4.雪子
病院の粗末なベッドに横たわった雪子からは、もう生気が感じられなかった。私は雪子の手を取った。長年に渡る入院生活が柔らかだった雪子の手を枯れ木のように変えていた。
「雪子」
雪子は私の声に眼を開けた。そして、ぽつりと言った。
「私、いよいよダメね。私が死んだら、いい
「そんな。死ぬなんて言わないで・・僕は雪子以外の
雪子の眼に一瞬生気が宿った。
「ホント? うれしい。そんなに言ってもらって、私、本当に幸せ」
「ホントだよ。僕は雪子以外の
雪子の顔が明るくなった。
「ホント? じゃあ、私と約束して。私以外の女とは絶対に結婚しないって」
「約束する・・いや、誓うよ。僕は雪子以外の
雪子の眼が妖しく光った。私が見たことのない眼だった。私はどきっとした。
「じゃあ、約束よ。あのね、私、あなたが米寿を迎えた日に、あなたに会いに行くわ。そして、もし、そのときにあなたが結婚していたら・・」
雪子は手から指輪を抜き取って私に渡した。私は唾を飲み込んだ。
「あなたを取り殺すわよ。いい、この指輪があなたを見てるわよ」
そう言うと、雪子は眼をつむって眠った。雪子はもう眼を開けることはなかった。
雪子が死んだのは翌日だった。
私の脳裏で雪子の言った言葉がいつまでも反芻していた。米寿といったら88歳だ。雪子は数字の八が好きだった。よく八のつく数字で
私はいつしか雪子の言葉を忘れた。
それから20年たって私は
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