出雲茜(2)


それから茜は毎日、帰り際にシグレのいる神社に寄っては他愛ない話をした。隣町から来ているクラスメイトと話したことや、テストで良い点数を取ったこと。球技大会で活躍したこと。宿題を忘れて隼人に見せてもらったこと。茜は、何だか本当の意味での理解者が現れたようで嬉しかった。茜は次第にシグレに心からの信頼を寄せていった。


沢山自分の話をした。苦しい感情は全部吐き出した。シグレは全てを受け止めて笑ってくれた。シグレと茜はお互いの孤独を埋めあっていた。茜の孤独は次第に癒されていくが、それと同時に茜の胸の内に、得体の知れない不安が増大していた。


その不安からは目を背けたまま夏休みに入り、茜はいつものように家を出てシグレの元に行こうとすると、弟の碧に声を掛けられる。


「姉ちゃん、朝早くからどこ行くの?」怪訝そうな顔で尋ねる。


「……神社。美琴のところじゃなくて、森のちかくのとこ」


「……え?ああ、あそこか。でもあそこにお参りしに行っても、もう神様いないよ」


「えっ、どういうこと?」茜は戸惑うと自分の髪を触るくせがある。


「姉ちゃん知らないの?あそこの古い神社、だいぶ前に神様ごと今の神社に移したって、神宮寺さんのおばあちゃんが言ってたよ」


「えっ、でも、シグレは……」


「シグレ?よく分かんないけど、とりあえずその神社には神様はいないよ。もしかしたら動物とかがが住みついているかもしれないけどね」


あまりに唐突に叩きつけられた情報に、理解が追いつかない。シグレがあの神社の神様だというのは嘘だったのか?確かにシグレは自分のことはあまり話さない。シグレは何かを隠しているのか?


シグレは生きている人間では無い、それは間違いないのだ。ならば嘘をつく理由は?そもそもシグレは何者なのか?


真実を自分で確かめよう。そう思い立ってからは早かった。村にいる同級生の一人、神宮寺美琴の家の神社に向かい、美琴に頼んでめぼしい資料を片っ端から漁ると、『水神村怪異記録』と書かれた3冊の本をみつけた。


その3冊の中で一際目を引くのが子供の死亡事件だ。その皮切りとなる事件は■■■年前、双子の■■■■■と■■■■■が死亡した事件だ。当時は■■■■が起こっていたので、■■■■の為■■の方が殺されたが、その直後■■は■■の霊に呪い殺されてしまったらしい。


その後も二、三年周期で二歳以下の子供が怪死する事件が頻発していたが、その事件が止まったのが十六年前に双子の兄が死亡した事件だった。


茜は頭の中で一つの仮説を立てた。突拍子もない話だし、真実である可能性は低い。けれども最も真実であって欲しくない仮説だった。


茜はこの仮説が真実でないことを確かめるため、翌日、十六年前の事件を調べに、村から少し離れたところにある小さな産婦人科に行った。


会話は苦手だが、勇気を出して医師に十六年前の事件について尋ねた。医師は初めは答えることを渋ったが、さらに迫ると詳細を話してくれた。


十六年前の■月■■日、双子の■■■■と■■■■が誕生。しかし兄の■■の方が虚弱であり、生まれてすぐに死亡したという。


「その時、うちの看護師が変なものを見たらしいんだ。今は看護師を辞めて隣町に住んでるんだけど」


「あ、あの、宜しければ看護師の方がどちらにいらっしゃるか、教えていただけないでしょうか」茜はたどたどしい口調で尋ねた。


地図を書いてもらい、茜は隣町へ急いだ。いざという時の行動力には自信があった。


看護師は躊躇いがちにも色々と教えてくれた。トラウマを掘り起こしてしまって申し訳ないが仕方ない。


双子は帝王切開で生まれた。片方が虚弱だったのは恐らく霊的な何かのせいでは無かった。しかし死亡後、彼女は■■の■のようなモヤが■■に■■■■■■■■のが見えたという。最初は見間違いかと思ったが、その直後、一瞬だけ■■■■■■■■。すぐに■■■■■■■■が、その時看護師は■■■で■■■■■■■■幽霊がいるのを見た。


その看護師はすっかり取り乱してしまい、後に神宮寺美琴の父親に事情を聞かれた時には詳細を答えることは出来なかったという。


茜はその話を聞き、疑念が確信に変わる。■■■は■■■■■■■■■■■■■■■■に違いない。そして■■■■に■■■■■■■■■は分からないが、恐らく■■■■の事件がきっかけだろう。


家に帰り、頭の中で情報を整理すると、真実が少しずつ浮かび上がってくる。確かな証拠はない。しかし、茜にはそれが真実であるという確信があった。


ならばちゃんと話して、決着をつけなければ。茜は然るべき場所に向かう。これは■■■との決着でもあり、乗り越えなければならない壁でもあるのだから。


……。


……どうして嘘をついたの?


……違う。私はそれを責めたいんじゃない!


……ちゃんと言って欲しかったの。私たち、もう、友達だと思ってるから。


……そんなことない!私は……。


……。




……ごめん、茜。





あれから私は夢を見ている。夢の中の私は、明るく社交的で、感情豊かで、村の人と親しそうに話して、■■■とも楽しそうに話して、隼人には好意をむけられている。私がなりたかった私が夢の中にいる。


じゃあもう、こんな役立たずな私はいらないな。このままずっと、ずっと、夢の中のままで……。

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