◆《黒の大鷲》のその後①(ゼロン視点)
――はっ、あのお荷物野郎を追放してやって昨日は久々にすっきりしたぜ。
うっとうしい緑頭が見えなくなって、俺はご機嫌で隣に手を伸ばす。
「あんだけ殴られて攻撃一つ返してこねえとはなぁ……あんな腰抜け、良くここまで生き残ってこれたもんだ。それもメリュエル、お前のおかげだよなぁ。わざわざ外に出て傷を治してやるたぁ、
「いたずらにいざこざで死者を出せば、パーティの評判が落ちるでしょう。……触らないでいただけますか? 今、私は少し気分が悪いのです」
だが肩にやった手は触れることなく女に冷たくはたき落とされた。
ちっ……相変わらず美人だがとっつきにくい奴だぜ。
ま、こいつもせいせいしてるだろ。よくよく死にそうになってたあいつの介護をしてやってたもんなぁ。
今は冷てえが、このまま街のギルドマスターとして実績を積み上げ、やがて国中の冒険者の頂点、グランドマスターへと昇り詰めればこいつも俺のことを認めざるを得ねえだろうよ。
そうすりゃ喜んで……げひひ。
「あ~でも今更馬車なんて使う事になるとは思わなかったよねぇ。いつもはフィルシュの風魔法で走ればあっと言う間に目的地まで着いてたから」
「仕方ないでしょう。私達の中には速度上昇系の補助魔法を使えるものが居ないのですから。ま、
馬車内で俺達と向かい合って座るのは、女剣士シュミレと火魔導士リオ……。
見下せる対象があればとことん見下す性悪だが、いざ戦闘となりゃ敵を斬り殺すまで剣を止めねぇアバズレと、プライドが高くで冷徹だが、最大級の火魔法を習得したトップクラスのアタッカー。
二人とも腕は確かだ。
俺とメリュエルだけでも十分な位だが、この二人がいりゃSランクダンジョンの攻略なんざ、あの野郎がいなかろうが瞬殺だろうよ。
ましてや、今回の目的地は以前俺達が攻略済みの場所だ。
どういう仕組みか知らねえが、魔物達は定期的に潰さねえとすぐ復活しやがる。
ま、何やかやアイテムを落としやがるから旨味はあるんだがな。
「魔術師コーリンツの墓穴……確か前回行った時は半日で終わったよなあ。荷物野郎がいなくなった分今日は三時間で終わらしてやるぜ、なぁ、メリュエル」
「触れないでと言ったでしょう……ダンジョン内で怪我をしても治しませんよ?」
(フン……まぁこういうつれねぇところが落としがいがあるんだがな……)
また
するとメリュエルは、独り言のようにぼそりという。
「そう簡単にはいかないと思いますけどね」
「あ……何がだよ」
「今回の荷物は誰が用意したのですか?」
「あん? 皆てめえで必要なモンは持って来てんだろ?」
俺の疑問に口元を
「フ……そうですとも。確かにいつもはフィルシュが荷物を担当していましたが、それが役立ったことなど数えるほどしか無かったではありませんか。慎重気取りであのように不要な荷物を背負い込んで、目障りなことこの上ない。達人はスマートであるべき。美しさの欠片も無いあのよう
その言葉に少し間を空けてシュミレが外を見ながら同意する。
「…………そーそー。ま、あいつの事はいいじゃん、早く忘れよ? どうせすぐ終わらせるんだしさ、何もいんないでしょ」
「っ―ことだ。何か文句あるか?」
するとメリュエルは口元をわずかにほころばせて、「いいえ」と小さく言った。
フードに隠れて目元は見えねえが、どうやらこいつも納得したみてえだな。
思えばここに来るまでは結構長い時間がかかった……メンバーを揃え切るまでのつなぎとしてアイツをパーティーに入れてやってたんだが、下手に情けをかけて、引っ張り過ぎちまったのが良く無かったな。
別の奴と組んでりゃ四年、いや三年でギルドマスターに手が届いていたはずだ。
各街でギルドマスターに選ばれるにはA級以上の冒険者資格と、国の騎士団長と一騎打ちに勝利する必要があったがちょろいもんだ。
フィルシュは嫌がったが、首輪で無理やり従わせて支援魔法を使わせてやった。一瞬で剣を弾き飛ばされて呆気にとられる団長様の顔は見ものだった。今思い出しても胸がすくようないい気分になる。
クク……あの女もなかなかいい女だった。俺に負けた悔しそうな顔がそそったぜ……グランドマスターに昇り詰めた際には手を出して遊んでやるのもいいかもな。
ああ……この先が本当楽しみになって来た!
赤毛の魔法使いも、桃色髪の女剣士も楽しそうに笑っている。
「ハハ、私も実は今、政府の関係者に根回しをしていてね。後数年もすれば国を動かす側になっているつもりですよ」
「おっ、いーねえ。そうなりゃ俺を国の全ギルドを統括するグランドマスターに推薦してくれよ!」
「そうなった暁には……ですが対価はきちんと要求しますよ?」
「抜け目ねぇなー」
「あ~……アタシも自分の自由にできるギルド作りたいと思ってんだよね~。あいつが消えて、ストレス発散の相手もいなくなったし。そん時にはまたどっかの街のギルマス
その話に食いついて来たのはシュミレだ。
前ギルマスは、リオとこいつの策で引きずり下ろした。
冒険者ギルドのマスターと副マスになるには、その町の有力者会議である程度の信任を得る必要があるからな。
街の有力者の貴族と協力し、その妻だか妾だかとの密会をでっち上げて不祥事に仕立て上げ信用を落とさせたって訳だ……フィルシュの馬鹿は騒ぎそうだから教えなかったがな。
「いーねェ! 引っ掛かりやすい男のギルマスに今から目を付けとくか!」
「ハハハ、いいでしょう。私も取り入りやすそうな貴族に目星を付けておきますよ」
「……どうしようもない人達……」
「あん?」
「……何もありませんよ、フフ」
ややメリュエルの声のトーンが気に障ったが、まあいい。
暗い笑いを漏らす俺達……。
やっぱ人生は強者の側に立って楽しまねえと、だよなぁ……。
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