第5話 塩蔵→噴火口
ごうごうと耳元で音が鳴っている。ウミネコの羽毛でできたマントを翻して急降下すると、いつも耳がくすぐったい。熱気流で髪が逆立った。
俺が地面に降り立つのと、リュウが崩れ落ちるのは同時だった。
見守っていた人々が慌ただしく、岩となったリュウの残骸を砕きだす。
「どうもありがとうよ、蛇の兄ちゃんたち」
「さあ仕事再開だ。邪魔なもんをどかせ」
乙別離大島の塩造りを取り仕切る塩蔵は、今日も忙しいらしい。職人たちは淡々と、倉庫の入口を掘り出している。
数分前まで三体の大型リュウが出現していたとは思えないほど、普段通りの光景だった。島民全員がリュウの出現に慣れてしまっていた。
「今日の討伐はこれで最後だ」
「土御門」
俺が蛇の仕事をする傍ら、椚の手伝いをするようになってから三ヶ月。三ヶ月で横穴の数はじりじりと増え、今や十三の横穴が蛇の仕事を増やしていた。
今や毎日のように、リュウが市街地に出現している。
土御門を説得し、横穴は一般警備隊に任せなければ、蛇は全員過労死していた。説得に成功した瞬間、他のメンバーに泣いて喜ばれたのは複雑な気分にさせた。
土御門に意見できる数少ない一人として、蛇の仕事をするとき、土御門と組まされることが多くなっていた。
俺には、どうして土御門が周囲から距離を置かれているのか、わからなかった。
「どうした。帰らないのか」
声をかけてくる彼は、真面目な社会人といった様相だ。
頷きを返そうとしたところを、職人の一人が止める。彼女は以前、三原に紹介された、塩蔵の管理を任されている幹部だった。
「仕事お疲れさん、藤原。今日は助かったわ。三原に伝言よ」
伝えられた言葉に、俺が頷けば、職人は笑顔で頷いた。
「頑張っているわね。ご褒美にこれ、持ってきなさい」
渡されたのはお猪口と徳利だった。
「世にも珍しい塩のお酒よ」
味見と差し出されたお猪口を受け取り、舐める。
「しょっぱいな。でも旨味がある」
「わかっているわね。そっちの彼も飲みなさい」
「勤務中なのでけっこうする」
「さっき終わったって言ったじゃない!」
土御門と職人の押し問答は、職人が押し切った。彼は酒を飲み、目を白黒させている。俺は珍しい光景だと考えていた。
土御門は周囲に壁を作っている。乙別離教に信心深く、厳格に振る舞っているのが、原因ではない。
彼にはいつも、どこか余裕がない。ウミネコのマントを俺が着てきたときも大変だった。ウミネコのマントは、椚の研究の産物で、空中に浮かび上がることのできる特製品だ。
「この島ではなぜか、動物由来の素材を使うと、その場に揚力を発生させられるんですよぉ」
原理を説明する椚の言葉はさっぱりわからず、「空を飛んではいけない」教義に反するのではないかと、激昂する土御門の気持ちもわからなかった。
あのときは、蛇の同僚と利便性を説き、空を飛ぶとは言えない高さしか浮かべないことを実演し、人数分のそれを納品することで押し切った。
「土御門、お前はいつも、何に焦っているんだ」
帰り道、俺は土御門に問いかけた。
一杯だけもらった俺とは違い、かなりの量飲まされた彼の目は据わっている。酔った人間の目だ。
「俺は酔ってないぞ」
「それは聞いてないぜ」
コンクリートに舗装されていない、砂利交じりの道を歩く。道の両端は、草木が青々としている。乙別離大島の季節は変わらず、ずっと夏だ。
「ここにいてはいけない気がするんだ」
土御門の声は、静かだった。
「三途渡りで目覚めてから、ずっと。その思いを払拭したくて乙別離教に尽くしている」
思いがけない本音だった。内容も、ここで聞けることも、全てが意外だった。
「そうだったのか。時期外れではなかったのは知っていたが」
「ああ。もしかしたら、お前の言うように元の世界とやらで、やることがあったのかもしれない」
まさか、彼が俺の言うことを信じているとは思っていなかった。そう伝えると、土御門は自嘲するように笑った。
