第2話 ピクニック
「学校に行きたくないんでしょう? それなら行かなければいいのよ。私と一緒に来れば? 面白いものを見せてあげるよ」
そうユヅキさんは言った。まるでそれが世界一いい考えであるかのように、足でタンタンとステップを踏んでいた。
「いや、でも、そんなに簡単に学校を休むのは、ちょっと……。それに、今日は参観日だし……。」
そのときは、ぼくはまだ学校になんとかして行こうという気があった。どちらかといえば、ユヅキさんからはチサを学校に行くように説得する方法を教えてもらいたかった。
でも、ユヅキさんは、まるでそれがなんでもないことであるかのように、こう言ったのだった。
「学校なんてのは、正直行かなくてもなんにも困らないわよ。現に私はまともに行っていないし。それに、二人が参観日を休むことが、先生への圧力にもなるのよ。どうも私は、子どもたちが逆上がりができるかどうかを保護者たちにさらしものにする、二人の先生も気に入らないのよ」
ユヅキさんの言葉は、いろんな意味でぼくにパンチをかました。まず、学校には行かなくてもいいということで一発。ユヅキさんが学校に行っていないということで一発。どうやら逆上がりができないぼくたちより、先生の方が悪いらしいということですもう一発。とにかく、それまでのぼくの考え方は、ユヅキさんに粉々に砕かれてしまった。
そうだ、ぼくたちは学校に行く必要などないのだ。そして、もしぼくたちが学校を休めば、一日の楽しい自由時間が待っているのだ。
「でも……学校を休んで、その間何をするんですか? ゲームセンターでずっと遊ぶわけにもいかないし……。」
チサも少し乗り気になって、そんなことを言った。
「そこは私に考えがあるの。まあ、とりあえずついてきて」
そう言ってユヅキさんは歩き出した。
⭐︎
「で、どうしてぼくたちはこんなことをしているんだろう……。」
数時間後。ぼくたちは疲れ果てていた。
なぜかというと、実はぼくたちは山登りをしているのだ。あろうことか、ユヅキさんはぼくたちをバスで近くの山のふもとまで連れてくると、ものすごい勢いで山を登り始めた。どうやらそれが学校に行くかわりにすることらしい。ぼくは本当はふもとで回れ右しようかと思ったのだけれど、チサがユヅキさんと競争するように山を登り始めたから、ぼくはついていくしかなくなった。
「ほらほら、二人とも遅いわよ!」
何十メートルも前で、ユヅキさんがぴょんぴょん飛び跳ねている。なぜこの人はこんなに体力があるのだろう。もしかしたら、ユヅキさんは登山のプロで、学校に行かないのはそのためなんじゃないだろうか。もしそうなら、ぼくたちは今からユヅキさんに登山家に教育されることになる。そんなのはいやだ。
「はあ、はあ……。なんでそんなに楽しんで山登りができるんですか……。」
チサの疑問はもっともだ。
「えーっ、わからないの? ほら、何か、感じない? なんというか、山に包まれているような感覚を……。ほら、二人とも、登るのをやめて、耳をすましてみて」
言われた通り、登るのをやめて、耳をすます。確かに、歩いていたときには聞こえなかったものが聞こえてくる。風の音、風で木が揺れる音、そして鳥の鳴き声。
うん……これも、なかなかいいかもしれない。
「ね? やっぱり山って、中毒性があるでしょ」
間違いない。ユヅキさんはプロの登山家だ。
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