俺が茜で




気がつくと、俺は固い土の上に横たわっていた。目の前で、鳥居が夕日に照らされていた。


俺ははっとして、自分の手を見つめた。指の細さと柔らかさから、明らかに女性の手だと分かる。


「まさか」俺はゆっくりと立ち上がり、自分の体を見下ろした。


薄手の白いワンピースに、サンダル。そして俺は、あるはずのものが無くなり、無いはずのものがあることに気づいた。今の俺は俺ではない。間違いなく“出雲茜”だ。


「ほんとに、出雲茜になっちまったのか……」


今までのことは実は全部夢だったのではないか、という淡い期待は、そこで完全に潰えた。俺は海より深いため息をついた後、今後どうするべきかを考える。


とは言っても、まだまだ分からないことだらけだ。俺はどうして体を奪われたのか?シグレは何者で、何のために俺に出雲茜の体を貸したのか?そして出雲茜の魂はどうして傷ついたのか?あの記憶の意味は?


まずは色々とシグレに問い詰めなければ。そう思った瞬間、午後6時を知らせる音楽が鳴り始めた。


うわっ、もうこんな時間か……。色々と謎は多いが、まずは出雲茜の家に帰ることが先決だ。俺は今日から出雲茜として、怪しまれないように生きていかなければならないのだから。シグレを問い詰めるのは、また明日にしよう。


俺は夕日に染まった道を進んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る