第37話 真実
――― 朝 ―――
「もしかしたら、これが黒本っていうことなのかな・・・?」
もう黒本なんかないんじゃないかと思っているところ、
僕らの前に身長をゆうに超える巨大な黒の石板が、
島の中心にある森の中に建っていた。
「かもしれない。 魔女文字だ。」
昨日の告白で若干気まずくなっていたが、その石板の存在感に圧倒されたことで、
お互い目的を思い出し、ようやく普通に話せるようになった。
「ねえ。。。読める??」
{ 神が現世に降りるとき、人類を純粋な種とするために再生する。
純粋な種に生まれ変わることは、一度すべてを無にする必要あり。
純粋な種、 すなわち、悪魔となる因子をもたないもの。
我の意思を継ぐもの、すなわち原初の種が、 再生の器を抹消することで、
種の存続が可能である。 リリス }
石板の前にボロボロになったカバンが立てかけられていた。
中を見ると、写真が1枚だけ入っていた。
写っていたのは1組の男女にだった。 その写真の女性は愛おしそうに赤ん坊を抱えていた。
(これは、父さん。 この女の人は誰だ?)
写真を裏返すと手書きで日付と名前が記されていた。
”イチト” ”スズ”
「さくら!?」
石板の前にいたさくらは、急に走り出してしまった。
呼びかけにも振り返らずにいたため、追いかけ、手を取った。
「どうしたの!?」
「ごめんなさい! 私・・・」
手を振りほどこうと暴れる彼女を抑えたとき、
一瞬だが、彼女の目に涙が浮かんでいるのが見えた。
(石板を読み上げてから、急にどうしたんだ・・・)
「・・・嘘だって思いたかったの・・・!!」
「このことは知っていたの??」
僕の問いに彼女はなにも答えず、ただただ俯いてた。
(そんな・・・抹消って 彼女を???)
「大丈夫。ここにいて。 僕がいるから」
彼女を抱きしめて、落ち着かせようとしたが、
泣くのを止めることができなかった。
しばらくして、さくらを落ち着かせたところで
座れそうなところを見つけて、彼女を座らせた。
彼女から少し離れ、僕はポケットに入れていた端末を取り出し、長押しした。
「俺だ。」
端末についていたスピーカーから聞こえたのはマスターの声だった。
「どこまで知っていたんですか?」
「ぜんぶは知らないぞ。」
「じゃあ知ってること、全部話してください。」
「いいのか??」
断る理由なんかなかった。 即答した。
「そうだ。 あの子が再生の器だ。 器は代々銀の髪を持つ。
間違いないだろう。
家系は一切関係ない。 たまたま彼女だっただけだ。
お前が連れてきたとき、すでにその兆候は出ていた。
時が来ると、彼女はただ神の器として自我は消失するのかもしれない。」
僕はこの島にあった石板に書いてる文字をマスターに教えた。
人類の再生が起こること・原初の種が神の器を殺せることを。
「そうか。 つまり俺たち人類はみな悪魔になる因子を遺伝子的に持っている。
それを神が取り除けると。
どっちにしろ、あの子は生きられないのか・・・
このままみな生き延びようと思えば、彼女をお前が殺すしかない。
逆に人類の再生を選ぶなら、今生きている者すべて消えると。」
「悪魔になる因子を取り除くには、今生きている人類を
一度滅ぼす必要があるのは、俺たちが繫栄する種だからだろう。
・・・つまり、政府の狙いはそれか。」
「どういうことです?」
「教団の設立は今の政府が主体となって作った。 それは天使の力を行使して、
悪魔から人々を守るためが表向きの設立の理由だ。
実際は、人類の再生が真の目的だったんだ。
唯一の障害は原初の種だ。 そいつだけが神の器を殺せるからな。
そこで天使の力を行使できる器を把握・管理することで神の器、つまり
再生の器を守ろうとしたんだ。
原初の種が生まれる原因である天使の力を行使できる器と悪魔で子をなすことを
禁忌としたことも同様だ。」
(・・・ミカさんが僕のところに来てたのはそれが目的か。)
「でも、マスターがなぜ再生の器のことを?」
「俺は、 神の器と原初の種を探すことが仕事だったからだ。
そしてイチ、お前がその原初の種だ。」
次々と語られる言葉についていけなくなった。 思考は完全に止まった。
「違います・・・ 僕の母は普通の人です。」
「違う。 みんなは勘違いしていた。
原初の種は天使の力を行使できる器と悪魔の子ではない。
天使の器と、神が最初に創造したとされるリリスの子だ。
その写真の”スズ”というのは俺が追っていた悪魔、リリスだったんだ。」
「でも、僕は・・・」
「お前とともにいた”忍”が、お前がリリスを具現化させたのを見ている。
心当たりあるだろう。特異魔”アバドン”を殺したのはお前じゃない。
その”リリス”だ。
この世界に具現化できるのは悪魔だけだ。 天使は力を付与するだけ
なのが掟だ。」
「・・・」
「俺が知っている情報と、その石板の情報から推察できるのはここまでだ。
イレギュラーだったのは、お前たち2人が出会ったこと・本来死ぬはずだった
あの子が生き残ったことだろう。」
「僕はいったいどうすれば・・・ 彼女、さくらを助けたい・・・」
「どういった形が彼女を助ける形になるかは俺にはわからない。
こんな言い方は酷だが、お前たちが決めるんだ。
この事を俺は口外しない。 どうしろとか強要もしない。」
「マスターはこの島に僕たちを届けたのは・・・なぜ」
「これはもう、俺たちがコントロールできる手を離れた領域の話だ。
だから、当人が選ぶんだ。お前たちがその力を悪用しないことは分かってる。」
「俺が言えることは、
これからお前たちが決めることに、間違いも正解はないということだ。
誰も恨まない。誰も知らないのだからな。」
「そんなこと言われても決められません・・・」
「・・・ただ時間はない。 このことがもう悪魔・政府にばれたようだ。
悪魔と戦争になる。 やつらにとって最後の晩餐というところか・・・」
「戦争って・・・!? 悪魔が来てるんですか?? それに政府!?」
「そうだ。 どうやら内通者がいるようだな。 能力か、それとも・・・
そしてお前を消しにかかるだろう。」
頭が整理できない。
「ともかく! 今お前がすべきことは、惚れた女の願いをかなえてやれ。」
電話は切られた。
ちゃんとさくらと話しあおう。
すべてはそれからだ。
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