「俺を何だと思っているんだ。背中を預けあって戦っていれば、お前が嘘を吐く人間ではないことはよくわかっている」
土御門の表情は変わらずとも、悲しく思っていることはよく伝わってきた。二の句を告げない俺に、土御門は問う。
「お前には教主様の密命は下ったか」
否を返すと、彼はほっとしたようだった。横穴が出現した頃から、実質的な蛇のリーダーである土御門の知らない密命が、教主様から直接下されているのだと、彼は告白した。
「それ、俺に言って良かったのか」
「お前に聞いてもらいたかった。藤原は、俺に出来ないことを成し遂げる」
土御門の言葉はいつも足らない。説明不足に、自分でも自身の心を把握していないせいだ。
「どうしてなのか知りたい、俺の意見が欲しいって意味だよな?」
俺の問いかけに、彼は頷いた。答えに窮する俺は、道の先を見る。道はまっすぐ、港町までゆるやかに下っている。
視界の端で、登っていく人間が右折するのが見えた。
「噂をすれば影、だ」
乙別離大島にないことわざをつぶやいて、背の高い草に土御門と隠れて後を追う。草木が生い茂った山道を歩くのにはコツがいる。それにも関わらず、目の前の男は慣れた足取りで登って行く。
長い髪をまとめ、編み笠で隠した教主は、軽装で山を登っている。
巧妙に隠された獣道は、野生の獣が作ったものではない。何度も歩いたのだろう。土は踏み固められて、夏の草ですら生えていなかった。
ためらう土御門の手を取り、教主の後を追う。土御門の顔はかわいそうなほど真っ青だ。
(無理もない、信じていたものが崩れようとしているのだから)
地表の温度が上がっていく感覚は、横穴に近づくときと似ている。けれど、それよりもずっと暑く感じる。
途中から道は、急勾配の石段に変わっていた。朽ちた提灯が両脇を飾っている。教主は一度も振り返らずに上っていく。広い神社の境内に、三人が足を踏み入れた。
教主は山をくり貫いて作られた本殿に入っていく。ちらりと土御門を見れば、彼は俺に頷きを返した。しかし表情と違い、手の震えは大きくなっていくばかりだった。
(まだ、決定的な行動はできないな)
そう考えて、俺はそっと本殿を覗き込んだ。
巨大な噴火口が、本殿中央に鎮座していた。要石で蓋がされている。
元の世界で、世界の火山噴火映像を見たことがある。天まで吹き上がる溶岩が、しとどに噴火口のそばの土を絶え間なく焼いていた。しかし、そのマグマは美しい橙色をして、焦げた黒色や混じる真紅とで、ガラス細工のようにも見えた。
噴火口とそれを取り囲むように作られた本殿で、それは再現されていた。
違うのは、直上には黒い虚空が口をあけて、ごうごうと空気を吸い込んでいることと、
そして、暴風吹き荒れる火口には、龍の巨リュウが退屈そうにとぐろを巻いていたことだ。とぐろの下、要石には龍の爪ががっちりと食い込んでいる龍は、乙別離大島のどんな建造物よりも大きかった。
教主はしずしずと龍の眼前に歩み寄り、慣れた様子で礼をした。
案の定な光景に、俺は舌打ちを漏らしそうになりながら耐える。
(やっぱり教主、背信行為をしていたか)
土御門は息も忘れて、教主の一挙手一動作を凝視している。下手に彼が飛び出さないよう、目を細めて、注意を払う。
(ここでバレたら、居場所までなくなって、土御門の精神が持たない)
幸い、吐きそうな顔の土御門は、身動き一つしない。
二礼二拍手一礼の後、教主は腹から声を出す。
「かしこみかしこみ申す。とおくかみえみたまへ」
そう前置きしてから、正式な祝詞を奏上する教主に、俺の腹が冷える感覚がする。古語混じりの祝詞は俺の耳に残り、忘れられない記憶となる。
どうして、古語混じりの日本語が残っているのか。ケルト文字もあり、和洋折衷の生活様式は、オーバーテクノロジーを振るう椚や、原理不明なウミネコのマント。記憶がないのに、生活習慣は身についた住民たち。
乙別離大島は、未来過去現在の地球から、異世界転生人ばかり集められた島なのではないか?
