第26話 ”起源の種”と”再生の器”

「さて、私もこの島からおさらばしようかしらね。」

「あの、渚さん!!」

部屋を出かかったところを呼び止めて、気になっていたことを打ち上げた。

「この任務の開始したときあやしいと言ってましたが、知ってたんですか?」

僕の質問に背を向けて語り始めた。


「・・・この島で最後に犠牲になったの子は、私の友達だったんだ。

いい子でさ、お酒好が好きで、旅行が好きで。 この仕事についてからは忙しくてあんまり会えてなかったんだけど。

前にこの島に旅行行くってメールもらってて。 それでさ。」

渚さんはいつもの明るい声色ではなくなっていた。


「彼を許すんですか・・・?」

「許す、許さないじゃないかな。 あいつを殺したことろで彼女が戻ってくるわけじゃないから。 憎いけど・・・

そう思えば思うほど、悪魔が私にささやくんだ。 ”あいつを殺せ”と。

でも、私が悪魔になってあいつを殺しても誰も喜ばない。それを分かってるから。

あの子のためにできることは、悪魔を祓いこの事件を解決すること。」


「心が強いですね。 人を守るために命がけで戦っているのに・・・」

言葉に詰まると、渚さんはこちらに振り返った。

「最初からそうだったわけじゃないよ。 人間である以上、完璧な善人なんていないと思うの。 私たち人間は弱いから、私はその味方でいてあげたいの。」

「味方・・・」

渚さんは僕の方へ近づいて、くしゃくしゃと頭を撫でて引き寄せた。

「いっぱい迷って、いつか自分の中で戦う答えを見つけなさい。

正解なんてないし、君が決めればいいの。」


人を守る・あの夜の悪魔を倒すために戦うと決めたはずなのに、最近の出来事で少しだけ迷っていた。 すべての人は、自分の命を懸けてまで守る価値があるのかと。

ただ、渚さんの言葉に改めて戦う理由を再確認できた気がした。


「ありがとうございます! 頑張ります!!」

「うん、頑張って。 いつでも力になるからね。」

そう言って渚さんは手を振って部屋を出て行った。



「お別れのあいさつは終わりましたか??」

渚さんが出て行ったあと、ソラ君に連絡しようとケータイを取り出そうとしたとき、

ミカさんが部屋に入ってきた。


「はい、ミカさんは忘れ物ですか??」

彼女はこちらの問いかけに応じず、そのまま息のかかりそうな距離まで顔を近づけてきた。


「あ、あのミカさん・・・!?」

「あなた、ウィッチグリフが読めるのですわよね?」

ドキドキと高鳴っていた心臓は、その質問で止まったかのように静かになった。

「・・・ウィッチグリフ???」

「この国でいうところでの魔女文字ですわ。 昔から壁画とかに書かれているのが見つかっていますが、情報が少なすぎて解読できていない言語だといわれてますの。」


「そうなんですね、 あのすみません。 ぼく、そもそもそれがわかっていないので読めるも何もないです・・・」

近づけられた顔を背けて答えた。

「では、この本に見覚えはありますか?」


彼女は後ろに組んでいた手をほどき、一冊の真っ黒い本を僕に差し出した。

(あれ、これって・・・・?)

その時、眠ってた記憶が掘り起こされたかのようにある夜のことを思い出した。

「これはヤマトさんの部屋にあった本・・・?」

ページをペラペラとめくりながら、彼女は僕から距離を取るように後ろ歩きした。


「正確に言うと、違いますわね、この本はあなたのお父さまが持っていたものですわ。」

その言葉に思わず耳を疑った。

(父さんが・・・? この本を??)

「私が預かっていましたので、これお返しいたします。」

差し出された本を受け取り、表紙をめくると、あの夜見た本と同じような文字が並んでおり、目で見た文字が当たり前のように頭の中で訳された。


「始まりとか・・・これは起源っていうのかな。 あと、種。 ”起源の種”

 それと生まれ変わり・・・ 器。 ”再生の器”・・・

んー。 何のことだがさっぱりですね。 そもそもほんとにあってるのかわからないですし。  でもどうしてミカさんが??  あれ?」


顔を上げると、さっきまでそこにいたはずの彼女の姿はなかった。

部屋をでて呼びかけるも、見つかることはなかった。

(どこ行ったんだろ。 それにしても不思議な人だな。)



ーーーーブーブーーーーー

事情聴取していた城を出たところでケータイが鳴った。

「もしもし、空港でお待ちしておりますので。」

「あ、ソラ君か。うん、今から帰るよ。」

(この本はとりあえず持ち歩いておくか。 まずは帰ろう。疲れちゃった。)

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