手がかり
「相変わらず、落ち着きの無い人ですね」
巫女姿の少女―神宮寺美琴はそう言って俺に笑いかけた。ぼんやりと見える目鼻立ちはかなり整っているが、どちらかと言うと西洋風美人の茜と違って和風美人という印象を受ける。
俺は適当に返事をして取り繕うが、心の中では嵐が吹き荒れていた。
まさか、隼人が今の俺に惚れているとは。俺は告白を受け入れるべきか?いやそもそも元は茜が告白したんだ。なら付き合えて良かったじゃないか。本来なら失恋していたはずが、俺と入れ替わったおかげで成功した。これは茜にとっても文句なしの結果だろう。
頭の中でそう結論づけようとするものの、やはり不安が胸をよぎる。俺と茜が元に戻った時、隼人は茜を好きなままでいるのだろうか?ひょっとするとそのまま茜と別れてしまうなんてことになるかもしれない。そうすれば茜は傷ついてしまう。
どうすればいいんだ。思考は終わりのない螺旋階段のようにぐるぐると回る。
「ちょっと、茜さん!聞いているんですか!?」
いきなり横から投げかけられた覇気のある声に、俺は全動作をフリーズさせた。
「ご、ごめん聞いてなかった」
「この前茜さんが調べていたことですよ。この村の悪霊伝説の資料が見たいってウチ来たじゃないですか」
悪霊、その言葉を聞いて不意にシグレの頼みを思い出した。そうか、茜は美琴の神社でイザヨイについて調べていたのか。俺は一気に現実に引き戻される。なら恋愛沙汰にあれこれ意識を巡らしている暇は無い。今やるべきことはただ一つ。
「あーそれ、その事なんだけど、やっぱりよく分からなかったんだ。その資料、もう一回見せてくれないかな?」
「分かりました。ではこちらへ」
美琴に案内された場所は、本殿の隣にある、古めかしい蔵だった。重い扉を開けると、薄暗い空間に、年季の入った刀や鏡、巻物なんかが無造作に置かれている。
「散らかっててごめんなさい。こちらです」
そう言って俺に渡してきたのは3冊の本だった。その蔵にある他のものと比べると、あまり古さは感じない。特に3冊目はつい最近書かれたようだった。
表紙には、『水神村怪異記録』と墨で書かれている。中身も全て墨で手書きのようだ。
「これ、家に持って帰って貰ってもいいですよ。元々ここに置いておくほど価値のあるものでもありませんし」
「本当?じゃあ、ありがたく借りるよ。ほんと助かった!」
「……あまり無理しないでくださいね」美琴は心配そうに俺を見た。
俺は改めて彼女に礼を言って帰路に着いた。この本からイザヨイの手がかりが掴めるかもしれない。
隼人の一件も、俺が間に入ってしまったからややこしくなったんだ。次に会う前に茜の魂を元に戻せば済む。
俺は目標に一歩近づいたことに、胸を躍らせていた。その先にあるのが、受け入れ難い、目を背けたいような残酷な真実であることも知らずに。
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