第34話 オノゴロ島へと


「あら、起きたね。」

目を覚ますと、知らないて天井が広がっていた。

意識はまだぼんやりとしていて、身体はジンジンと熱い。


「ここは・・?」

「お師匠さんの船の上だよ。」

寝ていたベッドの横に座っていたさくらが答えた。


「そうなのか。 あれ、兄貴は!?」

「えーっと。 お師匠さんと戦ってたんだけど、あの後、逃げて行った。

 誰かと話してたみたい。」


あの場には、僕とソラ君にさくら、マスターと兄貴だけだったはずだ。

誰かいたという認識はなかった。


「あと、君と一緒にいた男の子が言ってたけど、

 ”無事別部隊は任務は完了しました。みんな無事です。”って言ってたよ。

すごくまじめな子だね。」

さくらは敬礼のポーズをして、おそらくソラ君の真似をしているのだろう。

「似てないな。 でも、みんな無事ならよかった。さすがだ。」


穏やかな波の揺れに合わせて船が揺れる。


「あれ? これはどこに向かってるの?」


「お前たちをオノゴロ島に送り届ける。

 そこに”黒本”がある。 それを解読しろ。 いいな、時間はないぞ。」


マスターが部屋に入ってくるなり、僕らに向かって命令して

すぐに出て行った。


「”黒本”って何のこと?」

「よいしょ。 魔女文字で書かれた本のこと。 1冊は僕が持ってるんだけど。

解読できてないんだ。」

ベッドから体を起こし、腰を掛けるように移動した。


「それをどうして君が?」

「読めるんだ。 説明はできないんだけど・・・」 

「君って不思議な人だね。」

「あはは。 でも本当そうかも。」


身体は痛むが、動けないほどじゃなかった。

自分でも不思議なほど、回復が速いと感じた。


甲板に上がり、マスターにお礼を伝えた。

「礼などいらん。 お前はお前の仕事をしろ。

 オノゴロ島へはたどり着けない。だから行けるところまで船を近づけている。

 後はお前の術で島へ直接たどり着け。」


「あの、でも、さくらは連れてけません。 まだ自分しか移動できないので。」

「まだやっていないだけだろう。 あの子の器の形がわかれば問題はずだ。」

なんでこの人はいつも全部知っているんだろう。 

僕が黒本を読めることも。瞬転の仕組みも。


「もう島は見えてきた。 もういけるだろう。」

オノゴロ島は神の島と言われ、周囲の天候が

常に荒れており、海は大きく渦を巻きあらゆるものを飲み込むという。

そのため、人間が近づくことがなく自然のままの形で残っていることから

神が宿ると言い伝えがあった。


「・・・わかりました。」

「解読出来たら、こいつで船を呼べ。」

ボタンが一つだけついた簡素な小さな機械を手渡された。 


「さくら、手を。」

僕よりも一回り小さい手を取り、魂の器の大きさを感じ取る。

「よし、準備はいい?」

「うん。いつでもいいよ。」


「イチ、さくら。 ここからはお前たちが自分で選び、生きていけ。

 もう俺からは指示は出さない。 ただ、なにかあればさっきの機械長押ししろ。

 俺につながる。」


「「ありがとうございます。 行ってきます。」」




―― 固有霊術 “瞬転” ――


移動し目を開けると、キラキラ光った海が目の前に広がっていた。

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