第2話 補記:日本史を語る

(ここは全部オフレコですが、西里先生の語った日本史の「好き」を語ります)

 本当に、西里先生は人生変えちゃいましたね、あの先生いなかったら僕は理系でしたよ。あの授業は、下手したら一生受けられないと考えたので他の先生が四人もいて、そのうちの三人からくじ引きで生徒を割り当てるというそんな状態なのに日本史を選択して、見事に外して僕は9月までずっとその恨み言をことあるごとに言っておりました。


 とにかく、その授業はかけがえのないものでした。大学の授業を知らないのですがそれでも、高校の内に受けるなら。


 印象的な授業を二つあげましょう。二つとも、授業を聞いて、正しいのかもしれないけれど、彼らは悲しい選択をしてしまった、と感じたものです。


 一つは労働運動の発祥。最初に結成された(?)労働組合、友愛会は、キリスト教の人道的な行いをし、さらに拡大することで人間を高める人道主義な団体で、労働者と資本家の間で適切な契約を結ばせて、手を取り合おうとした労資協調の平和的な団体でした。しかし十年経った後でしょうか、労働環境の更なる悪化や、ロシア革命の成功を受けてこの団体は日本労働総同盟へと名前を変更し、労働者と資本家の間には埋められない溝がある、資本家は打倒すべきであるとした階級闘争主義へと活動路線をシフトさせました。誰とでも仲良くしよう、という考えがたとえ破綻しているにしろ正義だと考えていた僕にはとても悲しかったです。まあもちろん総同盟も議会に立候補して政治家を輩出して平和的な方法で階級闘争をしようとした人(右派)もいましたし、本当にテロ行為を行って資本家を粛清して共産主義国家を樹立しようとした人(左派への偏見)もいました。

 

 二つ目が昭和恐慌、農村恐慌からの国家改造運動(戦争の足音)の発生です。第一次世界大戦の時、日本は三国協商や米中に漁夫の利で大量の輸出をし莫大な利益を上げました。そして「ほら、明るくなったろう」などと言って紙幣に火を点けて灯りにする教科書の絵に代表される成金が生まれました。しかし、戦争が終われば、その漁夫の利もなくなり、発展途上国であった日本の商品は現在の中国のように品質がよろしいものではなかったのでたちまち売れなくなりました。そうして戦後恐慌が始まり、ちょっとしたら直ると思ったら関東大震災で首都東京が火の海に呑まれて経済に破滅的な被害を受け(震災恐慌)、大蔵大臣(今の財務相)片岡直温が東京渡辺銀行(小さい銀行)が潰れると公の場で発言し民衆がパニックに陥り銀行が潰れて自分たちの預金が失われる前に手もとに置こうと色々な銀行に殺到し、皮肉にもそれによって多くの銀行が潰れる金融恐慌が起こり、更に(ここは少し複雑なので割愛)の状況下、日本製品の輸出先のアメリカが世界恐慌を引き起こしそれが日本に波及する昭和恐慌が起こりました。ざっと、1920-33年まで13年。この間に多くの企業が倒産したりリストラをしました。もちろんそれが私達庶民にとってどういう意味かは分かりますね。

(ブラウザが突然停止し、データが全部消えたのでこの辺から少しテンションが下がっています)

 更に、東北地方で大凶作が起こり作物が殆ど育たなかった上に、そうかと思えば翌年に大豊作が起こり供給過多で生産過剰を起こして農家の利益が上がらかったことから農村は二年連続で破滅的な減収を味わいました。その酷さというのが、借金のカタに娘をヤーさんに売り飛ばす娘の身売り、食事の不足でやせ細った欠食児童などが見られたレベルですから。

 それなのに政党は互いの揚げ足取りばかりして、片岡直温や井上準之助などのとんでもない政治家を出し、財閥はその不景気の中、中小企業を買収したりして独り勝ちし、資本家は経営が悪化すればリストラで乗りきって生き残る。

 この国を変えたいと、思う人がいた訳です。何か、この状況が変化して欲しい、そう思う人がいた訳です。


 そんなとき柳条湖事件は起き、満州事変が起こりました。実質日本領が増えたようなものでしたから、国民は喜びました。何より、戦勝ですから。国民は、これを希望だと思ってしまった。国連脱退に歓喜し、5.15事件の時は犬養首相の自業自得だと言い、日中戦争での南京陥落にも喜んだ。

 しかし、この結末は私達は知っています。というか、授業をする前から知っています。しかし当時の国民たちは知らなかった。東京大空襲、沖縄戦、原爆。戦争反対とは唱えなくても、間違えようのない、悪夢。あの国民たちの希望が、偽りで、むしろ一つの破滅的な道だと思い知らされていく私達はとても悲しい気持ちになるのです。


 これは一つの、先生の講義を聞いた僕の読書感想文ですがね。その悲しみをあなたがどういった研究に繋げるも自由です。

 僕だったら、こうなります。一つ目は「労使協調の成功と腐敗」。戦後、共産主義国であるソ連を恐れたアメリカが、日本は労働者と、(財閥解体、農地改革があったので資本家ではなく)取締役などの会社の指導者が協調する労使協調が進みました。しかし、現代では、派遣切りや、労働者の低所得が致命的な問題になっています。これは、労使協調の中で、経営者が地位を増やして労働者が反抗する態度を失っていったというのに一つの理由があると思います。これを深めるとか。統計とか使ったりしてですね。

 二つ目は、例えば「農山漁村経済更生運動・厚生省設立の実績」でしょうかね。その後、あそこまで酷かった農村は政府の支援の下にめちゃ長いこの運動によってなんとかなったらしいそうです。また、労働者の待遇改善や、老若男女のあらゆる国民への福利厚生の確保のために厚生省が設立されました。この二つも、数値によって何がどれほど良くなったのか、調べてみたいところです。


 おかしい、挿入話のハズなのに尺が長すぎる……。それ程まで西里先生はすごかったんですよ。とりあえずそういうことです。ひさびさに真面目に書けましたね。

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