第32話 轟魔


頭上に浮かんだ魔法陣から紫がかった無数の腕が兄を包み込んでいく。

(最悪だ・・・ 自分から悪魔に喰われるなんて。)


「がああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

姿は見えないが断末魔が洞窟内に響き渡る。

これが悪魔になるということなのだろうか。 いつもクールな兄からは想像できないほどに苦しんでいるみたいだ。


「はあっ、はあっ、はあっ。」

数分後、魔法陣から伸びていた腕はすべて肉体に取り込まれ、

全身が見えるようになった。


「あああ、力が溢れる。 これが人が持たざる力か。

 お前たちはこの力を持っていたのか。 ハハハハハハハハハハッ!!」


外見はさほど変わってはないが、声はかすれ禍々しいオーラを纏っている。


「これでお前も戦う理由ができたな。 さあ、俺を殺してみろ!!!」



―――― 咆哮溶岩砕 ――――

大剣を振るうことで斬撃がマグマを纏い、こちらに一直線に向かってくる。

(やるしかないのか・・・!)


―― 翼閃 ――

マグマと飛ばした斬撃がぶつかり合い、周囲を靄が包みこんだ。


―― 固有霊術 “瞬転” ――

「はああああ!!」

背後に回り込み、剣を振り下ろし背中をえぐった。


「効かねえええよ!!!」

首を鷲掴みにされ、頭突きをされる。 鈍い痛みに思わず目をつむり、自分で視界を遮ってしまう。(まずい、意識が・・・)


―――― 業火殴砕 ――――


「がはあっっ!」

マグマを纏った左ストレートが頬骨を砕き、そのまま数メートル後ろまで吹き飛ばされた。


まだやれると自分に言い聞かせて、何とか剣を杖にして立ち上がる。

力を右手に持った剣に溜めて、前から後ろへ大きく振り払った。


―――― 鳳翼天檄 ――――

剣から輝白色の鳳凰を具現化させ、右手を振るい突進させる。

「はあああああああ!!」


「受けてやる!!!!」

―――― 咆哮溶岩砕 ――――


マグマを纏った斬撃は、僕の技の飲み込みまともにくらってしまった。

(身体の内側が熱い・・・  くそ、力の差がこんなにあるのか・・・)



「お前は力を持っているのに弱いな。 自分をみじめに思わないか?」

憐みの目をこちらに向けてるのは、見なくても分かった。


「俺ならうまくやれる・・・!  なんでいつもお前なんだ!!!」




「そんなの知らないよ。 

 でも、力はただの力だ! そんなものがなくても強かった、

 カッコよかった人を僕は知ってる!」 


「それに、こんなはずじゃなかったとか、

僕がなりたかったのはこんな奴じゃなかったとか自分が一番分かってるよ!!

もやもやして、情けなくなってうずくまって落ち込んで・・・

でも、それは僕だけじゃない! みんなそうだ! 兄貴も!!


苦しくてもひとりじゃない!  負けれない!

絶望を超えるほどの喜びや人が持つ暖かさがあると信じてるから!」


「そうか、お前とは考え方が違うな。 残念だよ。」


周囲の温度が一気にピリッ冷たくなるのを感じ、

たじろぐような圧を受ける。

大剣が赤黒く発光し、禍々しいオーラを纏った。


「・・・負けない!」

―――― 絶壊 ――――


突進し、首をめがけて抜刀する。

届くと確信した攻撃は、兄貴の大剣の横振りで攻撃は当たることなく、

気づくと僕は地面に転がされていた。


(負けたのか・・・ また。)


「さよならだ、 イチ。」


―――― 業火殴砕 ――――

マグマを纏った左ストレートは、白い光に弾かれた。

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