第38話 決戦前夜


「さくら、ちょっといい?」


僕はマスターと話したことをすべて彼女に伝えた。

彼女はただ黙って聞いていて、もう取り乱すことはなかった。


「もう、大丈夫。」


彼女は手で涙をぬぐい、真っ赤にはらした目でまっすぐこっちを見つめた。


「もう泣かない!

泣いたってなにも変わらないからね。 それに、君もいる。」



「うん。 ぼくは最後までさくらの傍にいる。約束する。」

ぼくにできることは全部やる。




日は暮れて、僕らは夜の砂浜を並んで歩いた。



「もう、これからやることは

わたしの中では答えは決まってる。」


さくらは空を見上げて、ゆっくりと言葉を選びながら話し始めた。


「私が神の器になった時、迷わず私を止めて。」


「・・・嫌だ! 君を殺すなんて僕はできない!

そんなことをするくらいだったら、さくらと一緒に消えたい!!」


どうすべきかなんて分からなかったが、思わず考えより先に言葉が出てしまった。


「僕にできるわけない・・・ なんで、そんなはっきりと言えるんだよ。」


「私ね、やっぱり人が好きなの。 一度一人ぼっちになったときはあきらめて、

 絶望したけど、 君が手を差し伸べてくれて、マサトさんに出会った。

 孤児院の子どもたち、シホさん、エイシンさん。 チョコちゃん。お師匠さん、

 私には生きていてほしい人がいるの。 そして、イチトくんも。

 君に救ってもらった命だから、大好きな君だから、君のために生きたいの。」


「それにこれ。。。」


さくらはポケットからちいさく折られた色紙を取り出して広げた。


「これは・・?」


「これはね、ほんとに小さいころにもらったらしくて、

引き出しに入ってたの。 これを今日使うね。」


紙を広げると、そこには汚い字で”おたすけけん” と鉛筆で書いてあった。


「私は君と一緒の孤児院で生まれて、両親に引き取られたらしいんだ。

 この紙は、何日か両親が出かけるからって預けられたときにもらったの。」


「ごめん。。。それあんまり覚えてない。」


「そうだよね。お互いちっちゃかったもん。 この前家に行ったときに見つけたの。」


僕は色紙を手に取ってかすかな記憶をたどった。


「君を助けるのがどんな形になっても、きみが望むなら・・・」


「よろしくお願いします。」


さくらは頭を下げた後、にこっと笑った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


横になって休んでいる彼女の髪はさっきよりも白く色を変えていた。

(どんどん変色が早まっている。。。 時間がなさそうだ。)


突如悪寒を感じ、剣を手に添えて膝立ちで構えた。

(なんだ・・・何か来る・・・!!)


ーーーー ドンッ ーーーー


何かが衝突したような大きな音ともに、視線の先には砂埃が舞っていた。



「さくら、逃げるんだ。 早く!!」


砂埃が舞った中心にいた影は、2Mを超える人型に形を変えた。


「ようやく見つけたよ。」

 

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