第19話 開演
「そろそろ向かうか」
私は時計を覗き、集合場所に向かった。
「先輩、相変わらずの5分前行動ですね」
「そういうお前は10分前か」
「下は上より早く待っているものですから」
「今じゃお前の方が上だがな」
「私の中ではずっと先輩は先輩ですよ」
私達がいるのは保安捜査局の局舎内にある会議室である。
ここで作戦の最終ミーティングを行うのだ。
そして終わり次第犯人の確保へ向かう。
始まる前にどんな顔ぶれなのか確かめる為に辺りを見渡すと全身をすっぽりとローブで隠した女が厭に目についた。
あれがバートレイ卿が囲っているというエージェントだろう。
背も小柄で、体形もギリギリ女と分かる程度、彼女はまだ子供ではなかろうか。
だがしかし、その纏う雰囲気は堅気のものではないのだから不思議である。
幾度の仕事としての殺人を犯してきた生粋の暗殺者なのだろう。
どこから雇い入れてくるのか。バートレイ卿の人脈には脱帽せざるを得ない。
どうやら彼女の雰囲気にはアリサも驚いているようで二人で彼女の霊神はどうだとか得物はなんだろうかと観察と考察を繰り返していると、集合時間ピッタリにバートレイ卿は姿を現した。
「よく集まってくれた。これから最終ミーティングを始める」
説明された作戦はシンプルだが、適材適所と言うべき作戦だった。
まず4番ことアリサがもしも犯人が逃走した時に備え犯人自宅周囲を隔絶する。
そして、24番と私、バートレイ卿と件のエージェントが自宅へ突入し確保する手筈だ。
「では、5分後ここを出立する。それまでに全ての準備を終わらせ局舎入口へ集合すること」
「「「「はっ」」」」
ここから局舎入口までは歩いて2分程。
万端ではあるがもう一度装備の点検をしようと警棒を取り出そうとするとすると、後ろから声がかかった。
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「まずは4番が・・・」
・・・なんで僕がこんな所に。
先輩の4番さんは言わずもがな、誰もが知るバートレイ卿に、大柄でキッチリと装備を着込んだ強そうな男の人、普通に暮らしていては纏えないようなオーラを纏っている人。
誰も彼もが僕の何倍も強そうで、一ヶ月前までパトロールしかやっていなかった僕が一緒にいて良い人達ではない気がする。
前にいた隊でも大した逮捕の実績がない僕が誰かに推薦されたからと何故かアーテリアに配属されて一ヶ月、人一倍努力してきたという自負はあるが、世間を騒がし続けている凶悪犯の逮捕という任務の重責に手の震えが止まらない。
作戦の最終確認が終わり、この場から逃れようと先に下へ向かおうとすると4番さんに腕を引っ張られた。
「ちょ、ちょっと!4番さん!」
「大丈夫。防護壁みたいな体してるけど優しい人だし、初めての任務だしコミュニケーションは大切でしょ?」
「・・・そうですけどぉ」
連れて行かれたのは大柄でキッチリとした人の元だった。
「おや、4番殿と24番殿。何の御用ですか」
優しい人だという4番さんの言葉は本当だったようでその表情に優しくて誠実そうな印象を受ける。
「余計緊張しちゃうからそんな固くなくていいよ」
「・・・一応ここは任務の場で、君達は目上なんだがな」
「それで緊張させちゃう方が駄目だと思うし、新人の24番に何か一言お願いしますよ」
「・・・お前なぁ」
男性は少し悩んだような顔を見せると、僕に向けて口を開いた。
「24番殿、恐らく初めての任務で足を引っ張ってしまうかもと心配しているのかもしれませんが、足を引っ張らない人なんていないんです」
「え」
それを言う男性の顔は穏やかで不思議な引力がある。
敬語じゃなくて良いのに、と不機嫌そうな4番さんは無視だ。
「ましてあなたは新人だ。私が新人の時なんて足を引っ張らない日なんて無かったし、そこの4番だって私は散々尻ぬぐいをさせられましたよ」
男性は僕の肩に手を置いた。
「だから安心して、足を引っ張ってください。今回の作戦に参加しているのは皆優秀で、あなたがこの作戦に参加する事になったのも意味がある。私はヒールズ。ヒールズ=ルーブ=ミーフゥル。よろしく」
「は、はい!」
ヒールズさんは去り際に頑張ろうな、と呟き入口へと行ってしまった。
その一言が酷く僕を落ち着かせてくれた。
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その夜はとても静かで
こんな日は小説でも読んで寝るに限ると書棚からまだ読みかけの小説を取り出すと本能が警鐘を鳴らす。
直感が敵だと判断するのと、この静寂が破られるのはほぼ同時であった。
「ニルヘム国軍だ!手を後ろに組み、膝をついて投降しろ!」
年貢など納める訳にはいかないのだ。
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「ニルヘム国軍だ!手を後ろに組み、膝をついて投降しろ!」
手筈通りに犯人の自宅に突入する。
・・・反応は、ない。
逃げられたのかと慎重に廊下を進み、リビングへの扉を開けると窓から夜風が吹き込むばかりで、人の気配は無かった。
逃げられたのかと周囲を見渡すと背後の廊下から這い出し、駆ける足音が聴こえた。
異界にでも潜っていたのだろう。
「器用な奴だっ!」
「いい」
バートレイ卿の制止の声と共に女の苦悶の声が聞こえてきた。
目を向けると件のエージェントが犯人の体を組み伏せ、喉元にナイフを当てていた。
「良し。そのままにしておけ。今拘束する」
「私が何をしたって言うんっ、ひっ・・・!」
「口を開くな。証拠は挙がっている」
「
バートレイ卿が犯人を霊契術で捕縛し一件落着かと思われたその時。
『「人生の最終章を」』
犯人の顔が黒く染まった。
「・・・殺しても構わんっ!喉を掻き切れ!」
バートレイ卿の鋭い指示と同時にナイフが犯人の命を奪うがその血飛沫すらも黒く染まり、まさに異界と呼ぶべき空間が展開された。
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「口を開くな。証拠は挙がっている」
・・・くそっ。
心の中で悪態をつく。
「
喉にはナイフが当てられ、全身を術で拘束された。
ここまでされてしまえばもう私に抗う術は無い。
『本当にお終いなの?』
えぇ。
『いいや。私の物語のラストにしては余りに退屈だわ』
何が。退屈よ。
『えぇ、退屈よ。せっかくここまで上り詰めて天才だなんて呼ばれるようにもなったのに。名前も知らない奴に幕を降ろされるなんて、奴らもあなたも自分勝手だわ』
・・・じゃあどうしろと。
『どうせなら奴らも道連れにしましょう』
・・・えぇっ!えぇっ!良いわね!
『それでは開演しましょう』
人生最初で最後の"私達の"公演を。
『「人生の最終章を」』
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空気が、光が、空間そのものが歪む。
「・・・っ!」
突入した中で何が起こったのか外で"壁"を張っていた私には分からないが異常事態である事は容易に想像出来た。
それにしたって
「きついっ!ナーヴァッ!最大出力いくよっ!」
『はいはーい』
『「
・・・そこまで長くは持たないよ。先輩。
中に突入していったメンバーの事を心配する余裕も無さそうである。
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