6.誕生日

 午前零時になった。幸枝さちえは既に寝息を立てている。私は眠れなかった。和尚に言われたように、雪子の指輪はタンスから出して上着のポケットに入れていた。


 そうして2時間ほど経ったときだ。窓の木枠を外からがたがたと揺する音が聞こえてきた。ついで「口惜しい。ここにもおふだが」という声が私の耳に届いた。雪子の声だ。私の身体が震え出した。


 すると、私の耳に雪子の声が響いた。


 「あなた、私よ。雪子よ。会いたいわ。このおふだを外してちょうだい」


 私は耳を両手で覆った。あれは雪子ではない。怨霊なのだ。あの声を聞いてはいけない。


 雪子は私の家の周りをぐるぐる回っているようだった。雪子の声が家の周りのあらゆるところから聞こえてきた。雪子の声は朝まで続いた。そして、朝になるとぴたりと止んだ。


 私は窓のカーテンを開けた。明るい朝陽が窓から差し込んできた。朝陽を見て、私はやっと安堵した。

 

 その日、午前10時に景子一家が私の家に来てくれた。


 家の中が急に賑やかになった。


 

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