第29話 法の具現

「・・・」


朝、目を覚ます。


最近はこの力が身に馴染んできたのかは知らないが、あまり睡眠時間を必要としないようになってきた。


昨晩も処刑を行い、2時間程しか寝ていないはずだが眠気は無い。


これなら会議期間中でも十分に正義を執行する事が出来そうである。


さて、今日も忙しい1日になりそうだ。


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勇者と共にニルヘムの王都へ近付く度に私は胸に違和感を覚える。


運命の女神としての権能が、力がその違和感の正体を直ぐに顕にした。


若干だが因果が操作された形跡がある。


別にこの程度ならば他の霊神でも出来なくは無い。


しかし、問題なのは因果を司る運命の女神である私が物理的に近づかなければ気付けない程、自然であったという事なのだ。


私以外の霊神が因果を操作したとしてこれほど自然には仕上げられはしないだろうし、何より操作が行われた時点で気付ける筈。


この操作を行ったのは確実に私の範疇を超えた存在だと言うことだ。


私の脳裏にとある可能性が過る。


勇者の存在を"あの者達"に気取られたのか。


それならば何故直ぐにでも襲ってこないのか。


なんにせよ対策が必要だ。


それこそ予定を早めてでもこの野望は完遂させなければならないのだ。


私の2000年を。宿願をこの世界の住人でもない奴らなんかに邪魔されてたまるか。


「おい、大丈夫か?」


『え、えぇ。大丈夫』


そう。大丈夫だ。


まだ私の道が絶たれた訳ではない。


・・・それにあの"魔術師"の方であれば手は打ってある。


何も心配することは無いのだ。


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私はジャムジムールで一番高い、議事堂の上に立ち矢を番えた。


『強化(ヤ)・誘導(ドゥ)・発破(ジィ)』


矢が紋様に包まれ放たれる。


クレアが真理に触れた事で、ある程度であれば因果の海からエネルギーを取り出しても拒絶反応無しに扱えるようになった。


ようやっと私の能力らしい能力を使えるようになったのだが、勇者を送還する為になはまだ足りない。


だが、このペースで成長してくれるならば問題は無いだろう。


「・・・これで良し」


私の目線の先では矢を受けた馬車が爆ぜていた。


御者と馬は逃げたが、その積み荷は無事破壊できたらしい。


さて、薬(アルターエゴ)を失った裁判官はどう動くのか。


彼との戦闘はクレアの成長を促してくれるだろう。


「着実に、堅実にいこうか」


運命の日は近い。


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「すまねぇな、議員さん。アルターエゴは品切れだ」


「・・・そうですか」


久々の休息日。切らしそうだったのでアルターエゴを買い付けにきたのだが、どうやら品切れのようだった。


品を切らしているのなら仕方無い。


「いつ手に入りそうなのですか?」


「ざっと一週間後ってとこかなぁ」


「分かりました。また一週間後取りに来ますね」


今まで依存性を感じたことは無いし、一週間程であれば大丈夫だろう。




・・・そう思っていた時期が私にもあった。


全身に脂汗が滲む。


呼吸は困難という程では無いが乱れてしまっている。


特にアルターエゴ由来の能力を使うと響くような頭痛と共に酷い倦怠感に襲われる。


『「だが、正義を示さなくては」』


私達に何の意味があろうか。


『「私達は天に選ばれた法の執行者」』


そうだ。然らば秩序を示さずして何とする。


『なれば今こそ剣を抜き』


「拳を振るおう」


もはや私に"私"という意識は無く、私達が"私"となった。


『さて、まずはこの国を。そしたら隣を。さらにその隣を・・・やがて世界から罪という罪を殲滅し、真の秩序を実現しよう』


もう不調は感じない。


だが、命が燃える。燃え尽きてしまう。


罪人の生き血を啜ろう。


さすれば命も満たされるというもの。


『罪人の命を以て罪人を狩りその命で罪人を狩ろう』




私は外へ出た。



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異変を感じて目を覚ます。


そう、それは未曾有の大災害を予期したような焦燥。


周囲を見渡すと同じ部屋に泊まっている引率も数人目を覚ましていて、私達は静かに部屋を出る。


「テリフタ、準備を」


『応とも』


警戒したものの特に異常は無く、杞憂だったかと部屋に戻ろうとすると直ぐにその者は現れた。


『「人を下に自ら達をその上たらんとする霊契術師達よ。その悪行、その悪徳に天誅を下す」』


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ホテルに響く争いの音。


慌てて外へ出ると何者かユークリフ先生達と戦っていた。


それを見た生徒達は部屋に戻るか逃げるかのどっちかで助けに入ろうとする者は一人としていない。


否、相手のスピードを捉えられる自信が無く、かえって邪魔になってしまうと判断しているのだ。


実技の先生がまた一人倒れる。


『「また一人」』


「くっ!」


ユークリフ先生が金属を操作し応戦するが、それもジリ貧で段々と押し込まれてしまっている。


『やばいぞっ!』


「あぁっ!分かっている」


ガードを行いながら鉄槍を放つ多角的な攻撃も相手の一薙で打ち払われる


遂に敵の攻撃が先生を打ち据えた。


「先生っ!」


思わず足が出る。


「『全ての根源をここに』」


相手の注意はユークリフ先生に逸れている。


今だ。


私に持ちうる全力を放つ。


「『ここに覇道の力をメギド!』」

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