リゼリィとの旅立ち~いざとなり街へ

「あの、本当にご迷惑ではありませんでしたか?」

「うん……僕も一人で旅をするのは慣れてないから、心強いよ」


 今、僕達は狐人族の村を後にし、街道を歩いている。

 隣で首をかしげるのはもちろん、あの時助けたリゼリィだ。


 ……うたげの翌日、ダロン族長に必死に弁解したものの、婚約自体は取り下げて貰えなかった。


 だが、あくまで婚約なので、二人の意に添わない場合は無理に式を挙げる必要は無いと言われた……どうやら罰を受けるというのは大袈裟だったらしい。


 その後二、三日歓待かんたいを受け、村に残ることも考えたけれど……僕はどうしても冒険者としての生活が忘れられなかった。


 それで結局、一度隣町のギルドを訪ねてみたいとダロン族長を説得したんだ。


 族長はそんな僕の言葉を予測していたのか、軽い調子でうなずいた。


「好きにすると良いじゃろ。わしの跡継ぎである息子はちゃんと今、族長代理としてこの辺りの亜人族の村々をまとめる会議に出席しておる。何かあったらそ奴に任せればよいし、ムコ殿に急ぎこの集落を率いたりさせることはないというわけじゃ。それよりも……良かったら、わしの孫娘に外の世界を見せてやってくれんか?」


「は、はあ……僕は別に構いませんが、いいのですか? 大事なお孫さんをこんな得体のしれない男に預けて。お金も持っていませんし……」


「ふっふっ……謙遜けんそんされるな。ワイバーンを一撃で殺すほどの魔法を得ている人間が大したことのない人物のはずが無いじゃろう。そしてそれだけでは無く、お主からはどうも英雄になりそうな匂いがすると、わしの勘もささやいておる。何より、孫娘が乗り気じゃからのぅ」


 すると隣にいたリゼリィもブンブンと縦に首を振る。


「は、はい! 私もフィルシュさんに着いて行きたいです! とってもいい人なのは少し一緒にいただけで分かりますし……何より命の恩人ですから少しでも恩返しがしたくて……」

「と、こういうわけじゃ……」

「断ると男がすたりますよ、フィルシュさん」


 こう言ってニッコリ笑うのは、リゼリィの母であるメイアさんだ。

 うう、あっという間に外堀を埋められてしまった。


「……わかりました。お嬢さんの安全は僕が責任を持ってお守りします……」

「……! ありがとうございます、フィルシュさんっ!」


 リゼリィが僕の背中から思いっきり抱き着いて来る。


 あ~、背中が幸せ。

 しかしこの先、僕の理性、ちゃんと持つのかなぁ。


「話は決まったようじゃな……。ではリゼリィ、これは路銀の足しにせい。それとわし……ひ孫楽しみにしておるから」

「おじいさま!」


 ぼそっとそんな事を言う老人にリゼリィは歯を見せて怒鳴る。


 とりあえず、そんなこんながあって……リゼリィを連れ僕は狐人族の村を後にした、という訳なのだった。



「見えて来ましたよ、あの街ですよね!?」


 リゼリィが元気良く指差す先にあるのはクロウィと言う街。レキドより少し規模は小さい。


「うん、久しぶりだな……」

「フィルシュさんの《ヘイスト》のおかげで、あっという間についてしまいましたね。もう少し一緒に景色を楽しみたかったんですけど……」

「まだまだこれから機会はあるよ。それと、さんはいらないよ、なんかくすぐったいし。名前だけで呼んでくれる、リゼリィ?」

「は、はい……わかりました、フィルシュ!」


 面と向かってお互いを名前で呼び合うのは気恥ずかしいけど、すぐに慣れるだろう。


「そういえば、リゼリィは何のスキル持ちなの?」

「私は、《爪技そうぎ》スキルの使い手なんです! えい、えいっ!」


 ジャブを二発と回し蹴りを流れるように披露ひろうして見せた後、彼女はきりっとした顔で微笑む。


 へえ、《爪技そうぎ》か。今は爪系武器を装備していないけど、荷物の中にあるのかな?

 

 獣人は身体能力が優れているというから、スキルもあいまってかなり強いんじゃ無いだろうか。サポートしがいがありそう……って、こんなこと考えてちゃ駄目だな、もう《黒の大鷲》は抜けたんだ。僕も前に出ないと。


「頼りにしてるよ。それじゃ冒険者ギルドに顔を出しに行こう!」

「はい!」


 幸い数カ月やそこらは余裕で暮らせる位のお金をダロン族長は持たせてくれたみたいだけど、あまり彼女にお金を使わせたくは無いし……出来るだけ頑張って稼がないとね。


 ん……?


「――おいっ、とっととずらかんぞっ、もうこんなクソ街りだっ!」

「待ってくだせぇ、荷物が結構重くて……」

「っ……!」


 ドンッ――……。


 そんなこんなで入り口にたどり着いた僕に、逃げるようにして街から出て来た男が後ろ向きにぶつかって来た。


「痛ってえな、あぁん!? 何だ小僧テメェは!!」


 そしてその茶髪の大男は、いきなり居丈高いたけだか恫喝どうかつし、僕のえりをつかみあげたのだった。

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