第31話 霊鬼洞の戦い
「待ってたって・・・? どういうこと?」
兄貴がここにいた理由すらわからないのに、待ってるとは全く見当がつかなかった。
「お前はいつも俺の後ろについてきてたな。
孤児院の中でも、退魔師になったのも。 どんくさくて、すぐ泣くせに。
お前はずっとあの田舎にいればよかったんだよ。 向いてないだろ。」
ぴりついた雰囲気に少しだけ隙間風が吹いた。
「まあ、そうかもね。 でも、もう決めたことだから。」
僕の回答に少しだけむっとしたように感じた。
(あれ、地雷踏んだかな・・??)
「ねえ、そんなことはいいから戻ろうよ。」
「いや・・・俺は、お前とは一緒に行かねえよ。」
突き放したような言い方だった。
なにかしてしまったかなとぐるぐると頭をフル回転させるも、
全く思い当たることがなかった。
「イチ。 お前は何とも思わないのか。 俺たちは命を懸けて守っている奴らは、
本当に守る価値があるのかと。
いてもいなくてもいい奴らだ。 悪魔の餌になるのがオチだ。
俺たちがいくら守っても、悪魔は消えず、人間は喰われる。
俺たちはいつも奪われる側だ。」
その言葉に否定はできなかった。そう思ったことが僕もあったからだ。
「ただ、俺にもっと力があれば、親父が継いでた天使の力も、
お前じゃなく、俺が引き継いでいれば、
こんなことも思わずに済んだかもしれない。
救えなかった命も救えたかもしれない。」
言葉の節々に憎しみがこもってるうような気を感じる。
天使の力を行使できる力は一子相伝だ。 兄貴と僕がともに持つことはできない。
そのことで兄貴には少し気を遣っていたから、かける言葉が出てこなかった。
「もううんざりなんだよな。
俺が欲しいものは何も手に入れられない。
こんなくそったれな世界には。 」
そう言うと、兄貴は背中に背負っていた身長くらいある大剣を持ち上げ、地面に突きたてた。
「俺が救えなかった命が俺を、責めるんだ・・・毎日毎日。
だからもう俺は奪う側に回る。
もう希望は持たない・・・! 絶望でしかない。 じゃあな。」
洞窟内の急に空気が全部入れ替わったように、異様な雰囲気を包んだ。
次の瞬間には、兄貴の大剣の一振りをジャンプして躱していた。
「わかんないよ・・! なんで!!」
「わかってもらおうと思ってねえよ!」
「援護します!!」
後ろにいたソラ君が兄貴に向かっていくも、攻撃を躱され服をつかまれ
遠くの岩に強く叩きつけられた。
「やめろよ!!」
―― ガキイイイッッッッ!! ――
容赦ない攻撃に思わず剣を抜き、お互いの剣がぶつかりあった。
「なんでこんなこと・・・!」
「お前にはわからないだろ! 選ばれなかったヤツの気持ちが!」
―― 憑依転霊 ――
(身体能力を底上げしないと、兄貴の動きについていけない・・・!)
大剣ということを忘れてしまうほど動きが速く、こちらの動きに余裕をもってついてこられる。
「肉体強化の術か! それくらい常時できていないと俺は殺せないぞ!」
「殺すわけないないだろ!!」
大剣を躱すのに、精一杯で攻撃に転じることができない。
(やっぱり強い! 力の差がこんなにも・・・!)
「しまった・・・!」
左腕の振りに合わせて打ち出された分銅鎖に左足をからめとられた。
―― 固有霊術 “瞬転” ――
引き寄せられる途中で、術を使い離れた位置に移動することで、攻撃を回避できた。
「親父が使っていた技だな。 使えない俺への当てつけか?」
「そんなの、違うよ・・・!」
「噓つけよ!!!!」
分銅鎖の投擲をスライディングで躱して、一気に近づく。
(至近距離なら・・・!)
「遅えよおおお!」
「うぐぅ!」
強烈な前蹴りを腹部に受けると同時に、腰に差していた剣の鞘を振りぬき、
兄貴の脇腹に直撃させる。
―― 固有霊術 “瞬転” ――
(いったん距離を取って・・・!)
―― ガンッ!! ――
瞬間移動した先に兄貴の分銅を頭部に受け、血がドロドロと流れ落ちた。
「痛・・・ 久しぶりに会ってこれとか、いくら何でもやりすぎだ。」
「本気で来いよ。」
「戦う理由がないよ。さっきのボディはソラ君をぶん投げた分のお返しだ。
それに兄貴は悪魔じゃない。」
「理由がないと戦えないのか・・・ じゃあくれてやる。」
そうつぶやくと手の甲を剣に沿わせ、血を流すと
頭上に魔法陣が浮かび上がった。
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