第30話 兄弟
ずぶ濡れになった服を叩いて、水気を落とした。
どうだったかというソラ君の問いは後回しにし、
教団関係者を集めて作戦会議を開いた。
「なら、あたしとエルが”離反者が生んだもの”をやる。 あんたは兄貴の救出任務を続けて。」
「そんなのだめだ! 危険だよ!」
「問題ないわ、あたし達だけでやれる。」
そう言うと、アリスとエルは装備準備しだしてしまった。
甲板に上ろうとしたアリスを呼び止めると、
こちらに近づいき、ため息をついた。
「しつこい。」
彼女は再び甲板に向かう階段の上がっていき、あと数段に差し掛かった直前、こちらに振り返った。
「あーもー!!あんたにとってたった1人の家族なんでしょ!?
早く助けに行きなさいよ!!」
確かにアリスの言う通り兄貴はたった1人の家族だ。
アリスにそこまで言われたら、もう腹を括るしかなかった。
「分かった。ありがとうアリス。
でも、1つだけ約束。 死なないで。」
「ふん、あたしがやられるわけないでしょ!」
そう言うとすぐに彼女の姿は見えなくなった。
「・・・・あんたも、死んだらゆるさないから!」
最後にひょこっと顔を出したアリスが吐き捨てるように言ってくれた。
「うん、約束。」
船はアリス・エルの近くで待機。僕とソラ君と船員一人で緊急用のサブボートで
迂回して、目的地の島へ向かうように船員に伝えた。
「救難信号はあの島から送られてます。”離反者が生んだもの”もあそこから生まれたような進路になってますね。」
たしかにソラ君の言う通りだった。
目的地の島と”離反者が生んだもの”と僕らが出港した国は一直線になっている。
(あの島にほんとに兄貴がいるのか・・・?)
”離反者が生んだもの”をアリスたちに任せ、僕たちはサブボートで救難信号
の発生地点となる小島に向かった。
僕らはボートは船員に任せ、島に降り立った。
ただ島というにはほとんどが岩場で、草木が枯れてしまっており、ハゲ山になりかけてた。
「ここ、中に入れそうです。」
ソラ君が指をさした場所は、岩々が空洞を作って、洞窟のようになっていた。
日の光が入らず、昼でも薄暗くなっている1本道の洞窟を僕らは進んだ。
中は肌寒く、地面も岩のごつごつで歩きづらかった。
救難信号は誤報だったのではないのかなあ、と思っていたところで、
開けたところに出てきた。
「ここが島の反対側かな? 誰もいないね。」
「たしかにここから信号は出ているのですが・・・」
2人で見渡していると、奥のより一層暗くなっているところから足音がした。
緊張が走る中、暗闇から出てきたのは久しぶりに見た顔だった。
「久しぶりだな。 イチ。」
顔を合わせて話すのなんか何年ぶりだろう。 孤児院では毎日一緒にいたが、
今ではすっかり遠く、気まずく感じる。
目にかかる程度に整えられた特徴的な銀髪に、長い脚。
ポケットに手を入れる癖は変わってなかった。
「うん、そうだね。 でもこんなところで何してたの・・・?」
「・・・俺は、お前を待ってた。」
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