脳内で、歯車がかちりとはまった音がした。間違った位置にはまっている感覚のそれはしかし、問題なく動き出す。
ぼうっとした俺の意識は、教主の言葉で浮上する。
「要石のせいで横穴が無数に増えつつあります。知っていますとも、思惑通りでしょう」
龍はトンボのように首を、無機質に振るばかりだ。教主の笑い声が響く。
ぱっと走り出す土御門に、俺はぎょっとして身を引く。からん、と乾いた音が石でできた本殿に響く。
(まずいっ)
「誰ぞ!」
舌打ちを一つして、身を翻す。俺は蛇勤務の現場作業のおかげで、かなりの速度で走ることができた。対して、教主は足は速くない。
土御門は既に境内を駆け抜け、逃げ延びていた。
「おい、待て。見たな」
俺の走る背中に、声がかけられる。教主の声は、上ずっている。石段まで逃げたところで、その言葉はかけられた。
「貴様、藤原綱吉、止まれ!」
バレた。ぶわっと鳥肌が浮き出る。思わず、俺は振り返ってしまった。
教主は焦燥と諦観、期待、憤怒が入り交じった表情をしていた。
(諦観と期待?)
そぐわない表情に俺が内心、首を傾げている間に、教主は立ち止まった。
はっと気を取り直し、俺はその隙に、神社の敷地内を抜ける。
(あの場面だけ見れば、教主がこの島の根本的な問題だ)
噴火口を弄り、島に被害を出し、進言する者に危害を加える。黒幕でなければなんと言えるのか。
しかし、一瞬見た教主の表情が、俺の間違った歯車に小石を挟んだような、違和感を伝えてくる。
三原の家まで逃げ込んで数時間たっても、追手がかかることはなかったことも、俺の頭を悩ませる。
(何か、事情がありそうだ)
しかし、明日からどう働けばいいのかと、俺は頭を抱える。俺なら、早々に闇討ちと暗殺で口封じをしようとする。
(乙別離大島から出島するのが、一番早いのだが)
俺は三原に事情を話して、身を隠す決心をする。荷物は数冊の日記しかない。どれも、びっしりと細かい文字で、俺の元の世界のことを記してある。
夕方になり、帰ってきた三原は、支度を整えて待っていた俺に目を丸くした。
「あれ、もう聞いていましたか」
そう言うと彼は、大きな背負子から手紙を取り出した。背負子には手紙の他、何日分にもなりそうな食材の山が積まれている。
手紙には椚の乱雑な文章で、以下のように記されていた。
『空船が完成した。燃素も充填した。明朝には天国に出発しよう。待っている』
船の完成を告げる文章を読み終えてすぐ、台所に勢いよく飛び込む。
俺の剣幕に、三原は驚いたように顔を上げる。教主とのことを話すと、彼は納得するように笑った。
「本当に、藤原さんは強運ですね」
大量に剥かれた野菜の皮に、三原がごちそうを作ろうとしていることを察する。彼の両手には火傷の痕が残っていた。俺は隣に立ち、料理を始める。
三原はふふ、とほほ笑んだ。
「今日は塩蔵の任務でしたよね。七味さんから、私に伝言がありませんか」
俺は、神社での出来事で忘れていた伝言を思い出す。
『準備ができた。天井は開けてあるから、いつでも引き渡せる』
それを聞いた三原の反応はわずかなものだった。
「運命ってあるんですね」
三原はしゅるしゅると大根の皮をむいていく。きんぴらにするのだろう皮は、ざるに落ちて小さな水しぶきを上げた。
「何の準備だ」
「私から藤原さんへの餞の品です。塩の巨人の召喚に使うための食塩二十五トン」
魚を三枚におろしていた手を止めて、まじまじと三原の顔を見た。
「あなたの召喚術を見ていると、無から有を作るというより、既にある物品がある設計図を基に組みあがっていくように見えて」
そう言うと三原は、魚の切り身に塩を振ってから、食塩の袋をどんと置いた。
「試してみて。使っていいのはこの食塩だとして」
