第6話 Cクラス
本校舎へ入ると張り出された巨大な羊皮紙に人が群がっていた。
見ると、どうやらクラス分けが発表されているらしい。
A〜Eまでの5クラス、総勢128名。
例年が大体100人前後だと聞くから今年は多いと言えるだろう。
確認すると私がA、姉さんがCクラスであった。
「私はCクラスね、思っていたより下ではなくて良かったわ」
「・・・私は姉さんと同じクラスが良かった」
ぶーたれる私と対照的にどこか安堵するような顔をする姉さん。
「私がAクラスに入ってもついていけないし、あなたがCに来てもきっと退屈してしまう。私達は家から通うのだし、そんな顔をしないで」
優しく微笑む彼女の表情に影などは無かった。
『さて、御二方もそろそろ移動を始めませんと』
周りにいた生徒達が歩き出していた。
事前に届いた手紙によればこの後は講堂で入学式の筈なので皆移動を始めたのだろう。
「さ、いきましょ?」
「はい」
姉さんと人の流れに導かれ講堂に辿り着くとクラス毎に分かれるようで姉さんとは別れる事となった。
講堂内に実体化している霊神の姿は無く、キャトルも霊体化していた。
『学院長の挨拶です』
霊力術を応用した拡声器を通したアナウンスの後に適度に金のあしらわれたローブを纏った老人が登壇する。
彼がこの学院の学院長なのだろう。
そこから始まった長い話にはついウトウトとしてしまった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『未だ残暑の厳しい季節ですがあなた達は・・・』
学園長先生の話は続く。
かれこれ20分程経っているのではなかろうか。
視線だけを動かすとうつらうつらとしている生徒を所々に見つけた。
人の話の途中で寝るとは何事かと思ったが、私もこの長話に若干の眠気を感じるので人の事は言えない。
ふとAクラスの列を見るとやはりAクラスというべきかそういった人はいない・・・いや、いた。
(ミヤーーー!!!)
ミヤは直立不動のまま寝るという器用な事をこなしていた。
その口から涎が垂れる。
頼むから起きて欲しい。乙女として台無しだ。
直接起こしにいきたい衝動に駆られるが今は式典中であり私は学生。
私は悶々とした感情に手一杯で中々、学院長先生のお話に集中出来なかった。
結局入学式は2時間弱(そのうち学院長先生のお話は1時間と少しあった)にも及び、その間姿勢を正していた生徒達の間にはやっと終わったという達成感にも近い感情が蔓延する。
しかし、そんな時も束の間。
各列の前に教師らしき人物が立ち、順に着いてこいと歩きだした。
講堂から出て少し歩くと教練棟と呼ばれる、いわゆる授業を行う場所に辿り着く。
教師曰く、特別な式典や用事の無い限りここの教練棟で学院での時間を過ごす事になるという。
ちなみに本校舎には職員室や倉庫、書院等があり、事務的、探求的な事を行う場所のようだ。
そうこうしている間に私達は割り当てられた教室へ入り着席した。
私の席は廊下側の後方。
やはり中間のクラスだからか貴族の出と平民の出の者が混在しているように見える。
これより上のクラスにいけば貴族、下にいけば平民が多くなるだろう。
まぁ、貴族の方は家の格、契約した霊神の強さ、そして霊力総量で決まるので勉学や実技の方でもクラス通りの活躍出来るかというのは定かではないとの事。
それに比べ平民の方は試験を通じて入学してきているので概ねクラス通りの実力と考えて良いらしい。
私の場合はミーフゥル家のブランド力とユーグの一撃を避けたという事しか判断材料の無いキャトルの底知れなさが私をCまで引き上げたのだろう。
霊力総量だけならEクラスであってもおかしくはなかったと思う。
私がこのクラスについて考えているとどうやら私達をここに案内した教師とは別の教師がやってきたらしい、教室の中がザワつく。
「あーいや、待たせてすまない。今朝はちょっとした野暮用があってね。代わりの先生に君達を案内してもらっていたんだよ」
そう言って入ってきたのはくすんだ金髪に草臥れたローブを纏い、無精髭を生やしたなんともだらしのない男だった。
「・・・あれが先生なのかしら」
私が思わず放った呟きにキャトルが霊体のまま答えた。
『彼、あんなナリはしていますが、かなりのやり手ですよ?』
「やっぱり彼の事も知ってるのね」
『えぇ、それはもちろん。彼だけで無く、全ての存在の細胞の数から下の毛の本数まで答えられますとも』
「・・・」
後者の方は誰のであっても知りたく無いのだが。
「私はユークリフ、ユークリフ=カノン。カノン先生でもユークリフでもユー君でも良い」
いや、最後のは先生としてどうなんだろうか。
「君達Cクラスの担任を受け持つ事になった訳だが、中にはクラスが上がったり下がったりする人もいるだろうけどまぁ、ほとんど変わらないと思うし、よろしくな」
こちらを向いた彼の視線は私の背後にいるキャトルを射抜いているような気がする。
「君達の授業は霊契術理論の理解、そして応用の部分を担当すると思う。それから・・・」
それから先生は自らの事や学院生活について話始めた。
曰く彼は番内46位、冶金の神テリフタと契約しているそうだ。
「・・・っと、私の話はここまでにして、それじゃあ君達の事を教えてもらおうかな」
唐突な振りに困惑する生徒達。
いや、困惑している殆どが平民の出の生徒だ。
貴族は幼い頃から社交会などに出て慣れているのだろう。
『その貴族であるクレアは緊張なさっているようですが?』
「・・・分かってて聞くのは性格が悪いわよ」
ミーフゥル家は貴族とは言え学者の家系だ。
何が言いたいのかと言うと我が家の当主は代々政治への関心や野心というものが無く、私もミヤも凡そ社交会やパーティーと呼ばれるものに参加した事が無いのである。
まぁ、私も野心といったものを持ち合わせていないので何も言えないのだが。
「次、クレア=ルーブ=ミーフゥルさん」
「・・・はい」
それから3分後、なんとか終えた私は心労の様なものを感じていた。
『中々良い自己紹介だったのでは?』
「・・・あなたねぇ」
この心労の原因はもちろん緊張もあったのだろうが、大半はキャトルである。
「変顔はやめなさいよ」
『ですが、緊張は解れましたでしょう?』
キャトルは私が自己紹介をしている間、ずっとこちらに向けて変顔をしていたのだ。
誰の目線もそちらに向かっていなかったので魔術か何かで私にだけ見えるようにしていたのだろうけど。
私は初めてキャトルに対して怒りを抱いた。
自己紹介は進む。
このクラスの人数は26人。
24番目に差し掛かり、後少しで終わりを向かえるという時、私は前に出てきた人物に目を奪われた。
白魚の様な肌、銀色(シルバー)の軽くウェーブのかかった長い髪。
人形の様でありながらも有機的な暖かさを感じる彼女が壇に立つと1部の男子達が思わず声を漏らしていた。
「私の名前はダリア=バートレイ。体が余り強くない故、時々学院に来られない時があるかもしれませんがこれから、よろしくお願いします」
それだけ言って自分の席へ戻る彼女。
情報の少ない自己紹介だったが、彼女から感じる品の良さや儚さがそれでいいのだと私の心を納得させた。
『彼女・・・かなり数奇な運命を辿っていますねぇ』
耳元から聞こえたキャトルの声にダリアさんを見て治まっていた怒りがふつふつと再燃し私にキャトルを説教するという誓いを立てさせたのだった。
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