第28話 甲板にて
甲板に出ると、外は少しだけ明るく、心地良い風が吹いていた。
すーーっと深呼吸すると、潮の香りが鼻をくすぐった。
「なになにー? 緊張してるのー?」
後ろからアリスがにやにやしながら、こちらに近づいてきた。
「うーん、最近まですっごく緊張しいだったけど、不思議と落ち着いてる。」
「なにかっこつけてんのよ。きっくきっく。」
アリスは隣に立って、蹴るふりをして僕をいぢった。
「あんたもほんとに変わってるね。」
海の方を向いて、アリスは独り言のようにつぶやいた。
「え? そどうして?」
「だってあんた、私とこうやって普通に話すんだよ。 私は同期でしゃべるのは
あんたとエルだけ。」
確かに、言われると教団での訓練時代に、アリスはあんまりみんなと和気あいあいとしてた記憶はなかった。
「うーん、やっぱり指令官の娘って言うことがあるから、みんな遠慮してるところがあったのかもね。」
「まったく、ほんとにダメね。 だから全員辞めていくのよ。」
「まあまあ。 やっぱり厳しいし、家系とかのやっかみとかあるし・・・
それに死と隣り合わせだからね。 だからこそ、アリスとこうやって再会できてよかったよ。」
波の音がBGMになって、任務中とは思えない穏やかな空気が流れた。
「・・・なんであんたは平気なのよ。」
「え?」
「だから、あたし、エルとしゃべるのがなんで平気なのってことよ!」
海を向いたままアリスは声を大にして聞いてきた。
「平気?? いや、そんなこと気にしたことないって。 当たり前のことだよ。」
「だって、あんただけは私に普通に話しかけてきたじゃないの!」
気づくとアリスは隣でがちゃがちゃと身振り手振りが大きくなっていた。
「話すのは普通だって! まあしいて言うなら兄弟関係とか親とか、
ちょっと境遇が似てるかなくらいで。」
「・・・・それであんたとあたしがどう似てるっていうのよ!!」
「ふぐぅ・・!」
ほんとに腹にけりを入れられた。
「すぐ暴力振るんだから・・・」
「あんたが適当なこと言うからよ!!」
(相変わらず冗談とか通じないなあ・・・ 痛いし。)
「お2人とも、いちゃいちゃしてるところすみません。
船長が確認してほしいことがあるとのことで読んでます。 来ていただけますか?」
後ろからアリスと一緒にいた忍の女性が呼びに来ていた。
「いちゃついてない!」
2人同時に叫んだ後、僕らは船長がいる船室に向かった。
「なあ、あれはなんだ。 あんたらなんか知っているか?」
船室に入るなり、双眼鏡を覗いている船長さんがつぶやいた。
「なにか見えたんですか?」
僕も双眼鏡をのぞき込むと、そこには小さい島に見えるような巨大な物体が、
うごめいていた。
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