言われるがまま、祝詞をつぶやく。手は調理を再開して、紫蘇を切り刻む。小さな塩の人型が受け取ると皿に盛りつけた。
「天空に海はないでしょう? 行くなら、限界ぎりぎりまで塩を積まないと」
「海から調達するつもりだった」
「何回祝詞を奏上するつもりですか。海からは意外と、少量しか取り出せないんですよ」
食塩は乙別離大島の主な交易品だ。島民は出られないが、別の島から買い付けにやってくる船はある。彼らは限られた島民しか交流を許可されておらず、俺は話したことはない。それでも、塩が貴重な交易源であることは知っていた。
「高かっただろう。もらえないぜ」
「野暮は言わないでください。私は給料を最低限しかもらっていませんでしたから、その分を取り立てただけです」
鍋の中では食材が踊っている。俺の賃金はすべて船建造にまわしているため、これらは全て、元は三原の金だ。
俺は初めて、三原に聞いた。
「なんでそこまでしてくれるんだ」
彼は答えない。答えるはずはないと、薄々わかっていた。間違った歯車が、ぎいぎい警告の音を立てている。踏み込んだら、弟と妹に会えなくなる。
食卓には、三原と作った料理が並んでいる。俺の好物の魚料理と、弟が好きだった生姜焼き、妹が好きだった甘い卵焼きもある。
「もし妹さんたちに会えたら、こんな親切な人間がいたと、伝えてくれますか」
「もちろんだ」
口約束は調味料として適さなかった。
久しぶりに夢を見た。科学者と空飛ぶ船を作り出してから、見ていない祈祷師の夢だった。
彼の顔はほとんど赤い海に沈んでいるのに、口と恨みがましい目はまだこちらを見ている。
「あと一歩なのに、どうしてこの島を去るのだ」
「お前の思惑が完成間近だろうと、俺が付き合う義理はない」
俺にはチート能力はない。召喚術も、中型のリュウに圧し負ける程度の膂力しかない。ただ、乙別離大島で三原を初めとした周囲の人に恵まれたから、こうして、胡散臭い祈祷師の話を聞かなくとも良い。
「謎解きとか、面倒だ。俺は早く、弟と妹に会いたいだけなんだ」
祈祷師は信じられないものを見た目をした。
「もうほとんど謎は解けて、後は解決するために行動すればいいだけなのに!?」
俺は無言で、祈祷師に歩み寄る。血の海面はなぜか、歩くことが出来た。慌てたように彼は言う。
「天国に行くには、お前たちは準備不足だ! 俺の教える方法なら、もっと確実に、弟妹に会えるやも知れぬ」
「確証は」
「何?」
「確証」
祈祷師は俺の足元で、俺の顔を見上げた。
「ある訳ないだろ、夢のなかだぞ」
「そうか」
俺はこの男と一緒に食事をしたことがない。おちょくられるような謎解きを、弟妹との面会権をかけて、強要されただけだ。
「頼む」
祈祷師の目元から、透明なしずくが流れる。信じられる理由がない。
「乙別離大島を救ってくれ」
あの島は、抜けるように青い。少し暑い陽気は、無数にある木陰を素晴らしいものにする。海水は少し涼しく、許可されている範囲のみだけでも、楽しい海遊びができた。
食事はおいしく豊富で、人はほとんどが良い人だ。嫌なことはもちろん多少あるが、家に帰れば休むことができる。
弟妹の元に帰るという目的がなければ、南国の楽園だった。
出来ることなら、俺の手で守りたい。
「弟妹の顔が、思い出せないんだ」
日記の下手な絵では、もう、覚えていられなかった。親しくない祈祷師からの懇願は、弟妹を忘れる言い訳にはなれない。
周囲を改めて見渡す。地獄のような光景だ。むき出しの岩に絶え間なく流れる溶岩が、海すら沸騰させている。足元の海面は熱く、噴火口近くの地面を思わせる。
火山島と岩のある砂浜が、あった。色を変えただけだった。
「俺が最初に、乙別離大島で目覚めた場所じゃないか」
