サクラはサッと教室を離れた。
女子の間でうわさにならないか不安が募る。
教室に入ったら、何か言われるんじゃないかと感じて怖くなった。
※※※
逃げ出すように階段を駆け下りる。
廊下を走った。
いられない。
一刻も早くあの場所から離れたい。
その気持ちが強くなって走る。
サクラは一階のはじっこにある奥の保健室に駆け込んだ。
誰かいると困る。
そう思って、ドアをゆっくりと開けて中を見る。
誰もいなかった。
ベッドがあり、消毒の匂いがした。
先生はいない。
窓側にあるベッドにドスンと座った。
体を大の字にして倒れる。
「ハア」
サクラはため息をついた。
窓は大きく開いていて、時折風が入ってくる。
しばらくして、サクラはカバンに手を伸ばす。
ファスナーを開けて、中からハードカバーの本を取り出した。
「剣とドラゴン」
表紙のタイトルはそう書かれている。
途中まで読んだ箇所を開いて読み出した。
高校に入学してから一ヶ月。
サクラは特別な時間を過ごしている。
読書をしていれば小説の世界。
そこでは自由。
安全も安心もある。
読み進めていけば、自分が世界に認められていると感じてくる。
サクラは心を鎮めて、読書に集中した。
【続く】
※作者より※
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
この話を書けて本当に感謝です。
サクラを応援して頂けると、彼女も活躍してくれるかもしれません。
これからの話にご期待下さい。
よろしければ☆一つでも頂けると嬉しいです。
感想もお待ちしております。
では。
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