べいじゅのねこまた
鈴木怜
べいじゅのねこまた
我輩は猫又である。名前は気の遠くなるほどありすぎて逆に忘れた。
どこで生まれたのかもとんと見当がつかない。ただ、いつ生まれたかはそれなりに見当がつく。最古の記憶が人間のいう1934年とかいう時代のものだからだ。
やっとこさ歩けるようになって、ハチ公の銅像にまみえたというのがそれだ。今が2022年であるから、吾輩の年齢は88歳ということになる。
人間は気に入った生き物を銅に変えてしまうのかと恐れおののいたからよく覚えている。
案外、人間という生き物はこの世界で一番獰悪な種族なのかもしれない。
そうしているうちに戦争とやらが始まって、ドンパチうるさくなったから余計にそう感じたのも無理はなかった。しっぽが二本になったのもこのころだ。
しばらくして空よりも世間の方が騒がしくなった。それからは各地の人間の家を転々としている。
道行く人間が口々にベージュのネコチャンなどというのはどうしてか悪い気分ではなかった。あれだけのことがあったというのに、だ。人間がよく飯をくれたからかもしれない。
ただ、吾輩をもてはやすようになった人間は、二本目のしっぽが見えなかったようだ。いじられるしっぽが一本だけだったから間違いないだろう。不可解なものである。
最近、人間という生き物がよくわからないものになってきている。飯と寝床をもとめてうにゃうにゃ練り歩く暮らしにおいて共に提供してくれるやつがちょくちょくいるので獰悪とも感じなくなってきているから余計にそれを感じるばかりだ。愛想程度はいくらでもくれてやるつもりだ。
そんな吾輩だが、近頃は公園で鳩を追っかけまわすのが楽しい。鳩語を話すうちに乱入しては、走って逃げるうちに鳩が「何話してたっけ」という顔になるのが癖になる。
べいじゅのねこまた 鈴木怜 @Day_of_Pleasure
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