俺は祈祷師を見下ろす。奇妙な直感があった。
「この夢の光景は、乙別離大島なのか」
ごうっと音を立てて、流離山が噴火した。噴火口は一つだが、
「でもこんなところ」
祈祷師が期待の目で見ている。
「こんなところ」
いきなり波打った海の飛沫が口に入った。鉄臭く苦い味がする。魚介類の恵みも、塩の恵みもこれでは得られない。
「人が住める島じゃない」
楽園じゃないのに、楽園として暮らしている。謎のファンタジーな技術が散見される島だ。椚のするように、ファンタジーを利用して楽園を維持しているのだろう。
しかし、乙別離大島で暮らしていて、ファンタジーを認識し、点検する人間はいなかった。森で見た文字たちは古び、朽ちていた。教義には精神的な目録しか残っていない。
失伝した技術によって、根幹部分を支えられている乙別離大島。
「あ、根本的な問題だ」
ざぱり、と足が沈む。思いもよらない感覚に叫ぼうとして、肺いっぱいに水を飲んでしまう。目に水が沁みて痛い。咳をするたびに溺れそうになる。
「起きろ」
震えて濡れた、冷たい手が俺を揺さぶっている。前髪が顔に張り付いてうっとおしい。しかもこれは、海水だ。ぬぐった右腕がべたべたする。
体を起こすと、そこは静かな夜の山道だった。乙別離大島は虫の声がしない。気を取られるのを引き留めるように、ずきんと首筋が痛んだ。
隣では、三原が眼前の人物を、睨みつけている。その顔を、この場にいる三人目が覗き込んでいた。
すぐに俺は、何があったのか思い出した。
「土御門」
彼は声に応じて振り返る。彼が噛み締めすぎた唇から、血が流れた。夢の中の匂いを幻嗅する。常に着ていたはずの蛇の制服を着ていない。袴とさらしで武装した姿は、俺には見慣れなくて、目を瞬かせてしまう。
土御門は、震える声で囁いた。
「助けてくれ。俺は今から、教主様を問い質しに行くんだ」
体も声も震えている。口元は半開きで、ずびっと鼻をすする姿は、乙別離大島の各地で賞賛されていた姿とは程遠く、みっともない。
それでも、目だけは決意に満ちて、輝いていた。
土御門の頼みは簡潔だった。
「教義の真相を確かめに行く。ついてきてくれ」
そう言って立ち上がる足は、がくがくと震えている。俺は周囲を見渡して、自分に追手がかからない理由を知った。
「蛇全員、私服で集合か」
「噴火口での出来事を全て話した」
皆一様に青ざめている。懐疑的な表情の者もいた。しかし誰も仮面をつけず、土御門の言葉に口を挟まない。
「教主様、いや、教主は背任疑惑がかかっている。なので、例の神社に拘留し、尋問を行うものとする。これは、全員の総意だ」
「なら、俺たちはいらないだろ」
土御門は口をゆがませ、俯いた。
「真実を知るのが怖い」
「おう」
「信じていたものが歪んでいて、乙別離大島にいる理由足り得ないと確信したら、耐えられない」
「そうか」
彼とは乙別離大島に来てから、よく一緒に仕事をした。食事も共にして、大食漢なのだと知っている。俺たちが食事が終わるのを待って、気絶させ、ここまで運んできた土御門のことを、俺はよく知っている。
「頼れる友達はお前たちだけなんだ。助けてくれ」
震える土御門は哀れで、顔を覚えていないはずの妹の顔が重なった。屈強な男のはずなのに、口下手ところや土壇場で頼ってくるところは、彼女に少しだけ似ている。
俺がしたくてたまらなかった言い訳に、ぴったりの理由だった。
「任せておけ」
弟妹に心の中で謝る。俺だって情が沸くんだ。少しだけ、寄り道をさせてくれ。
その様子を、三原がじっと見つめているのに、俺はその時、気がつかなかった。
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