出雲茜(1)
出雲茜は引っ込み思案な少女だ。
人と話す時は常に俯き気味で、感情を表に出すことは少ない。声のトーンは常に暗く、愛想がいいとはとても言えなかった。
茜は幼い頃から霊感があり、常人には見えないものが見えていた。小さい頃は普通の人間との区別がつかないこともあり、周りの人から奇異の目で見られていたことが、茜がこのような性格になった原因かもしれない。虚空に向かって話している茜を心配して、両親に村から遠く離れた病院まで連れていかれたこともある。とにかく過去の茜は周りの人からは関わることを避けられ、遠巻きにされていた。
村には二人の同級生がいた。その一人、宮島隼人は面倒見の良い性格で、人見知りの茜を何かと気にかけてくれていた。茜はそんな隼人にほのかな好意を抱いているが、それを伝えることが出来ないまま10年近くもずるずると引きずっている。
この性格を何とかしたいと思いながらも、なかなか変えられず、鬱屈とした日々を送っていた。
「こんな神社、あったんだ……」
高校生活が始まったばかりのある日。茜は新しいクラスに案の定馴染めず、むしゃくしゃして寄り道して帰っていると、見慣れぬ古い神社にたどり着いた。鬱蒼とした森に取り囲まれており、古びた鳥居と小屋があるのみだ。
「あれれ、珍しい。お客さんかな?」
茜が鳥居をくぐり抜けると、その先で待ち構えていたのは、真っ白な和服を着た、少年とも少女とも取れない中性的な人物だった。茜はこれまでの経験から、その人物がこの世のものでは無いことを直感的に感じ取った。様々な怪奇現象に遭遇したことのある茜は、この程度ではあまり驚かない。
「えっと……」初対面の人に話しかけられると言葉に詰まるのはいつものことだ。
「ごめんね、急に迫っちゃって。ボクはシグレ。ここの神様みたいなものだと思ってくれればいいよ」シグレはどこか冷たさの混じる笑顔でそう言った。
「神様……?」ああ、やっぱりちゃんと話せない。こんな訳の分からない現実離れした相手でも人見知りを発症してしまっている自分に嫌気がさす。
「そうだよ。ボクはここにずっと一人きりで寂しくてね。ボクに気づいてくれてありがとう。良ければキミの名前も教えて欲しいな」
一人きりで寂しい、その言葉を聞いて茜ははっとした。自分と同じだ。幼い頃から霊感はあるし、人と話すことが苦手だったせいで、誰にも理解されてこなかった。そもそも弟以外は霊感があることすら知らない。
こんな辺鄙な神社にずっと一人きりのシグレと比べれば、茜の周りには沢山の人がいる。けれども私のことを本当の意味で理解してくれている人はいないと、茜は気づいていた。そしてそれが茜が理解してもらうことを拒んだからだということも。
「私は……茜。出雲茜」
「へえ、いい名前だ。よろしくね、茜」シグレが差し出してきた細い手を、茜は恐る恐る掴もうとした。すり抜けて掴むことは出来なかったが。
「よ、よろしく」
茜はぎこちなく返事をする。自分の中の何かが変わる予感を感じていた。
これが茜とシグレの最初の出会いだった。
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