5.お札

 和尚は黙って私の話を聞いていた。私の長い話が終わると、ようやく口を開いた。


 「その指輪は今どこにあるんかの?」


 「私の家のたんすの中」


 「あんたが幸枝さちえさんと結婚したんで、雪子があんたを取り殺そうとしておるんじゃ」


 「しかし、和尚。雪子と私は相思相愛だった。雪子が好きな私を殺すなんて?」


 「雪子は怨霊じゃ。怨霊は死ぬ間際の言葉に左右されるのじゃ。あんたと相思相愛じゃったとしても、死んで怨霊になったら関係がないんじゃ。あんたが裏切ったら、あんたを殺すことしか考えておらんわ」


 そう言うと、和尚は仏壇の下の引き出しから何枚もの紙を取り出した。梵字が書いてあって、寺の写真が印刷してある。


 「これはおふだじゃ。明日になる前に、あんたの家の全ての出入り口にこの紙を貼るんじゃ。そうしたら、雪子の怨霊はあんたの家には入れん。明日は一日、家の中で過ごすのじゃ。指輪は手元に持って絶対に離してはならんぞ。明日一日だけじゃ。明日が終われば雪子の怨霊は消える」


 その夜、午前零時になる前に、私は家の全ての出入り口・・換気扇の出口や、クーラーの排気口にも・・そのおふだを貼った。幸枝には何も言わなかった。夜中に何やらごそごそする私を幸枝があきれて見ていた。


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